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「待たせたか?」
ドロップ品の整理を終わらせ、ロザリアンヌ達はレヴィアスと合流した。
「今までどこで何をしていたよ」
レヴィアスと離れていたのは半月程ではあったが、いざ顔を合わせると随分と長く離れていた様な気がして、ロザリアンヌは安心するより拗ねた様な気分になっていた。
「ギルド本部と交渉をしていた」
返って来るレヴィアスの反応の素っ気なさにも少し不満を感じ始める。
「あれからジュリオと話して、この街でコーヒー農園を始める事になったわ。宝箱が3億ギリで売れたから共同出資という形で参加する事になったけど、経営に携わる気は無いかって言われたの」
ロザリアンヌはスラムの問題をジュリオが解決してくれる事になった経緯を少し自慢気に話す。
「僕もロザリーと一緒に頑張ったよ。スラムに綺麗な水の井戸を作ったんだよね~」
キラルはロザリアンヌに同意を求める様に話した。
「あのぉ、レヴィアス様。私の持ち合わせていたドロップ品を売り払ったのですが、このお金はどうしたらよいのでしょうか?」
ジュードには自分の資産にして良いと言ったのに、ロザリアンヌの意見では不安だったのか再度レヴィアスに確認している。
「ジュリオには好きにさせておけ、ロザリーが経営に参加したいなら好きにすると良い。キラル、偉かったな。水は確かに重要だ。ジュード、その金は自分で管理し好きに使うと良い」
「勿論断ったわよ。そんな暇ないもの!」
ロザリアンヌは思わず声を荒げていた。
レヴィアスの対応に何だか自分だけ突き放された様に感じ、面白くないと思ってしまったのだ。
そんなロザリアンヌの反応にレヴィアスだけでなくキラルもジュードも驚いた様だった。
「ロザリーは寂しかったんだよねー」
キラルがロザリアンヌの気持ちを見透かすように、しかしロザリアンヌの荒れた感情を癒すかのように笑顔を向けて来た。
「ごめんなさい…」
キラルに笑顔を向けられ冷静になってみると、ロザリアンヌは何にイライラしたのか良く分からなくなる。
そしてキラルに認められた様に、スラムの問題が解決した事をレヴィアスにも褒めて欲しかったのかも知れないと考え少し恥ずかしくなり謝った。
褒められたくてやった事ではないのに、これではまるで小さな子供の様ではないかと反省していた。
「他に報告は無いのか?」
「ユーリといつでも連絡が取れる様に転送文箱を錬成したわ。そのレシピをジュリオに売る事になったんだけど、その交渉は師匠に任せるとジュリオに言ってしまったの。だから一度師匠の所へ報告に戻りたいんだけど」
「ほぉ、今度はそんな物を錬成したのか。やはりロザリーは凄いな」
レヴィアスがロザリアンヌの頭に手を置き、手放しで褒めてくれるのをロザリアンヌは何だかくすぐったく感じていた。
「連絡手段に革命が起きるな。ギルドの様な場所に設置しそれを利用すれば、その転送文箱を持たない者達でも手紙のやり取りが気軽にできる様になるんだな」
レヴィアスの説明にロザリアンヌは郵便局を思い出していた。
近くのギルドに転送して貰い、何なら配達も頼んだらそのまま郵便業務じゃないかと。
ロザリアンヌはそこまで大きな事を考えてはいなかったが、確かにこの世界の全員に広めるのには時間もかかるし、アドレス転送もいつになるか分からない。
そう思えば、画期的な通信手段の第一歩を踏み出したと言っても良いのじゃないかと思えた。
いずれはウィンラナイの電話の様な魔道具が個人にも広まるのだろうが、いまだに高くて富裕層にしか使われていないからなと考えて疑問が浮かぶ。
(あれっ?電話の魔道具ってどうやって個人に繋いでいるんだろう?)
ロザリアンヌは自分が電話の魔道具を使った事が無いのですっかり忘れていたが、ウィンラナイにはそんな便利な物が既にあったんだと思い出す。
だとしたら転送文箱はユーリが言う程有難い物には思えないし、電話と同じ方法を使えばアドレス転送なんてすぐにできるんじゃないかと考えていた。
「電話の魔道具はどうやって個人に繋いでいるんだろう?」
ロザリアンヌは思わずレヴィアスに聞いていた。
「個人に直に繋いではいないぞ。一度センターに繋ぎそこから繋ぎ直す方法を取っている」
「それって…」
本当に電話が作られた初期の方法なのだとロザリアンヌは納得する。
という事はいずれは公衆電話が普及し、個人宅から個人へと普及して行くのだとしたら、この世界でもスマホの普及も夢じゃなくなるのかと思っていた。
そしてロザリアンヌにそっち方面の知識があったならと少し悔しくもあった。
「ソフィアの所へ戻るなら早く済ませてしまおう。これからロザリーに活躍して貰わなくてはならない。忙しくなるぞ覚悟しておけよ」
レヴィアスはロザリアンヌの頭の上に置いていた手で髪をぐしゃぐしゃとするので、ロザリアンヌは子ども扱いされた様で少しだけ面白くなかった。
「もうやめてよ。髪が乱れるじゃない」
レヴィアスの手を振り払う様に避けて、わざとらしく頬を膨らませて見せる。
「ロザリーってば、そうするとやっぱり女の子だね~」
キラルがロザリアンヌを揶揄う様に言うと、ジュードが「えっ!」と言って顔を赤くし固まった。
「?」
「……」
キラルは不思議そうにしたが、ロザリアンヌはもしかしてと言う思いを抱えた。
あまり口に出したくない疑問だったが、確かめずにはいられなかった。
「確認して良い?まさか私の事を男だと勘違いしていたって事は無いわよね?」
ロザリアンヌは確認する様に半ば呆れる様に少しばかり怒りを込めて聞いていた。
「いえ、あのぉ……」
「ジュードってばロザリーを男だと思ってたの!?」
キラルも漸く理解したのかジュードにツッコむ。
「すみません!今まで男とか女とかあまり意識していませんでした」
ジュードは土下座する勢いで謝って来るので、ロザリアンヌは逆に呆気に取られた。
(ゴスロリドレスを纏ったこんな可愛い少女を女と意識してなかったって…)
ロザリアンヌは心からショックを受けていた。
そして同時にジュードのこれまで育って来た状況を思い出していた。
「ロザリーってばホント強いからね。女の子って感じている暇がなかったんだよね。でもロザリーは女の子なんだからね、これからは優しく守ってあげなくちゃダメだよ」
キラルがジュードを諭すように話しているのを聞いてロザリアンヌは不満を抱く。
「守ってもらうばかりが女の子じゃないわよ!私だって守れるのよ!!」
「そうムキになるな、分かっている」
またもやレヴィアスがロザリアンヌの頭に手を置くので、ロザリアンヌは不満が爆発する。
「だから子供じゃないってば~」
ロザリアンヌの心からの叫びに、キラルもレヴィアスも何故かクスクスと笑い声を立て、ジュードはポカンと口を開けている。
「もう、さっさと師匠の所へ行くわよ!」
これ以上この話題は避けるべきと判断し、ロザリアンヌはみんなと一緒にソフィアの錬金術店へと転移したのだった。




