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世界樹に近づくにつれその大きさにロザリアンヌは圧倒される。
前世で見たどこかのタワーマンションの様な太さ高さに、これが本当に樹木なのだとしたらいったいどの位の年月を経て成長したのかと思っていた。
そしてレヴィアスの降り立ったその場所、世界樹の根本付近の洞にその姿があった。
キラルやレヴィアスが人型の属性オーラの塊の様だったのに対し、緑色のスライムを二つ重ねた様なぽよんぽよんとした身体に小さな手足が付き、葉っぱの形の耳と大きな黒い瞳が特徴の動物(?)の様な姿をした精霊だった。
怯える風でもなく真っ黒な瞳に真直ぐに見詰められ、ロザリアンヌは何と言葉を掛けて良いか戸惑っていた。
「ここで何をしているの?ここは君のお家?」
一番に声を掛けたのはキラルだった。
「この木を守ってるの」
「何だか元気がなさそうだけど大丈夫なの?」
世界樹を守っているという精霊の弱々しい声に、ロザリアンヌは思わず声を掛けていた。
「ずっと元気が無いの。私の力だけじゃ元気にならなくて…」
ロザリアンヌの問いに精霊は自分ではなく世界樹の話をしている様だった。
「元気がなくなった原因は分かっているの?」
原因が分かれば対処もできるとロザリアンヌは簡単に考えて聞いていた。
「根っこが原因だと思うの」
精霊の答えにロザリアンヌも納得する。
前世で鉢植えにされた観葉植物を育てた事があるが、知識も無くただ水をやるばかりで枯らした事があった。
後で調べて根詰まりしていたのに水をやり過ぎた上に、良かれと思って取った対策で直射日光に晒し葉焼けさせて枯らしたのだと分かった。
当時はネットで調べるなど常識ではなかったので思い付きもしなかったのが原因だ。
「それって多分根詰まりが原因ね。だとしたらちょっと大変だけどどうにかなるかも知れないわ」
ロザリアンヌは前世での記憶を呼び覚ます。
そもそも世界樹の周りも密林状態で木が多いのが問題だろう。
これではとても小さな鉢に植えられているのと変わらない。
根っこが思うように育たず詰まってしまうのも当然だ。
まずは世界樹の根が張っている範囲の樹木を取り除き、できるだけ土を入れ替えれば良いだろう。
樹木の取り除きはキラル達に頼み、ドロップ品や採取物を回収する要領で樹木を収納していければ時間は掛かるだろうがどうにかなるだろう。
しかし土の入れ替えはどうしよう?
どこからか新しい土を持って来るにしてもいったい何処から?
(錬成すれば良いのか!)
樹木を抜き取った分を補充する要領で、この密林の枯れ葉や枯れ草とここの土を使って新しい土を錬成すれば多分問題はない筈。
ロザリアンヌは自分が思い付いた対処法を精霊に提案する。
「この木の周りに密集している木は抜き取っても良いかしら?そうすればこの木の根っこももっと元気になれると思うの」
「この木が元気になってくれるなら良いわよ」
精霊の了承を得てロザリアンヌは作戦を実行する。
レヴィアスとジュードに新しく作っておいたマジックポーチを渡し、結界範囲にあった樹木を回収して貰い、キラルにもマジックポーチを渡し森の間伐がてら枯れ葉や枯れ草を集めて貰う。
ロザリアンヌはレヴィアスとジュードが樹木を回収終わった所から、世界樹の根を傷めない様に気をつけ少し深めに土を掘り起こし、新しい土を錬成して埋めていく作業を続けた。
途中でエルフ達が邪魔しに来るだろうと身構えながら作業をしていたが、エルフ達は結界のあった場所の中へ入って来る事は無かったので、ロザリアンヌ達は安心して作業を続けられた。
すべてを終わらせるのに半月近くも掛かってしまったのは予想外だったが随分とスッキリし、世界樹も少しは元気になった様に見えた。
そして最後の仕上げにロザリアンヌは雨を降らせた。
水魔法と氷魔法の混合で攻撃魔法を応用した魔法なので、広範囲長時間降らすのは大変だがこの程度の範囲の水やりと思えば十分だろう。
「ふぅ…。どうにか終わったわね」
ロザリアンヌは思わず額の汗を拭う様な動作をしていた。
「ロザリーご苦労様~」
「ロザリー様お疲れではありませんか?」
「ありがとう。みんなも大変だったでしょう」
きっと一人だったらここまでの事はできなかったと、ロザリアンヌは心からみんなに感謝して満足していた。
そして精霊の元へと行くとなんとびっくり、精霊が少し大きくなっていた。
掌に乗るサイズとは言わないが、生まれたての子犬か小型犬かという大きさだったのに、今は立派な成犬のサイズだ。
「ありがとう。この木もすっかり元気になったよ~」
「それは良かった…。っていうかなんで大きくなってるの?」
「この木に魔力を提供していたからだよ。この木が枯れてしまったら私も困るもの」
って事は、もしかしなくても一大事だったんじゃないの?
もう少し対処が遅れたら精霊も姿を消し、世界樹も枯れていたかも知れない所だっただろう。
なのになんでエルフはここに結界を張って隠していたのか。
今まで何の対処もせずに、同族のエルフにまで隠していたのは何故なのか。
ロザリアンヌは疑問を持つと共に静かな怒りが湧き始めていた。




