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海賊のアジトは木船を15隻程停泊させられる位広く、大型魔導船が乗り入れする港より大きいかも知れなかった。
海賊の頭領に事情聴取をしたところ、領主から魔導船を手に入れろと言う指示の下結成された集団なのだそうだ。
しかしジュリオにそれとなく申し出てみるがあっさり断られ、かと言ってウィンラナイに無理を言って魔導船を購入するだけのお金も国と交渉する術も無く、だったら奪うしかないと考えたそうだ。
しかし大型魔導船に太刀打ちできる自信が無く、海賊の真似事をしていた時に現れた小型の魔導船に、今がチャンスと襲い掛かって来たと言う話だった。
「あっさりやられてしまいましたがね」
恥ずかしそうに頭を掻く海賊の頭領は根は悪人では無いのだろう。
「欲しければ奪えば良いと言う考えが間違ってるわ」
悪人ではないのだろうが、短絡的すぎる考えにロザリアンヌは腹が立っていた。
「何を生意気な。必要だから頂くだけの事だ。おまえだって腹が空けば木の実を採って食うだろうが、それのど」
小娘のロザリアンヌに言われた事が余程業腹だったのか、頭領は威勢よく怒鳴り始めたが、レヴィアスに睨まれた事が効いたのか黙り込む。
多分話は≪それの何処が悪い≫と続いたのだろう。
強奪を正当化できるその考えも信じられなかったが、そもそも領主であろう管理者がそれを指示していると言うのも考えられなかった。
「どうするの?」
「被害の届け出は必要だな。きっちりと責任を追及させて貰おう。取り敢えずは逃げられない様に拘束してくれ」
レヴィアスは凍りそうな程に冷たい雰囲気を醸し出していた。
「じゃあ、檻でも作る?」
「そうだな、頼む」
ロザリアンヌは50人は居るだろう海賊達を拘束する為の檻を錬成する。
勿論ちょっとやそっとじゃ開けられない様に強固な素材で作り、南京錠も設置し海賊達を中に入れると、ロザリアンヌはユーリに事の詳細を手紙にして送りジュリオに伝えて貰える様に頼んだ。
「では、行こうか」
レヴィアスはこの島の領主の居る場所を知っていたのか、レヴィアスの闇魔法のオーラに包まれたかと思うとどこかの邸の一室へと転移していた。
別に脅してもいないのにロザリアンヌ達が突然現れたせいか、領主はレヴィアスの姿を見て怯え始めガタガタと震えだした。
「島の海賊どもは拘束させて貰った。私達は多大な迷惑を被った。一緒に来て貰うぞ。この責任はおまえにも、そしてお前を領主に据えている者にもしっかりとって貰う」
レヴィアスはそう言うと震える領主の襟首を掴み、またまた転移する。
きっとどこかの国の王城内なのだろうと思わせる、高給そうな家具や装飾品が並ぶ豪華な部屋で寛ぐ多分国王のすぐ目の前。
その国王らしき人の前に領主を放り出す様に転がし、レヴィアスは暫く無言で国王を睨んでいた。
「わ、儂は何も知らんぞ!」
先に口を開いたのは国王の方だった。
「ほほう」
レヴィアスが少し頷く様にしてそれだけ言うと、室内にはまたも沈黙が広がる。
「儂は魔導船が欲しいと言っただけだ」
国王は自分の指示だと認めている事に気付かないのか、悪びれる事無く寧ろ威張っている様にも見えた。
「おまえが領主に欲しいと言い、領主は島の奴らに手に入れろと指示し、島の奴らは私達を襲って奪う事にしたのだな」
レヴィアスは確認する様に一言ずつ力を込めてゆっくりと話ながら国王ににじり寄った。
「儂は関係ない」
喚く様にきっぱりという王様だったが、明らかに顔色が悪くなり震えだしている。
「そうか、それがおまえの答えなら私はおまえとはこれ以上関われない。おまえとした交渉は無かった事にする」
「ま、待ってくれ。それでは話が違う。儂は本当に関係ないのだ」
「自分の発言に責任も持てないヤツとおまえは付き合えるのか?そうだついでに教えておくが、ウィンラナイも今回の事は既に知っている。この先あの国との交易が上手く行くと良いな」
レヴィアスは不敵な笑顔を投げかけ王様を威圧していた。
「ねぇ、レヴィアス…」
話しが一段落した様なのでロザリアンヌは恐る恐る話しかける。
「何だ?」
「この鍵はどうしたら良い?」
ロザリアンヌは捕縛した海賊達の心配をし、檻の鍵をどうしたら良いのか聞いてみた。
「これは島の奴らを拘束している檻の鍵だ。早い所助け出してやるのだな」
レヴィアスはロザリアンヌから鍵を取り上げ王様たちの方へと投げ捨てる。
「大丈夫なの?」
「私達が心配する事でもあるまい」
冷酷に吐き捨てるレヴィアスに、ロザリアンヌは少し心配になっていた。
「ここがどこか知らないけど、ここからあの島まで行くには時間が掛かるんじゃないの?あの人達をあのままにしていたらどうなるか心配だわ」
「私達を一方的に襲って来た奴らに情けがいるのか?」
レヴィアスの苦々しい表情を見てロザリアンヌは、ふと大賢者様と追われている時の事を思い出しているのかと思った。
相手が国王だからか、それとも何か交渉をして少しでも信頼関係を築けたと思っていた相手からの裏切りを感じたからか、レヴィアスはきっと昔の出来事と重ねているのではないかとロザリアンヌは考えていた。
「レヴィアス落ち着いて。この人達とどんな交渉をしたのかは私は知らないから口は出さないわ。でもあの人達を無暗に傷つけるのは違うと思うの。死なれでもしたら私はきっと一生後悔するわ」
レヴィアスが言う様に一方的に襲い掛かって来た奴らに同情はいらないのだろうが、海賊達の心配というより、ロザリアンヌはとにかく何か理由を付けてでもレヴィアスの気持ちを鎮めたいと思っていた。
「ではこいつらを代わりに閉じ込めるか?」
「そう言う事を言ってるんじゃないわ。私はいつもの冷静なレヴィアスに戻って欲しいの」
「ロザリーはレヴィアスの心配をしてるんだよ。レヴィアスもそれはちゃんと感じているでしょう」
キラルもレヴィアスの説得に加わってくれる。
「……」
ロザリアンヌは投げ捨てられた檻の鍵を再び拾い上げた。
「何か美味しいものでも食べに行こうよ」
「だが、コイツ等はロザリーを踏みにじり傷つけようとしたんだぞ」
レヴィアスは尚も苦々しく吐き捨てる。
「私は何もされていないわ。分かるでしょう?」
「僕もお腹空いたー」
「はい、私も美味しい物是非食べたいです」
キラルもジュードもレヴィアスを落ち着かせようとロザリアンヌに合わせてくれる。
「ね、行こうよ」
「…」
今度はロザリアンヌが強制的にレヴィアス達を伴って、島の檻の前へと転移して戻った。
そして海賊達の拘束を解くと檻を回収し、当初の予定通り島の観光を始めるのだった。