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「ロザリー~~!」
市を見て回っていると突然名を呼ばれ、見るとアンナが大きく手を振っていた。
「アンナ!」
「母から聞いて、探しに来ちゃった。家に行ったら、居ないって言うから、きっとここだろうと、思って」
膝に手を置き前屈みで息を切らしながら話すアンナに、どれだけ急いで来たんだと感激して嬉しくなった。
「元気そうで何だか安心したわ」
ロザリアンヌはアンナの笑顔を見て、今現在とても充実して幸せなんだろうと推察した。
「ロザリーもね。冒険はどうなったの?もう帰って来たの?」
「違うの、ちょっと用があってね。またすぐ戻るわ」
「残念。でも今日は、ゆっくりできるんでしょう?」
「そのつもりよ」
アンナも久しぶりに話したい事が山ほどあるのか、息を整えながらいつもより早口で興奮気味に話している。
そしてジュードと繋いでいた手を見て「フフ」と声を漏らし揶揄う様に笑うので、ロザリアンヌは慌てて手を離し「ジュードよ。新しく仲間になったの」と紹介する。
「私はアンナ。ロザリーの親友よ。よろしくね」
「あ、はい。ジュードです!」
アンナに右手を差し出され、ジュードは何故か顔を赤くして緊張した様子を見せながら握手を交わす。
「母がお茶の用意をして待っているわ。私の家で良いでしょう?」
「勿論よ!」
ロザリアンヌ達は早速アンナの家へと移動し、暫くみんなでお茶を楽しんでいたが、ロザリアンヌとアンナの女子トークに参加できず飽きたのか、キラルとウィルとジュードは店へ移動しアンナのお母さんに魔導書の説明を受け始めていた。
なのでロザリアンヌも安心してアンナと話し続ける。
新しく出向いた大陸の話に冒険の話、ロザリアンヌに話したい事が沢山ある様に、アンナにも話したい事が色々あったらしく話は尽きる事が無いかと思われた。
そしてアンナとの連絡用に練成しておいた転送キーホルダーを、思い出した様にマジックポーチから取り出しアンナに手渡した。
「また凄い物を作ったのね。やっぱりロザリーだわ」
「何かあったら手紙を送ってね」
「ありがとう、嬉しいわ。でも何も無くても送っても良いのよね?」
「当然でしょう」
「結婚式の日取りが正式に決まったら連絡するわ、来てくれるよね?」
「勿論よ。何があっても絶対に駆けつけるわ」
アンナの喜んでくれている姿を見て、ロザリアンヌは初めて転送文箱を思い付いた事に心から満足していた。
気分を良くしたロザリアンヌは、アンナとマークスの為に指輪型の転送文箱を錬成し、結婚のお祝いも兼ねてプレゼントする。
「まぁ、素敵!こういう指輪を探していたの」
マークスには指輪などに拘りが無くて、アンナは一人で探していたらしいが、コレと言うのを見つけられずにいた様で、思いの外喜んでくれた事に安心した。
大事そうに指輪型の転送文箱を眺めながら「マークスもきっと喜んでくれるわ」というのを聞いて本当に嬉しくなった。
そして是非夕飯も食べて行ってというアンナのお母さんの言葉に気付いてみれば、既に日が暮れた時間になっていた。
「大変、キラル達はどうしてますか?」
ロザリアンヌが慌てて確認すると「ロザリーの練成品も見せたいと言っていたから、錬金術店に行ったんじゃないかい」と教えてくれる。
「今日はこれで帰ります。長い時間お邪魔してすみませんでした」
ロザリアンヌが慌てて立ち上がると、アンナは名残惜しそうに「じゃあまたね。楽しみにしているから」と送り出してくれた。
思いの外長い時間話し込んでしまったが、話す事があり過ぎて時間が経つのも忘れていた。
アンナと楽しい時間を過ごした事で、ロザリアンヌは充実した気分で家へと戻ると、キラル達はどこかへ出かけた後だった。
「どこへ行ったんだろう?」
「ジュードに色々見せたいって言ってたね」
「じゃあ呼び戻すのも可哀そうかしら」
「すぐに帰って来るだろうよ」
「そうね」
ソフィアの言葉にロザリアンヌは頷き、待っている間に何をしようか考えた。
そして練成室ではリリーとダリアが練成中だったので、邪魔になっては悪いと部屋へと戻り、販売用の在庫の補充も兼ねてポーションの練成を始める。
暫くして騒がしい足音に気付けば、キラル達が戻って来た様だった。
「ロザリー様。ロザリー様の練成品も素晴らしい物ばかりですが、魔導船と魔導艇とはまた凄い物を手に入れたのですね。ロザリー様の偉大さを私はこの身をもって感じました」
ジュードが興奮気味に捲し立てる。
「…」
「魔導船と魔導艇ができあがったので明日にでも受け取りに行こう」
「先に見せて貰っちゃった。内装が凄くてびっくりだったよ」
ロザリアンヌは内装が凄いというキラルの報告に、何だか嫌な予感しかしなかった。
「まさか王侯貴族が乗る様な煌びやかな雰囲気じゃないでしょうね?」
そんな派手な内装だったら、乗っていて落ち着かないだろうとロザリアンヌは眉をひそめた。
「大丈夫だ。作りがコンパクトな分、中はロザリーが空間を弄るだろうと予測した物になっている」
「じゃあどう凄いっていうの?」
「見てのお楽しみだよ」
キラルがウインクして勿体付けるので、ロザリアンヌは気になって仕方なくなる。
「何よそれ。余計に気になるじゃないの」
そんなロザリアンヌの気持ちを無視した様にレヴィアスが続ける。
「森の泉の土地の購入も滞りなく終わった。あの一帯の森はロザリーの物になったから安心しろ」
「えっ?……。もしかしてあの森全部って事?」
「そうだ」
ロザリアンヌはまさかと思い確認するが、レヴィアスは平然と頷いた。
「だってかなりの広さがあるよ?」
メイアンの街の広さと比べて多分三分の一位はあるだろうと思える広さの森だ。
「これから周辺の土地も手に入れて行く事も可能だ」
「必要ないわよ!そんなに広い土地を手に入れてどうするのよ」
まだまだ土地を購入する気でいるレヴィアスを、ロザリアンヌは慌てて止める。
「そうだな。この地に拘る必要も無いな。次は島でも手に入れるか?」
楽しそうに話すレヴィアスに、ロザリアンヌはレヴィアスがいったい何を考えているのかと呆れるしかなかった。
「そう言うのは冒険が済んだ後にゆっくり考えるわ」
本音を言えば気に入った場所に別荘を持ち、季節を楽しんだり気分次第でのんびりするのも悪くはないと思う
何ならジュリオが始める様に、何か農園や牧場みたいな経営をするのも良いかも知れない。
しかし今は土地の運用なんて考えていられないのだと、レヴィアスに釘を刺したつもりだった。
そしてやはり大陸の守護者の事や、この世界の事をキラルとレヴィアスにも詳しく話すべきかと思うのだった。




