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レヴィアスの対戦相手はやはり魔術師タイプのエルフだったが、キラルの対戦相手とは違い高位魔法の使い手らしく開戦直後やたらと大きな魔力を収束させ始めた。
しかしその魔法の発動をレヴィアスが大人しく待つ訳もなく、無言でエルフを睨めつけ闇魔法を放ち魔法の発動を悉く妨害していた。
やがて高位魔法の発動を諦めたのか、発動の早い魔法で手数を増やすがやはり悉く防いでいく。
「ただ妨害しているだけでは勝敗はつかんぞ」
レヴィアスが攻撃しない事に余裕を見せていたエルフは徐々に苦し気な表情を浮かべ、やがて突然パタリと倒れた。
最近ロザリアンヌも覚えた闇魔法の一つ、相手のHPやMPを奪い取るというとても厄介な魔法を使ったのだろう。
奪い取る量はある程度調整でき、相手に気付かれる事無く弱らせる事も可能なので、使われた方としたらたまったものじゃない。
途中まで勝った気で余裕だったエルフも、今は起き上がる事も儘ならず息を荒くしている。
「勝負あったな」
レヴィアスは倒れ込んでいるエルフに余裕の笑みを見せていた。
「最後は儂じゃのぉ。お嬢さん」
そう言って前に出たのは銀髪をポニーテールの様にきっちり縛り上げ、深い顔の皺と顎髭が仙人を彷彿とさせ、見事な均整の取れた筋肉を持った老エルフだった。
見た感じどこかのハンター協会の会長を思わせ、その強さはオーラの色からも伝わってくる。
「よろしくお願いします」
ロザリアンヌは頭を下げながらどう戦おうかと考えていた。
接近戦になったらロザリアンヌには圧倒的に不利だ。
何しろロザリアンヌは短剣で一撃できるような弱い相手でしか接近戦の経験が無い。
かと言って先程のエルフとレヴィアスの対戦ではないが、遠距離からの魔法の発動を悠長に許してくれそうにも思えない。
(まぁなるようになるか)
「では行きますぞ」
その言葉が合図となり、仙人エルフのオーラが一気に膨れ上がった。
ロザリアンヌは仙人エルフの一気に詰め寄って来ての素手での殴り攻撃や蹴りを結界で悉く防ぎ、魔法の発動に意識を集中させ上空に待機させる。
同時混合発動の上級ワザとでも言うのだろうか、意識を失わない限り魔法の発動を待機させるという練習を試みていた。
片方の手で発動した魔法を待機させ、もう片方の手では普通に魔法を発動させるというもので、どちらにも意識を集中させるのがなかなか難しかったが、発動させる魔法が使い慣れたものならどうにかできる様になっていた。
もっとも常時発動させる方の魔法は下級魔法しか使えないのが今のところの難点だ。
以前から考えていた技ではあったが、なかなか使い処も無くぶっつけ本番で使ってみる事にした。
相手の身体に触れられるチャンスを狙い、発動が早い下級魔法を直接身体に打ち込み上空に待機させた魔法に気付かれない様に意識を削いでいく。
雷魔法が何回か入った時に少しの間だけ仙人エルフが硬直したのを感じ、エルフにデバフが有効だと悟ってからは闇魔法と雷魔法でデバフ攻撃に徹底する。
幻惑、魅了、麻痺どれか一つでもしっかり入ってくれればと願っていると、いきなり距離を取られた。
「なかなかやりますなぁ。お嬢さん。それでは私も本気を出させていただきましょう」
(えっ、まだ本気じゃなかったの?)
そんな事を考えながらロザリアンヌは上空に待機させていたシャイニングレインが一気に降り注ぐのを見ていた。
仙人エルフは悠長にセリフを吐き終わり、オーラをさらに膨らませ始めていた所にドスドスドスドスと重低音を響かせ凄い速さで光の槍が次々と広範囲に突き刺さっていく。
ロザリアンヌは仙人エルフが距離を取った所で発動させていたので、仙人エルフが気付いた時には対処が遅れたのだろう。
しかしそれで勝てるとは思っていないロザリアンヌは、さらにファイヤートルネードを発動させる。
激しい炎を纏った竜巻が仙人エルフの身体を確実に巻き込むと、仙人エルフのオーラが萎んで行くのを感じ、ロザリアンヌは慌てて魔法を解除した。
相手は魔物ではないのでうっかりにでも死なせてしまってはと考えたのだ。
「ふぉふぉふぉ、魔法の発動の速さには心底驚きましたぞ。これは私の負けの様ですな」
魔法が消え姿を現した仙人エルフにはまだまだ余裕がある様に見えたが、何故か突然負けを宣言した。
「他の方々が納得しないのではないですか?」
「いやいや、今の戦闘を見て異議を唱える者が居るとは思えませんな。こちらの攻撃が悉く防がれている時点で勝ち目がない上にあの魔法の威力と発動の速さ。たとえ持久戦に持ち込んでもお嬢さんの魔力量には敵いませんぞ」
仙人エルフがそうは言うが、ロザリアンヌには勝てたという実感がまったく湧かなかった。
「それで納得したのだな?」
「私達の完敗じゃ。約束通りこの守護木と精霊様の扱いはおぬしらに任せたい」
「おぬしでもお嬢さんでもないわ。私はロザリアンヌ。そしてこの子がキラルでレヴィアスとジュードよ」
ロザリアンヌは仙人エルフに自分達の名前を名乗る。
「それは失礼したのぉロザリアンヌ。改めて言うが、守護木と精霊様をよろしく頼む」
「えっと、私達はここを守る気は無いわよ。私達には他にやる事があるのよ。だから結界を張り直すのは協力するけど、ここをどうするかは今まで通り長老さん方が考えてください」
多分だがロザリアンヌの考えでは、今まではあれだけの結界を維持するのはできていたのだろうが、新しく張り直すとなるときっと難しいのだろう。
だから結界を破られ無くした今、その対策をロザリアンヌに押付け様としているのだと考えていた。
「あの結界を新たに張り直せるというのか?あの結界は精霊様が本来の力を取り戻さなくては絶対に無理なものなのだぞ。今の精霊様の力では到底無理な話だ。信じられん……」
「そんな事だと思ったわ。でも要するに出入り制限をした結界に幻惑を掛ければ良いのでしょう?同じ様な結界なら私にも張れるわ。任せて!」
ロザリアンヌは簡単に請け負ったが、守護木を中心にしたあの広範囲の結界を張った経験はまだ無いので、実際にどの位の魔力を使うのか予測ができない事が不安ではあった。
しかし結界を破った責任もあるし、この守護木と精霊を守りたいという思いは確かにある。
だから絶対にやるしかないと心を決めていた。




