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ダンジョンを見つけ念のため辺りを確認すると侵入を阻まれる様子は無かったが、その入り口は木々に囲まれ蔦や植物が覆い茂っていて、ダンジョン探知ができなかったなら見つける事も難しかっただろう。
「追いつかれる前に入ってしまうぞ」
ロザリアンヌ達はその移動スピードでテンダーをだいぶ引き離したとはいえ、追い付かれればまた面倒な事態になりそうな事は予測できたので、ロザリアンヌはレヴィアスに黙って頷くと躊躇なくダンジョンへと侵入した。
中に入ると外同様森林のフィールドが広がっていた。
圧倒的に洞窟フィールドが多い中で偶に草原フィールドも無くは無かったが、森林フィールドというのは初めてだった。
そして出現する魔物も短い手足が生えたキノコに毒々しい見た目で器用に移動する食虫植物の類と、蔦を振るい種や葉を飛ばして来る樹木といった今までに無い珍しい魔物が多かった。
何かの幼虫なのか芋虫型の魔物も居たがそれらは気に掛ける程でもない雑魚で、寧ろどうしてこのダンジョンに出るのかが不思議なくらいだった。
何百年も研鑽を積みかなり強くなっただろうエルフ達が手古摺る様なダンジョンには到底思えず、ロザリアンヌは首を傾げながらダンジョン内を進んで行く。
探知が使えないとどれが魔物かも判断できない樹木が並ぶ森の中を難なく移動し、時折森の恵みを採取しながらサクサクと階層を進めていた。
キノコや食虫植物は毒に麻痺に睡眠だけでなく混乱までもを引き起こす攻撃をして来るが、全状態異常無効の装備品を着けているロザリアンヌ達には何の問題も無かった。
樹木はゆっくりではあるが移動できない訳ではないらしく、多分状態異常に陥って佇んだら知らぬ間に囲まれる事になるのだろうと思われた。
ドゴーーン!という音が響いた時には樹木の魔物はロザリアンヌの雷魔法で既に焼け焦げにされ、その周りに必ずいるキノコや食虫植物はキラル達によって屠られて行く。
確かに手強い感じではあるが、難易度的に言ったら最高難易度まではいっていないと思われ、初めて蜘蛛部屋に挑んだときの方が断然大変だったように思う。
だとしたら何がこのダンジョンの踏破を阻んでいるのか、ロザリアンヌはその原因を知りたかった。
そして第3階層に入った辺りからやたらとすばしっこいスライムが出現し始めた。
ただすばしっこいだけで無く、かなりの遠距離から魔法攻撃を仕掛けて来るので、スライムが居る場所を把握できていないと不意打ちの様に攻撃を受け続ける事になり厄介そうだった。
しかし勿論ロザリアンヌ達はそのスピードにも対応できたし、物理耐性があろうが魔法攻撃に強かろうが何の問題も無く倒せていた。
「もしかしてエルフ達はこのスライムに手古摺っているのかしら?」
初めはキラルやジュードもこの手のスライムに手古摺っていた事を思い出し、ロザリアンヌは何気なく口にする。
「それもあるかも知れないね~」
「それだけとは限らん油断するな」
「しかしここまでエルフに出会う事が無いのは不思議です」
「そう言えばそうね」
ダンジョンに挑んでいるエルフが居るとエリゼが言っていた事を思い出し、ロザリアンヌもさすがに疑問を持った。
探知の範囲にエルフが居れば避ける事も考えるが、いまだに気配さえ探知できていないと言う事はここでは無くもっと深い所に居ると言う事だろう。
「出会ったら無視するんだよね?」
「そうね積極的に接触はしない方が良いかも知れないわね」
「私達は踏破が目的の筈だ。必要ないだろう」
ダンジョン内で他のエルフに出会った時の対策を話し合いながらもダンジョン攻略を続けていく。
当然時間の経過とともにダンジョン内の配置も変わるが、ロザリアンヌ達には既になれた事でもあり空間探知のお陰で迷うことなく進んで行けた。
森林フィールドは洞窟フィールドの様に迷路が作り変えられる様な変化はなかったが、下へと降りる階段の場所や樹木の密集度が変わるのは少しだけ厄介ではあった。
しかしただそれだけだ。様子を変える前に階段に辿り着ければ何の問題も無い。
辿り着けそうも無ければ諦めるし、辿り着けそうなら魔物など無視して全速力で移動するを繰り返すだけだ。
そうして休憩を挟みながら攻略を続け第10階層へと辿り着くと、そこに現れたのは蜘蛛部屋同様の広い空間とその中央にある太く大きな樹木。
そして空間中にわらわらと移動する無数の白蟻(?)とその白蟻と戦うエルフ達。
思ってもいなかった事態にロザリアンヌはキラルやレヴィアスに答えを求め視線を流す。
エルフとはなるべく接触を避ける予定だったのに、この一つしかない空間でかち合ってしまった。
しかもわらわらと湧き続ける白蟻達ではなくボスを倒さない事には先には進めないのだろう。
エルフ達がこの部屋を攻略するか撤退するのを待つか、それとも共闘を申し出てさっさと攻略してしまうか、選択肢としてはその二つしかロザリアンヌには思いつかなかった。
「どうしよう?」
ロザリアンヌはその答えを探して、キラルやレヴィアスに向けて呟いていた。




