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ダンジョンに面した政府管轄地区にある探検者ブースの登録記録窓口で探検者登録を済ませれば、10歳からダンジョンに入る事ができた。
ただし15歳になるまではあくまでも探検者見習いだ。
だから当然それまでは難易度が低い薬草ダンジョンにしか入れない。
探検者ブースには登録記録窓口の他に、ダンジョンで入手したドロップ品や素材を買い取ってくれる買取窓口に、買い取ったドロップ品や素材を売る窓口と、各ダンジョンの情報をくれたり探検者の相談にのってくれる窓口の4つがあった。
「おはようございます」
ロザリアンヌは今日も元気に登録記録窓口で挨拶をすると、探検者カードを提示して入ダン手続きをする。
まず初めにこの窓口で入ダン手続きを済ませて許可を貰わないとダンジョンには入れない。
そして帰りの退ダン手続きの際に、どのダンジョンでどんな活動をしたかの記録を探検者カードにある魔石に記録させる。
ダンジョン内で採取した素材の内容や討伐した魔物の種類等の行動内容が事細かにカードにある魔石に記録された。
同時にその内容がポイントとして計上され、各種ポイントの上昇具合や総合ポイント数などの規定から探検者レベルが判断されるシステムになっている。
そのレベルはS~Hまで9段階あり、そのまま挑める9つのダンジョンとも連動していた。
よってロザリアンヌの探検者ランクはHランクだ。
それから犯罪行為や規約に反した行動を取るとポイントはマイナスされ、あまりにも目に余ると探検者の登録を抹消される事もあるそうだ。
そして探検者カードに記録される内容は職員であっても外部に漏らす事は禁止されていた。
カードに記される探検者個人のステータスは名前と登録番号とランクだけなので、本人が公表しない限りはレベルやスキルといったステータスは他人に知られる事は無かった。
もっとも大概の探検者は探検者レベルが上がると、自分のレベルも一緒に公表し自慢する人が多いので、多分ロザリアンヌの様に敢えてステータスを隠している者は少ないと思われる。
「今日もいつもの所?」
登録記録窓口ですっかり顔なじみになったマリーさんが声を掛けてくれる。
「今日はボス部屋に挑戦してみようかと思ってます」
声を潜める様にしてロザリアンヌはマリーに答える。
「ボス部屋って階層ボスの部屋よね、ロザリーならもう大丈夫だとは思うけど、油断はしないようにね」
ボス部屋とは階層ごとにある階層ボスの部屋と最深部のダンジョンボスの部屋と2種類あるが、ロザリアンヌが今日挑むのはその中でも最低ランクと言われる薬草ダンジョンの1階層ボスだ。
祖母である師匠は、ロザリアンヌがポーションの材料となる薬草を摘みにダンジョンへ通っていると思っている。
そして周りの探検者達も一人でダンジョンに入るロザリアンヌを、同じ様に師匠の手伝い偉いねと言った温かい目で見ている。
それもあってマリーはロザリアンヌのレベルなどは知ってはいても、階層ボスとはいえボスに挑むロザリアンヌを一応心配してくれたのだ。
「はい、気を付けます」
ロザリアンヌはマリーに明るく返し探検者カードを受け取ると窓口を離れ、薬草ダンジョンのある塔へと向かう。
薬草ダンジョンももっと上層だと貴重な素材も採取できるので多少人気はあるが、ロザリアンヌの入る浅い階層は探検者になりたての人が取り敢えずレベルを上げる為に入るか、薬草採取自体が目的でもない限り入らないので、まったく待つ事無く周回できた。
ロザリアンヌはそんな浅い階層にここ3カ月近く毎日入り続け、そこに現れる最弱のスライムを既に5000匹倒している。
1回の攻略で10匹~12匹倒し、1日に5~6回の周回を繰り返した。
普通スライムをそんなに念入りに倒す冒険者はいない。
