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状況が上手く呑み込めずに呆然としていたエルフ達は、ロザリアンヌ達が再び姿を見せた事に驚いた。
「いったい……」
リーダーらしき人が呟く。
「ダンジョンを踏破したついでにダンジョンの中が変わらない様に設定して来ました」
「踏破しただと…」
「設定?」
この空間に既に魔物の一匹も居ない現状で、ダンジョン踏破を宣言しているのに、未だに信じられないエルフもいる様だった。
「ダンジョンマスターになればダンジョンの設定もできる様になりますよ。是非頑張ってください」
ロザリアンヌはまったくの他人事と簡単に助言する。
「申し訳ない私達には君が何を言っているのか理解ができない。もう少し分かりやすく教えては貰えないだろうか」
「構いませんが…」
ロザリアンヌは少しだけ戸惑っていた。
さっきから話しかけて来るリーダーらしき人はまぁ良いのだが、他のエルフ達は何故かロザリアンヌを鋭い視線で睨めつけるので、テンダーの顔が思い浮かび面倒だと思ってしまっていた。
「その前にお礼を言い忘れていたな。先程のポーションは本当に助かった」
「ああ、いえ…」
助かったと感謝している様には思えないエルフ達の視線を受け、ロザリアンヌは適当に返事をした。
ここはもうこれ以上関わる必要も無いだろうと考え、取り敢えずテンダーの誤解だけは解いておいて貰おうと考えた。
「ダンジョンに入る前にテンダーさんと出会いまして、私が何か誤解を与えてしまった様なのですが、ご覧のように私達はダンジョン踏破の為にこの森に来ただけですのでこれで失礼させていただきます」
ロザリアンヌが転移をしようとした所でリーダーらしき人に慌てて止められた。
「ちょっと待ってくれ!テンダーと何があったか知らないが、もう少しだけ話を聞かせてくれ」
「そう言われましても私達も急いでいますので…」
ロザリアンヌも知りたい事もあり、エルフとは話はしたいと考えていたが、正直友好的ではない人達に囲まれてする話など無いと思い、もうすっかりどうでもよくなっていた。
「あなたはともかく他の方々は話したいとは思っていないみたいだよ~」
キラルは笑顔を向けてはいたが、いつもの浄化作用のあるキラキラの笑顔ではない様だった。
「それは失礼した。しかし私達はこのダンジョンの踏破を目標に長年挑んで来たのだ、それを突然現れたどこの誰とも知れない人間に踏破したと言われても、正直信じられない思いでいっぱいで納得しきれないのだよ。許してやってくれ」
「フン。信じる信じないも無いだろう。この空間に居た魔物は私達が殲滅した」
レヴィアスは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「私達も漸くここに辿り着き、そして手古摺り逃げ出したあの魔物の姿が無い以上信じるしかないのは確かだ。だが…」
「お話がそれだけならもう良いでしょうか?」
「あっ、いや、そうではない。申し訳ないがこのダンジョンの秘密をもう少し教えて貰えないか」
「私がそれを話したとして、あなた方は信じられないと言うのでしょう。だったら無駄だと思うのですが」
「だったら、そのダンジョンの設定ができると言う部屋に連れて行ってはくれないだろうか。無理を承知のお願いだ。聞いて貰えるのならこの森の禁忌とされる秘密を教えよう。一部のエルフしか知らない事だ。多分そこに触れたからテンダーが誤解したのだろう?」
ロザリアンヌは禁忌の秘密と聞いて俄然興味が湧きだした。
多分あの結界の中に何があるのかを、禁忌を破ってまでも教えてくれると言うのだろう。
「はぁー、分かったわ。正直知りたいのは確かだし。じゃぁ一回ダンジョンを出ますか」
ロザリアンヌはダンジョンコアの部屋に今すぐにでも転移する事もできたが、その他のエルフ達の態度が余りにも気に入らなかったので、一度ダンジョンを出てこの部屋を攻略する所から見せつけようと考えていた。
ちょっと時間も掛かり手間ではあるが、そのくらいの意趣返しはしても良いだろう。
その意図をキラルもレヴィアスも汲み取ってくれたらしく、数回に分ける必要も無く半数をレヴィアスが転移させてくれた。
そして驚き固まるエルフ達を他所に再度ダンジョンに入り直し、入り口で固まるエルフ達に手を出すなと念を押しまたまた白蟻退治に励んだ。
立て続けにモンスターハウスの様なこの部屋の攻略をし、ダンジョンマスターの認定もしているのに、ロザリアンヌの魔力は尽きる様子も見せない事にロザリアンヌ自身もかなり自信がついていた。
そうして再度白蟻達を殲滅させドロップ品を回収すると、ロザリアンヌはエルフ達にニッコリと微笑んだ。
「では行きますか」
もうロザリアンヌを睨んで来るエルフは居なかった。
ダンジョンコアの部屋に続く転移陣には全員が乗れなかったので、ロザリアンヌとエルフ達の代表者だけが乗った。
そしてダンジョンコアの部屋でダンジョンマスターと設定についての説明はした。
どう変えたか、そしてどう変えられるかは軽く説明したが、実際に変える所までは見せてはいない。
これ以上は相手の要望に無かった事なので、ロザリアンヌは敢えて無視したのだ。
いずれ自分達でダンジョンを踏破し、新たなダンジョンマスターになると良いと思っていた。
「それで禁忌の秘密を教えていただけるのですよね?」
「ええ、約束ですから。しかしこの場で教える訳にはいきません、一度長老たちの所へと出向いていただけますか」
「はぁー…」
ロザリアンヌはこのリーダーらしきエルフに騙された様な気になり溜息を吐いた。
(こういうやり方は好きじゃないんだよね…)
始めから長老に会えと言ったならまだしも、後だしジャンケンの様なやり方に怒りより脱力しかなかった。
ロザリアンヌは改めてキラルとレヴィアスの顔をみて、内心でどうすると問いかけていた。




