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ロザリアンヌ達は迷うことなく結界へと向かって真っすぐに飛んでいた。
「幻惑だけでなく結界を利用した幻影も使われているな」
レヴィアスの説明によれば、見た目が密林風景の様に変わらずに広がる工夫もされていて、一般には結界とすら気付かれずにいる様だ。
「そんな事もできるの?」
ロザリアンヌが興味津々でレヴィアスに聞き返すと、レヴィアスは見事にテンダーに姿を変えた。
「!!!」
「この程度の事なら簡単だ」
「声も変えられなきゃすぐにバレるじゃない」
テンダーの姿をした得意そうなレヴィアスにロザリアンヌは課題を突き付ける。
「声か…。音声認識を変えるには……」
何かを考え出したレヴィアスを放って、ロザリアンヌ達は結界の前へと急ぎ降り立った。
「どう?」
「幻惑に惑わされる事無く入れそうだけど、面倒だから結界を破っちゃう?」
「そんな事をしてはエルフ達が慌てるのではございませんか?」
「別に良いんじゃない。秘密はいつか暴かれるものなのよ」
「そうだよね。暴かれて困る秘密は持つものじゃないよね~」
「人に言えない秘密を持ったら碌な事にはならないと思うよ」
「ロザリーがそれを言うの?変なの~」
キラルはきっとロザリアンヌがキラルやレヴィアスといった精霊を宿している事を秘密にしていると言いたいのだろうと理解した。
「キラル。私はもうキラルが精霊だって暴かれても困らないわ。今はちゃんと覚悟もできているの。だからキラルが精霊の姿のままで居たいなら私は構わないわよ。そりゃぁ、擬人化したキラルと一緒に居るのは楽しいけど、キラルが無理してまで私に合わせる必要は無いよ。私はそのままのキラルが好きだから姿には拘らないわ」
「ホントに?」
「私が嘘を言って誤魔化しているかはキラルになら分かるでしょう?」
「うん、そうだね。ロザリーがそう思ってるなら僕はもう迷わないよ」
キラルは本当にいつもの笑顔を見せてくれる。
「それで契約をするの?」
「ううん、契約には制約があるんだ。ロザリーの魂はそのままでいて欲しいから今のままで良いよ。でも僕はもうロザリーが何を言っても絶対に離れないからね!」
「そうね。それは私も望むところよ」
「それでロザリー様、結局この結界はどうなさるのですか?」
折角良い感じに盛り上がっている所にジュードが水を差す。
「勿論壊すわよ!」
良い感じの気分をそがれた事に少々イラつき、殆ど八つ当たりの様にロザリアンヌは叫んでいた。
「それはまた簡単に言うな」
漸く追いついて来たレヴィアスが言い放つ。
「簡単にはいかないって事?」
「これだけの結界だ。確かエルフの長老が四人掛りで施しているというではないか、大変かもしれないぞ」
「施している?」
「ああ」
それ程までして隠したいのかとロザリアンヌは改めて秘密を暴く決意を固めた。
「負けないわ!」
ロザリアンヌは闘志を燃やし結界へと手をやる。
(絶対に壊してみせる!)
そう思いながら結界にシャイニングレインを放つ。
流星群の様に次々と上空から光の槍が結界に撃ち込まれて行くが、光の槍は結界にたいした傷もつけずに消え、壊された部分はすぐに次々と修復されていく。
(そっちがその気なら私も絶対に負けない!!)
自分の中では威力の高いシャイニングレインをあっさりと防がれた事にロザリアンヌはさらに闘志を燃やした。
ロザリアンヌは多分今現在自分が使えるだろう最上級の魔法の準備を始める。
闇魔法と火魔法と土魔法を混合させたその名もビックバン。
隕石との衝突で大爆発を引き起こす超強力な攻撃魔法で、ロザリアンヌが作り命名した魔法だ。
名前は大爆発をイメージして勝手にビックバンとしたが、ロザリアンヌ的には何気に気に入っていた。
上空高く宇宙から隕石を落とすイメージで、ロザリアンヌは魔力が届く限りの高さに魔力を収束させて行く。
あまり大きくして被害が大き過ぎても困ると考え、ある程度の大きさで様子を見ようと早速落下させる。
上空からどんどんスピードを上げ落下する隕石。
その隕石が結界に到達すると、結界にヒビが入りめり込む様に隕石が徐々に消えていく。
そして隕石の接触部分から崩れ始めた結界は、既に修復機能が追い付かず壊れ始めている。
ロザリアンヌは壊れ始めた結界に再度シャイニングレインを撃ち込んで行く。
思った通り今度は簡単に壊れて行く結界に、ロザリアンヌは立て続けに何度もシャイニングレインを浴びせ続けた。
パリン!!
結界がすっかり姿を消すと、結界が壊れた音とは別の何かが弾け飛んだ様な音が響いた。
そして結界が張られていた場所を確認すると、そこには思った通りそれはそれは大きな大樹、多分世界樹と言われるだろう大樹がそびえ立っていた。
「やっぱりね…」
しかしその世界樹は所々葉の色を薄くし、何だか元気がなさそうに見えた。
「もしかして枯れ始めているのかしら?」
「傍まで行ってみればもっと良く分かるんじゃない?」
「世界樹もだが精霊に会いに来たのではないのか」
「そうだったわね。じゃあ行ってみましょう。精霊が居る場所は分かるのよね?」
「任せておけ」
ロザリアンヌは案内の為に先に飛び立ったレヴィアスの後を付いて行った。