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魔導船と魔導艇を受け取りに行くと、小型でシンプルなデザインながら高級感が溢れた見た目に驚いた。
何て言うんだろう、ごてごてとした豪華な飾りつけなどまったく無いのに高品質高性能を感じさせている。
実際に魔導船に乗り込んでみると、船内はダイニングキッチンの様になっていて、階段を下りると寝室昇ると操縦室という作りで、トイレとシャワー室もあった。
操縦室は全面ガラス張りで見晴らしがとても良いのがロザリアンヌはちょっと気に入った。
魔導艇も魔導船と同じ様な作りだったが、壁が全面ガラス張りで外の様子が見渡せた。
外から見た時は黒い何の変哲もない魔導艇に見えたが、きっとマジックミラーの応用なのだろう、中は雰囲気がまったく違っていた。
そして驚いた事にスイッチ切り替えで普通に白い壁にも木目調の壁にする事もできた。
ジュードが内装に感動したのはこれかとロザリアンヌも納得し、どんな原理なのかと考えていた。
「広さに問題があれば弄れる様に複雑な作りにはしていない」
レヴィアスはどんな広い内装を期待しているのか知らないが、大勢を乗せる予定も長時間乗る予定もないのにこれで充分だろうと思っていた。
「今のところ内装はこのままでも問題無さそうよ。それより性能的にはどうなの?」
「私やロザリーの魔力で操作する事になるからな、性能というより素材に拘り隅々まできっちり指定した」
自慢気にするレヴィアスに、ロザリアンヌは一抹の不安を抱く。
「それじゃぁ、もしかして、これって実は見た目以上にお金が掛かったんじゃないの?」
魔力の通りが良くて軽いのに強く硬いといったら、思いつく素材はそういくつも無い。
きっとこれはアレで作れとか、ここはコレを使えと、かなり厳しい条件を付けたと思われる。
ロザリアンヌはダンジョンからかなり手に入れてマジックポーチに売るほどあるが、この国で手に入れようと思ったらきっと高難易度ダンジョン以上でなくては手に入らない。
そもそも素材を揃えるのにも苦労をしたのではないかと、ロザリアンヌは関わった人たちに同情した。
「安心しろロザリーの資産からは一ギリも出していない」
「そう言う問題じゃなくて…」
ロザリアンヌは国の懐具合も少しだけ心配したが、それは国民の税金なんだよねとか、これだけの素材を手に入れる為に探検者達に無理をさせたのではないかと考えたのだが、レヴィアスには話が通じない様なので説明は諦めた。
「これは今日からロザリーの物になったんだよね」
目を輝かせるキラルとジュード。
「乗ってみる?」
「うん」
「乗れるのですか!」
「でもどっちに乗る?」
「では停泊する島までは魔導船、その先は魔導艇というのはどうだ」
「そう言えばあの島に上陸する事も無かったよね。観光ついでにそうしようか」
レヴィアスの提案にロザリアンヌは行きの大型魔導船が停泊した島を思い出していた。
あの時はジュリオ達が居たと言う事もあったが、海で大型魔物を倒すのに夢中になっていて、島に上陸する事も無く過ごしてしまった。
今から考えると随分と勿体ない事をした気がするので、折角だから少し観光でもしてみようと考えていた。
「賛成~!」
「楽しみです!」
「仕方ない、それで良いだろう」
急ぎの仕事が待っていると言っていたレヴィアスも、観光を容認してくれた事をロザリアンヌも喜んだ。
そして早速魔導船へと乗り込み、ロザリアンヌは操縦席に座った。
一応操縦法のレクチャーは受けたが、そもそも魔導船全体にロザリアンヌの魔力を流す事で自由自在に操れたので、操縦機能は形ばかりの物でしかなかった。
「出発進行!」
何だか良く分からない掛け声とともに、魔導船を少し浮かせ全速力で出航する。
勿論魔導船全体に既に結界を張ってあり風の抵抗を受ける事も無く、魔導船を浮かせた事で波から受ける揺れも無く島へと一直線に向かえた。
そして1時間もしないうちに島が目視できる場所へと辿り着いたが、停船許可が必要かもしれないと考えてゆっくりと島へと向かう。
「断られたらどうする?」
「その時は諦めろ」
ロザリアンヌの問いにレヴィアスが冷たく答える。
折角観光する気満々で全速力で飛ばして来たのに絶対に諦めたくないと思っていると、小型船が数隻向かってくる気配を感知した。
「お迎えが来たみたいだね」
キラルは呑気に言うが、ロザリアンヌは少々不安だった。
ただの迎えなら何隻も伴ってくる必要など無いだろうし、対応があまりにも早すぎる気がする。
あまり考えたくはないが、海賊団なんて展開は無いよねと思っていた。
すると期待していた訳でもないのに、あっという間に魔導船を取り囲み、魔導船に向けてフックを投げ綱を張り始める。
「どう考えても襲う気だよね?どうする?」
この魔導船がどうにかなるとも思えないが、やはり野蛮な奴らに土足で踏み込まれるのは面白くない。
ロザリアンヌは誰かが≪返り討ちだ≫と言ってくれないかと期待を込めて聞いていた。
「帰って貰うしかないよね」
「ロザリー、例の結界を張れ」
キラルはニッコリと微笑み、レヴィアスは指定したものしか入れない結界を張れと提案する。
「えぇ~~、海賊と戦わないの?」
「ロザリー様が相手では命の保障がありませんよね?」
ロザリアンヌがレヴィアスに言われた結界を張りながら反論すると、ジュードが嫌なツッコミをして来た。
「そんなことしないわよ。ちょっと痛い目にあってもらうだけよ」
「ロザリーってば、いつの間にそんなに好戦的になったの?」
「だって相手は海賊だよ。海賊や山賊とは戦うものじゃないの?成敗するみたいな」
ロザリアンヌはゲーム脳というか、小説脳的な反論をしていた。
「やりたければそうするが良い。ただし手加減は忘れるな。拠点ごと叩く」
「OK!」
ロザリアンヌは張られた綱に微電流を流す。
すると綱に触っていた船員達は忽ち痺れ海へと落ちる。
それを見て船に残った船員達が慌てて次々と海へと飛び込み、痺れて海に沈みそうな船員を助けようと躍起になっていた。
「ジュード行って来い」
レヴィアスがジュードに指示を出すが、肝心のジュードの頭の上には「?」が浮かんでいた。
「あそこにいる指揮官らしき人を抑えるんだよね?」
ジュードの代わりにキラルが答えを確認する。
「ついでに全員縛り上げてこい」
「何だか楽しそう~」
レヴィアスの号令の様な指示に、何故かキラルが嬉しそうに反応するのが意外だった。
素早く立ち去ったジュードとキラルは、指揮官や船員達を次々と縛り上げ木船の上に転がして行く。
そして船と船を綱で繋ぎ海賊達のアジトへと案内させると、そこは魔導船が停泊する島の崖下にある洞窟となった場所だった。
港からは見えない目立たない場所だが、この島の人達が海賊だったのかとロザリアンヌは驚いた。
この先もずっと定期連絡船の航海に使われるだろうこの島が、海賊達の居る島で大丈夫なのかと心配になっていた。




