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ロザリアンヌがエルフ達が住む里に殴り込みを掛け、ロザリアンヌの抱いた≪何故?≫を突きつけようかと考えていると、エルフの方から姿を現す気になった様でその気配を感じていた。
ロザリアンヌ達に負けぬスピードで四方向から駆け付けて来る四人のエルフの気配に一瞬警戒をするが、攻撃を仕掛けてくる気は無い様で同じ場所に集まった。
多分結界を守っていた長老達だろう事はその気配や姿からも一目瞭然だった。
「私達の作業が終わるのを待っていた様だな」
レヴィアスが目の前に佇むエルフに挑発的に言葉を発する。
「我らの守護木と精霊様の為の様でしたからのぉ。ふぉふぉ」
「様子は見せていただいていましたぞ。守護木も元気になった様で有難く思います」
「ご存じの通りこの地は禁制地区、そもそも精霊様の守護を受けた一部のエルフにしか入れない土地でしたのに、その地に入れたという事自体が物語る事実は受け入れねばなりません」
「結界を壊したから入れたのかもよ~」
キラルも四長老に臆する事無く相変わらず呑気な様子を見せている。
「そうかも知れませんなぁ。結界は我ら四人と精霊様の繋がりで守っていたもの。破られたとなれば従うしかありませんからなぁ」
「破られる事があるとは思ってもいませんでしたので、実際どうなのかは私達にも分かりません」
「それでどうして姿を見せる気になった?」
「私達と手合わせをしていただきたい」
ロザリアンヌは突然の申し出に息を飲んだ。
「何故だ?」
レヴィアスがすかさず尋ねるが、それはロザリアンヌも聞きたい事だった。
「この守護木はエルフだけでなく人間の目にもそう簡単に晒す訳にはいかないのです。存在を知らなければ欲にかられる事も無いでしょうが、一度知れ渡れば存在を脅かす事になりますからな」
ロザリアンヌはメイアンのSランクダンジョンの宝箱で得た世界樹の雫を思い出していた。
アレのお陰で万能薬のレシピが完成したのだった。
そしてその効能の効果はソフィアとアンナのお母さんが物語っている。
万能薬程の効果が無かったとしてもきっと、世界樹の雫だけでもポーションの素材にすればかなりの効果は望める筈。
「枝を使えば最強と言われる武器が作れ、葉を使えばその汁は薬になり、その繊維は最強の布となりましょう」
「しかし残念な事に、その枝も葉も一度摘んでしまえばそれまでです」
「そう、何故か数を増やす事は無いのです。新しく枝が伸びる事も葉が出る事もね」
新しい枝も葉も育たないと聞いてロザリアンヌは首を傾げる。
樹木であっても命がある以上本当にそんな事があり得るのだろうか?
「だから我らは欲にかられる者を防ぎ、その目から守らねばならなかった。こんな事態になるとは考えてもいなかった我らのプライドだ。我らに勝てばこの先のこの守護木と精霊様の扱いはそなたらに委ねる。しかし我らが勝ったなら、その時はこの事態の責任を取って貰いたい」
「責任って……」
ロザリアンヌは責任と聞いてちょっとだけ躊躇した。
そもそも何に対しての責任か?
知らなかったとはいえ結界を壊した事か?
しかしあのまま放っておけば間違いなくこの守護木は枯れ精霊も姿を消していただろう。
だとしたらロザリアンヌが背負わねばならない責任など無いと思われた。
「そちらも四人、我らも四人。一人ずつの対戦方式という事で宜しいかな?」
「それで納得するというのなら構わない」
「でもやる意味は無いと思うけどなぁ~」
「まぁそう言ってくださるな。我らも今までのけじめをつけたいのだよ」
ロザリアンヌが返事をする間もなく話は進んで行き、結局対戦方式の果し合いがされる事になった。
初戦は斥候タイプだろう短剣両手持ちのエルフとジュードの対戦で、相手のエルフはジュードに負けず劣らずの美しい筋肉を持ちスピードもあった。
その上攻撃魔法まで操るので、ロザリアンヌはまるで忍者の様だと思いながら観戦していた。
ジュードは魔法を放たれると若干怯む様子を見せるのが隙になり、相手の攻撃を受ける事が多く結局僅差で負けてしまった。
ジュードは攻撃魔法は使えないのだから仕方ないというより、やはり長老と言われるだけはあり他のエルフ達とは次元が違うとロザリアンヌは気を引き締めた。
しかしジュード並みに強い相手との対戦をじっくり見る事ができて、ジュードの弱点が分かった事は収穫になったと思う。
「ロザリー様、申し訳ありません」
土下座する勢いで片膝を着き謝るジュード。
「凄く良くやったと思うわよ。それにジュードも私も勉強になったわよね?」
「はい、己の未熟さを痛感致しました」
すっかり意気消沈するジュードを励ましたつもりだったが、ジュードは顔を上げる事は無かった。
「じゃあ次は僕が行くね~」
キラルの対戦相手は魔術師タイプのエルフだったが、キラル同様近接攻撃にも長けていた。
暫く熱戦を続けるかと思ったが、キラルはただ単に様子を見ていただけの様で、ピコーーーン!!と激しい音を立てたかと思うとエルフを場外ホームランでも打ったかの様に打ち飛ばしていた。
見ていたロザリアンヌもびっくりだった。
いくつかのデバフが入ったのか、派手に飛ばされたエルフはその場で動かなくなりキラルの勝利が確定する。
「それでは次は私が行こう」
「ちょっと待ってよ。最後が私ってちょっと責任が重過ぎるよ」
ロザリアンヌは勿論負けるつもりはないしレヴィアスが負けるとも思っていないが、大将戦を任されるのは途轍もなく気が重かった。
それ程にエルフの長老たちはただ者でないと感じていた。
多分だが鍛錬に励んだ年数が違い過ぎる。
それに気合というか気概というか、この場で背負っているものが違い過ぎる気がしていた。
ロザリアンヌは守護木と精霊を隠していた事に怒りを感じていたが、それも理由が分かればその気持ちもいつの間にか収まり、なし崩し的に対戦をする事にになったのにはロザリアンヌはまだどこか納得できていない。
そもそもが本当に戦う意味があるのかも納得できないまま戦う覚悟が出来ていなかった。
「挑んで来た奴を黙らせるだけだ。ロザリーはこの守護木と精霊をどうしたいかだけ考えれば良い」
レヴィアスは落ち着けと言わんばかりにロザリアンヌの頭に手を置いた。
ロザリアンヌはその温かさを感じ冷静になっていく。
「ありがとう。でもその答えならもう決まってるよ」
ロザリアンヌはこの対戦で勝とうが負けようが、守護木と精霊をどうするのかの答えはもう既に出していた。
だから長老たちのけじめを掛けたプライドに付き合うだけの事だったのだ。
そう思うと気持ちも楽になり、レヴィアスの対戦結果がどうだろうと、ロザリアンヌも全力で長老に挑もうと覚悟を決めたのだった。




