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ロザリアンヌ達は相変わらずダンジョン攻略を続けながら、レヴィアスの指示通りにダンジョンの設定のし直しも行っていた。
そしていくつかの未発見ダンジョンも踏破して行く中、この場所にも未発見ダンジョンはあると思われた。
トーガの街の近くにあった森林よりさらに深く広い密林。
その中心部だろうと思える地平線の彼方は霞み、上空までも曇らせているように見える。
「リュージンが言っていた発見されていないダンジョンってきっとこの森の中にあるのよね?」
「多分そうだと思うけど、まだ場所までは特定できないね」
ロザリアンヌだけでなく、キラルやレヴィアスの探知できる範囲にはまだダンジョンの気配は無かったが、リュージンが以前語っていた場所から考えるとここにあるのは確かな筈だった。
「リュージンを呼び出して確かめてみる?」
「どのみちこの森もすべて探索つもりなのだろう?いずれは探知に引っ掛かるだろう」
ドワーフの一件があってリュージンと別れてから、ロザリアンヌは時折思い出し提案してみるが、レヴィアスはどうも合流するのを避けている様に思えた。
それにリュージンはドラゴに修行を付ける様な事を言っていたし、その邪魔になってはいけないと思うので、ロザリアンヌも無理に合流しようとは考えなかったが、それでもどうしているのか気になっていた。
レヴィアスは探索する気なのだろうと言うが、実際は上空を移動しているので探索と呼んで良いかも怪しい所だが、気になった個所はチェックしているし実際にはマップ埋めにはなっているのでロザリアンヌはそれ以上反論できなかった。
そして暫く飛び続けているとそこに獣以外の気配を見つけた。
この密林に生息する獣の気配は、森林に居た魔物とあまり変わりがなかったし、変わったものは討伐して確認しているのではっきりと違いが分かる。
第一オーラの色が獣と違い人間に近かった。
「誰かが隠れ住んでるのかな?」
話によるとこの密林はその広さだけでなく、人間が簡単には入れない場所とされているので、今のところどこの国の領地にもなっていない。
そんな場所だけれど、アマゾンにも民族がいる様に原住民が居ても可笑しくはないだろうとは思っていた。
「人間どもとは微妙に気配が違うな」
「そうだね。うん、人間みたいだけどちょっと違うね~」
人間と違うけど人間みたいな気配と聞いてロザリアンヌは咄嗟にエルフを思い浮かべる。
ドワーフが存在していたのだから、この世界にエルフが居ても当然だ。
それにここは人間も簡単には入って来ないとされている密林で、森の民族とされるエルフが隠れ住む場所にはうってつけだとロザリアンヌの前世の知識が言っている。
「挨拶に行ってみようよ」
ロザリアンヌは思わず提案していた。
「賛成ー」
「はぁ~~、面倒事にならなければ良いがな」
キラルは諸手を挙げて賛成のようだが、レヴィアスは大袈裟な溜息を吐く。
確かにドワーフとはロザリアンヌの想像とは反し、あまり良い出会いとはならなかった。
ロザリアンヌの前世の知識でのドワーフは、酒好きなもっと陽気で器用で頑固な種族で、それでも仲良くなれるものだと思っていた。
しかし現実はロザリアンヌを≪女≫としてしか見ずに、レヴィアスが有無を言わせず転移してしまう程不愉快な扱いで、少なくともこれから先ロザリアンヌの方から接触を図る様な事はないと思う別れ方だった。
そして今回のこの気配がエルフだったとして、ロザリアンヌの前世の知識でのエルフは長命な故に呑気でマイペースだとか、男女ともに見目麗しくプライドが高いと言う設定の物が多かった。
しかしもしかしたらドワーフ同様この世界のエルフは違ったりするのだろうか?
やはりここは少し警戒するべきなのだろうか?
「ロザリーってば、それでどうするの?」
ロザリアンヌが急に躊躇したのを感じたのかキラルが再度確認して来る。
「あっ、うん…」
ロザリアンヌは暫し悩んだが答えは出せなかった。
「ダンジョンを探すと言う目的を果たしながら考えれば良いのではないか?」
「そうだね」
レヴィアスに言われロザリアンヌはその意見に取り敢えず賛成する。
ここで無理に接触を図らなくても、いずれはどこかで会うのかも知れない。
今急ぐべきはダンジョン踏破なのだと、ロザリアンヌは自分を納得させる。
それに考えてみれば、この気配が本当にエルフだと言う確証も無い。
もしかしたらロザリアンヌも知らない全然別の種族が居るかも知れない。
と考えて、ロザリアンヌはその考えを否定する様に頭を振る。
この世界はロザリアンヌの知識から作られているのだ。
だとしたらやはりロザリアンヌの前世の知識の中に絶対にある。
そう思うと早く答えを知りたいような気分にもなってくる。
「ここはやはりこの世界に詳しいリュージンに聞いてみるのが良いと思わない?」
「本当にそれが必要ならばな」
「リュージンってばドワーフの所へお酒を飲みに行ちゃったよね~」
レヴィアスとキラルの中ではリュージンの評価は低い様で、明らかにあてにはするなと言っている様だった。
「でも予備知識としては役に立ったよね?」
「ロザリー様、僭越ながら申し上げます。ダンジョンでお会いできるかも知れませんよ。ここで急ぐ必要は無いのではないでしょうか」
ジュードの言う事が一番もっともだった。
向こうがロザリアンヌ達の気配を感じているかも分からない今は、別に無理に出て行って挨拶する必要もないだろう。
ロザリアンヌはそう結論付け、この気配に気付かなかった事にして、ダンジョン探しを再開させる事にしたのだった。




