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ロザリアンヌは大型魔導船が停泊する島と聞いた時から、何となくリゾート地をイメージしていた。
しかし実際に島の中を歩いてみればリゾート地の雰囲気などまるで無く、観光で楽しめる様な場所も無く、新たに作られたらしいホテルがあるだけの何の変哲もない島だった。
考えてみれば大型魔導船には収納ボックスも活用されていて、食料や水の補充などもまったく必要ない、夜の航海を避けるためにただ一泊するだけの島なのだ。
他の国の交易船はどうかは知らないが、取り敢えずホテルですべてが完結するのだろう。
観光を諦めたは良いが、この島には似つかわしくない様相で出歩いたせいか、子供達にこれを買ってくれとか何かくれと纏わりつかれた。
ロザリアンヌが子供が差し出す綺麗な貝殻に興味を示すと、あっという間に何人かの子供達に取り囲まれたのが始まりだった。
仕舞いには大人たちまで集まり始め、少々うっとおしさを感じたロザリアンヌはこの位なら買っても良いかと思いマジックポーチに手をやると、レヴィアスがその手を掴み止める。
「どうして?」
「施し始めたらきりがないぞ。本当に必要なら止めはしないがな」
「本当に必要ってこの貝殻が?」
ロザリアンヌはレヴィアスが本気でそんな事を言っているのかと不思議だった。
確かに貝殻は綺麗だけれど、本当に必要かと聞かれると何とも言えない。
「綺麗な貝殻だね。でも僕達には必要無いよ。欲しかったら自分で取りに行けるからね。これをもっと綺麗に細工できたならその時は買うからまた声を掛けてね~」
ロザリアンヌが考え込んでいると、キラルが子供達にそう言ってあしらい始める。
それを聞いてロザリアンヌはレヴィアスやキラルが何を言いたいのかが何となく分かった。
「綺麗にって、このままじゃダメなの?」
「この貝殻はもっと綺麗にもなれるし、別の使い方があるかも知れないよね。頑張って考えてみて~」
キラルは子供達に笑顔を振りまきながら手を振り、ロザリアンヌ達を取り囲んでいた人々をさり気なく追い払った。
そう言われれば貝殻って螺鈿細工に使われたり、確か飼料なんかにも使われると聞いた事がある。
多分ここで施しの様に貝殻を買えば、味を占めて他の人達にも同じことを繰り返す事になるのだろう。
ならば仕事として何かを考えさせ身に付けさせた方が子供達の為には良いのだと、教えてくれ様としたのだろうとロザリアンヌは思っていた。
一時的に施す事は何の問題解決にもならないのだと言いたいのだろうと理解した。
「ごめんなさい、あまり考えもせずに…」
「観光の必要は無くなったな」
少しばかり反省し落ち込むロザリアンヌに、レヴィアスは容赦のない言葉をかけて来る。
「そうだけど…」
「これからしっかりと働いて貰う。覚悟は良いな?」
「えぇ~~~」
「この国を潰すと言っただろう。まずは手始めにそこから始めようか」
気分を切り替えられずにいたロザリアンヌに、レヴィアスは不穏な事を言い放つ。
確か責任を取らせると言う様な事は言っていたと思うが、国を潰すなんて初耳だったので心底驚いた。
「何を言ってるのよ!」
「遅かれ早かれこの国はそうなる運命だ。戦争になり大勢が犠牲になるよりは良いだろう?」
ロザリアンヌはレヴィアスの言っている意味がまったく理解できず、戦争なんてさらに不穏な話に思考が付いて行かなかった。
「戦争は困ります!」
レヴィアスの言葉に激しく反応したのはジュードだった。
考えてみればジュードはこの国で生まれこの国で育った当事者だ。
この国が戦争になるなど考えたくもないだろう。
「選択肢は沢山あった。しかしこの国の王は安易に奪う事しか考えていない。このままでは戦争を起こすのも時間の問題だろう」
レヴィアスはジュードに諭すように言うが、ジュードは納得がいかないと言う風だった。
「レヴィアスはこのままだとあの国王が戦争を起こすと考えているのね?」
「間違いない」
「それを止める手立てがあると思っても良いのよね?」
「ああ、任せておけ」
レヴィアスはやたらと自信あり気に頷いて見せた。
「分かったわ、私は何をすれば良いの?」
「ロザリーはダンジョンの設定を変えてくれるだけで良い。後は私がこの国の人間を動かす。表立つのはやはりその方が良いだろう」
「本当にお任せして宜しいのですよね」
「心配するな。あの村は何があっても守るから安心しろ」
いまだに不安気なジュードにレヴィアスは不敵な笑顔を見せる。
「ロザリー様、私も何でもご協力致します」
何故かロザリアンヌの手を取り強く握りしめるジュードに、ロザリアンヌは不謹慎にも少しだけドキドキした。
その細く長い指先を見て間接キスを思い出した事もあるが、無邪気に接して来る異性を意識していたのだと思う。
ロザリアンヌを女として意識してくれた男は居たし、告白をされた経験もある。
でもそれは【プリンセス・ロザリアンロード】のゲームイベントの延長だと考えていた。
だからそれ以外で異性を意識したのはきっと初めてだろうと思う。
ロザリアンヌはまだ愛だの恋だのに現を抜かしている時間など無いと言う思いとは裏腹に、こんな些細な事にドキドキする自分の変化に戸惑っていた。
「それでどうする。予定通り魔導艇で移動するか。それとも私の転移で移動するか?」
「魔導艇のお披露目も楽しそうだよねー」
ロザリアンヌはジュードから離された掌を強く握りしめ、ロザリアンヌの中に芽生えた良く分からない変化に蓋をする。
「予定通りに行きましょう」
海岸へ移動すると魔導艇をマジックポーチから取り出し、今回の操縦はレヴィアスに任せる事にした。
そして今度は上空からの景色を楽しみながら、比較的のんびりとトーガの街を通過し予定のダンジョンへと向かうのだった。




