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ロザリアンヌは2年後の春魔法学校へ入学する事になった。
魔法学校は初等学科で2年間魔法の基礎を学び、その後本科で3年間学び魔法学校は卒業となる。その後本人の意志と成績によっては学術大学へ進む事も、専門学を学んだり研究職に就く事もできる。
貴族や豪商という経済的に余裕がある世帯の子女は学校へ入学し、国の為に貢献する姿勢を見せるのが一般常識の様になっていて、卒業後国の機関に勤める者も多かった。
平民でも入学する事はできるにはできたが、まず馬鹿高い入学金の準備ができず、その後5年もの間学費を払い続けるのはとても難しい事だった。
中には探検者として活躍しながら学費を払う努力をする者もいたが、学業との両立に苦しくなり当然の様に挫折する者が多かった。
見識者や地位のある者に推薦されれば平民でも特待生になる事ができるのだが、実はロザリアンヌはジュリオから特待生としての話を内々で貰った。
特待生となれば国から奨学金が出るので入学金も学費も心配する事は無くなるが、同時に国に恩ができ在学中だけでなく卒業後も縛られる事になるのは容易に想像できたので、ロザリアンヌはその話を断った。
自分の生きたいように生きる事を望んでいるロザリアンヌは、したい様にできなくなる道を選びたくはなかったので、何の迷いもなくきっぱりと断ったのだが、ソフィアがそれを許してはくれなかった。
学べる事は学べるうちに学ぶべきだと譲らず、特待生としてではなく一般の生徒として正規の入学手続きに従い入学する事に決まった。
ソフィアはマジックポーチのレシピを売ったお金をその為に使う様だった。
ロザリアンヌとしてはいくら【プリンセス・ロザリアンロード】のストーリーと関係なくなったとは言え、できれば魔法学校には関わりたくはなかった。
ロザリアンヌが知らないだけで、もしかしたら新しいストーリーが始まる可能性だって絶対に無いとは言い切れない心配があったからだ。
それに魔法学校に通う時間があるならもっとダンジョンでステータスをあげたり、錬金術の腕を磨きたいと思っていた。
しかしどんな知識がどんな発想に繋がるか分からないとソフィアに説得された。
知識はいくらあっても困らないというのがソフィアの持論らしく、錬金術の発展の為でもあると説得されればロザリアンヌにはそれ以上拒む事もできなかった。
あの日、ジュリオの発案からロザリアンヌを特待生として魔法学校へ通わせると決める前に、本人の意思を確認すべきとマークスが代理として錬金術店を訪れた。
しかし当のロザリアンヌが魔導書店へ出かけていると聞き、待つより呼んで来た方が早いだろうと気軽に魔導書店へと出向いて来たあの日、図らずもアンナとマークスは再会した。
ロザリアンヌには二人が在学中どんな関係だったのか、何となく想像はできても全く知らない。
しかししばらくして呪縛から解けたかのように「アンナ」と呟いたマークスのとても切なげな声はロザリアンヌの胸にも焼き付いた。
その後さすがと言うかなんというか、大人な二人はまったく何事も無かったかのように話を進め、マークスは迷惑なお客に睨みを利かせ店から追い出すと、アンナは心からお礼を言って平静を装っていた。
しかしロザリアンヌから見ると、何となくバッドエンディング後の何かが始まった瞬間に立ち会った様な気がしていた。
本当にその後として二人に何かが始まるのか、それとも何も無く終わるのか、ロザリアンヌには知る由も無く聞く事もできなかったが、何にしてもアンナには是非幸せになって欲しいと願うばかりだった。
ゲームを攻略している時は私は誰に本気になる事も無かったが、現実世界を過ごしたアンナにはきっと色んな事があったのだろう。
それに本人の好みとか相性とか人それぞれだ。
私にはただの脳筋にしか思えなかったマークスだってきっと良い所も悪い所もあって、結局二人がどれ程思い合っているかが重要なのだ。
何かが始まったのだとしたらロザリアンヌとしては温かく応援しようと考えていた。
考えてはいたが、だからと言って積極的に自分から二人に関わる気は無かった。
迂闊にストーリーに触って、ロザリアンヌにも波及されるのはごめんだった。
もっともロザリアンヌ自身も魔法学校への入学が決まった以上、他人に構っている時間は無くなるだろう。
それまでにダンジョンの攻略も進めステータスやレベルも上げておきたいし、折角上達してきた錬金術の腕もさらに磨き、錬金術の可能性ももっと広げておきたい。
魔法学校は基本の座学以外は実習とか修練とか言って結構自由になる時間がある。
どうせならその時間はバッドエンディングルートの時の様に自由に過ごし、しかし退学にはならない様に努めようと、ロザリアンヌは今から入学後の計画を立てる。
魔法学校への入学が決まった以上、ロザリアンヌはソフィアが望む様に全力で学び、そのすべてを錬金術の糧にしてやると密かに誓っていた。




