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まだ手付かずだったダンジョンを攻略し、レヴィアスの指示通りに設定し直す。
「本当にこれだけで良いの?」
「取り合えずダンジョンの設定を思うままにできると言う証明ができれば良い。また後で設定し直す事になるかも知れんがな」
「そろそろどうしてそうするのか、詳しく話してくれても良いんじゃないかな?何だかレヴィアスは一人で抱え込み過ぎてる気がするよ」
レヴィアスが陰で情報収集だけでなく、何か重要な事で動いてくれているのだろうと言う事は分かっている。
でもそれが何の為なのかそしてどうなるのか、そろそろ情報を共有し理解させてくれても良いだろうとロザリアンヌは思っていた。
確かにロザリアンヌでは考えが及ばない事も多いが、いつまでも守られるだけで知らないで済ませる程子供ではなく、レヴィアスとはちゃんと責任も共有できる仲間になりたいと考えていた。
「マスターの二の舞は嫌なんだ」
眉を顰め苦しそうな表情を浮かべ、暫く葛藤しているかの様だったレヴィアスは重々しく口を開いた。
ロザリアンヌにはレヴィアスと大賢者様がどんな月日を過ごし、どんな絆で結ばれているかなど計り知れないが、今でもレヴィアスにこんな思いを抱えさせこんな顔をさせるのかと思うと少しだけ羨ましくもあった。
たとえばロザリアンヌとキラルにそこまでの絆があるかと考えると、到底そんな自信はなかった。
しかしその絆は今から十分に育んで行ける可能性はある。
だが、ここまで大賢者様の事を思い続けるレヴィアスとロザリアンヌにそれは可能なのかと考えると、その可能性すら殆ど無いのではないかと落ち込みそうになる。
しかしその気持ちを無理に振り払い、今現在仲間として一緒に居るのは自分なのだと強く踏み止まり思いを口にする。
「私は大賢者様じゃ無いわ。それに今はキラルもジュードもいるじゃない。たとえ追われる事になったとしても楽しそうじゃない?何なら国を乗っ取って私達だけのパラダイスでも作ってみる?」
レヴィアスは驚いた様に少しだけ目を見張ったが、すぐにうっすらと笑顔を浮かべる。
「パラダイスか…」
ロザリアンヌが思わず良く考えもせずに言ったパラダイスにレヴィアスが反応し、この場の空気が一気に変わった様だった。
「パラダイスって何か本当に楽しそうだね~」
「それでロザリー様、パラダイスとはどういったものなのでしょう?」
このタイミングでのジュードの質問返しが何か少し可笑しくて、ロザリアンヌはつい笑い声をたててしまう。
「ふふふ、天国って意味よ」
「天国でございますか、ロザリー様にならきっと可能なのでしょうね」
「もうジュードってば、たとえ話よ。本当にできる訳ないじゃないの」
「いや、可能ではあるぞ」
「ロザリーが王様になるんだね!」
「キラル、その場合は女王様よ!って話じゃなくて、そんな責任の重い立場なんて私には無理よ絶対に!!」
ロザリアンヌは錬金術のレシピを探して自由気ままに世界中を飛び回り、素材を手に入れる為にダンジョン探索している方が似合っていると思っている。
というより、絶対に大賢者様をもしのぐ偉大なる錬金術師になるのだと、何気にまた一段夢のハードルを上げていた。
「まあ確かに私も一カ所に縛られるのはもうごめんだな」
「そうだねぇ、僕も同じ所に閉じ籠っているのは嫌だなぁ」
「天国に閉じ籠るのですか?それはまた…」
ジュードが何と続けたかったのか分からなかったが、絶妙なボケにロザリアンヌは堪えきれなくなる。
「そうね天国に閉じ籠るのはまだまだ先の話にして欲しいわね。今はダンジョン踏破を急ぎましょう。それでダンジョン設定を終わらせたらその後どうなるのかちゃんと説明はしてくれるのよねレヴィアス?」
「ああそうだな」
レヴィアスは事の詳細を説明してくれる。
既に冒険者ギルドと商業ギルドは掌握しているらしい、そして今はダンジョンを管理している領主を見定めている段階で、何ならダンジョンの権利を国から購入する事も考えていて、その為にダンジョン設定をし直して歩く必要があるそうだ。
さらにこの国は地盤が固まり次第国王を挿げ替える為の準備中といったところらしい。
「国が武力行使で戦力を出してきても無効化なんて事は私達には簡単な事だ。力技でしか考えられない奴らは既に負けが確定している様なものだ。他の国はウィンラナイと友好を結び、魔道具の取り入れを急いでいると言うのに馬鹿な奴らだ」
最後にはレヴィアスは吐き捨てる様に言っていたが、ロザリアンヌも本当にその通りだと思っていた。
けして魔道具を推奨するつもりはないが、この大陸の人々ももっと便利で豊かに暮らせればと良いとは思う。
その為にダンジョンを安全に攻略でき、安定して素材を持ち帰れる様にできる協力なら惜しまないとロザリアンヌは考えていた。
「今度はちゃんと考えられる王様だと良いね」
「それは大丈夫だろう。商業ギルドと冒険者ギルドがかなり力を入れて協力している。少なくとも血筋重視の継承で無い事は確かだ。それに今回の魔導船強奪未遂を問題にする事になるだろうから、思っていた以上に早く実現するかもしれないな」
ロザリアンヌはレヴィアスの説明にどこかホッとしていた。
一日も早く国王が替わり国が落ち着いたなら、森林の村の再開発の話ももっと早く進んでくれるような気がしたからだ。
アリオスは意気込んでいたが、彼に任せて大丈夫だと言う信頼は持っていない。
ちょくちょく様子を見に行ければ良いのだろうが、ジュードも話に出さないのでロザリアンヌも口に出せずにいた。
だからこそロザリアンヌはこの大陸のダンジョンすべてを踏破し強制力の解除を願った後には、必ずや村の様子を見に行きもう少し手助けを申し出るのも良いだろうと考えていた。