何故ならレベルが2か3に上がってしまえば、次のネズミ系やラビット系の魔物の方がレベルも上げ易いし、ドロップ品での利益も上がるからだ。
しかしロザリアンヌにはそんな事は関係なく確固とした目的があった。
本来なら薬草を採取するだけでダンジョンを出る事もできるのだが、ロザリアンヌは今はできるだけレベルを上げたかった。
何故なら15歳になり本格的に探検者として活動を始めるまでにできるだけステータスを上げ、いわゆる強くてニューゲームを始めるつもりでいるからだ。
それに錬金術師としての腕を上げる為にも、ステータスの上昇は必須だった。
実際にゲーム内では魔法学校に在籍していた5年間でステータスをMAXにできたのだ、今なら見習いが外れるまでに同じく5年ある、その攻略法もコツもすべて思い出している。
探検者見習い扱いでは上級や中級ランクダンジョンに挑むのは無理だろうが、それまでにやれる事は沢山ある筈だとロザリアンヌは意気込んでいた。
まずはこれから挑むボス部屋にある隠し部屋の宝箱から、成長速度3倍と言う有難い効果が付与された指輪を手に入れ、ボスのレアドロップである攻撃力2倍と言うこれまた有難い効果が付与された短剣を手に入れる為、今日は短剣をドロップするまで周回する気でいた。
この2つが揃えば、取り敢えず薬草ダンジョンの全階層を攻略をしている間にレベルもそこそこ上がり、この先のダンジョン攻略でそうそう手こずる事も無くなると考えている。
ロザリアンヌはボス部屋出入り口にある魔晶石に探検者カードを翳し、ボス部屋へと転移する。
転移した先は半径15mはあるだろう円形の空間で、その中央に自分の背丈ほどもある大きなスライムが鎮座し、その身体をふよふよと揺らしていた。
ココのボスはレベルの低い階層のボスなので、積極的な攻撃は仕掛けて来ないが、弱点となっている核があちこち動くので、身体が大きい分正確に核を捉えて攻撃するのが難しかった。
しかしロザリアンヌはその対策としてスライムを5000体倒し、スライムスレイヤーと言う称号を得たのだ。
この称号の効果はスライムに対して攻撃力1.5倍、ドロップ率3割増の効果だけでなく、核への命中率100%と言う有難い効果も発動する。
なので相手がどんなに大きなスライムだろうと、ロザリアンヌが自作の杖を振るうと核の方が自発的に殴られに来ている様な感覚でその攻撃は核に見事に命中する。
そしてロザリアンヌの拳大程あった核にはヒビが入り2度ほど殴った所で粉砕した。
スライムの有難い所は、核を壊しさえすれば倒れてくれると言う点だ。
そこにレベルの違いや攻撃力の違いはあまり関係ない。
これでこの先にも現れる数多の種類のスライムも私の敵ではなくなった。
ロザリアンヌはそんな事を考えながらドロップを待つが、やはり1回では短剣は出てくれそうもなかった。
「レアドロップって言うだけはあるわね」
しかし30回も周回すれば出るだろう事はすでに経験済みなので焦ってはいない。
そして急いで隠し部屋を探しあて宝箱の中から目的の指輪を手に入れると、巨大スライムが居なくなった後に現れる転移陣に乗ってさっさとボス部屋を後にする。
ゲーム内では主人公がボスに一人で挑むと、隠し部屋の存在が明らかにされた。
今回私は主人公では無いのでそういうエフェクトやイベントは起きなかったが、隠し部屋の場所を既に知っている私に隠しようが無いのだ。
だって簡単な隠蔽しかされていないし、ボス部屋に隠し部屋がある事実を多分他の誰も知らないのだから。
この先このゲームの世界に主人公が現れ、一人でボスに挑む事があったならこの指輪はどうなるんだろう?
少しだけ罪悪感を伴った疑問を持ったが、きっとゲームの強制力で再度出現すると信じてロザリアンヌは考えるのを止めた。
そうしてロザリアンヌは周回回数21回目で無事短剣も手に入れ、今日のダンジョン攻略を終わりにしたのだった。