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「まず、あの見事な装飾が施された収納ボックスは私が預かり既に売れた。あれは実は一部では噂になっていた物だったので驚いたぞ」


「噂ですか?」


「そうだ。ダンジョンでの目撃報告から手に入れたいと躍起になっていた人物がいてな。そのせいで密かに興味を持つ者も多くいた。しかし今まで誰も持ち帰る事ができなかったらしい。おまえの事だどうやってとは聞かんが、かなり喜ばれた礼を言うぞ」


確かに何カ所かのダンジョンは既に踏破されマスター登録されていたので、そこからの情報なのだろうが、どうして持ち帰る事ができなかったんだろうとロザリアンヌは頭を傾げた。

確かに少々重い感じはしたがけして持ち運べないものでもないだろうし、持ち帰る気になればいくらでも方法はあった筈だ。


「3億ギリを預かっているが、本当にスラムに全額還元する形で使って良いのか?」


ロザリアンヌが思案しているとユーリが補足した。


「3億ギリですか!」


あの宝箱にそんな価値があったのかとロザリアンヌは本気で驚いた。

もっとも欲しい人はいくら出しても欲しいと考えるのだろうから、実際はそこまでの価値があるかは疑わしい。


「ロザリアンヌが考えた様にコーヒー農園をこの地で始める。3億ギリは共同出資として預かり利益を還元する予定だが、他の方法が望みであれば今のうちに言って欲しい」


ユーリからまたまた思ってもいない提案をされ、ロザリアンヌは唖然とした。


「共同出資者って事ですか?」


「そうだ。勿論経営に口を出して貰っても構わないぞ」


「経営に口を出せる程の知識もありませんし、そんな暇もありませんよ」


ジュリオの提案をロザリアンヌは畏まるのも忘れ慌てて断った。

コーヒー農園でスラムの人達を雇い入れてくれると言う事なのだろうが、実際経営にまで携わったら錬金をする暇もダンジョンを攻略する時間も無くなるだろう。


何より従業員を抱え責任が大きくなり、自由が利かなくなるのは目に見えている。

利益を少し還元されるくらいの関りで充分だと考えていた。


それにあの宝箱は元々ロザリアンヌ一人で手に入れた物でもない。

この場にレヴィアスが居れば相談できるし助言も貰えたのにと考えた。


「そうか、それは残念だな」


「一度帰ってみんなと話し合って決めたいのですが、確実な返事はそれからでも良いですか?」


「ああ、是非そうしてくれ」


肩を落とし残念そうにしていたユーリは忽ち表情を明るくする。


(だから経営に携わる気は無いってば)


ユーリのその表情から期待を持たせてしまった様に感じ、ロザリアンヌは思わず心の中で呟いた。


「では次にユーリが持つあの文箱だが、アレのレシピを売ってくれ」


急に話が変わった事もあり、ロザリアンヌはまたまた驚いた。


「えっと、あれはまだ完成品ではなくてですね。今日は作り直しに来たんです」


「作り直すだと?」


「はい。腕輪か指輪の形に作り替え身に着けていられる様にしようかと思いまして、それでユーリ様にどちらが良いか聞いてから作ろうと…」


何故かジュリオとユーリに睨まれている様な気がして、ロザリアンヌの発言は段々と尻つぼみになっていく。

そう感じる程ジュリオもユーリも怖い形相で前のめりになっていた。


「どんな形にもできると言う事か!?」


「でしたら私は是非指輪でお願いします!!」


ジュリオは驚いたのか少々声を張り上げ、ユーリは口調が丁寧になっていた。


「ゆ、指輪ですね…」


ロザリアンヌはその場で指輪型転送文箱を錬成していく。

そしてその対となるロザリアンヌ用の物はバラの花をモチーフにしてキーホルダーにした。

アクセサリーをジャラジャラと身に着けるのを苦手にしていたので、いつも愛用するマジックポーチに取り付けておこうと考えたのだ。


そう難しい練成でもないので、錬成道具も無しにジュリオとユーリの目の前で実演してみせたのだが、二人は唖然とし声も出せない様だった。

ジュリオはともかくユーリは文箱を錬成した時に一度見ているので慣れている筈なのに、何を驚いているのか不思議だった。


「手紙が届いたら光って知らせる様になっています」


ロザリアンヌが仕上げた指輪型転送文箱をユーリに渡すと、ジュリオもユーリも漸く我に返った様だった。


「試してみても良いか?」


「勿論です」


ユーリは早速手紙を用意するつもりなのか、部屋を出て行った。


「練成している所を初めて見せて貰ったが、何というか規格外だな。錬金術とは本当に不思議なものだ。私の勉強不足を実感した。私もまだまだだと言う事だな」


ジュリオは感心しているのか何なのか、一人でブツブツと呟いている様だった。

するとロザリアンヌの手に持っていたキーホルダーが、蛍の光の様な柔らかい光をチラチラと揺らし点灯した。


キーホルダーに手を翳し、キーホルダーに作られた空間を確認すると、確かに手紙が届いていた。

ロザリアンヌは早速手紙を取り出してみるとそこには「なぜ指輪型ではないのだ」と書かれていた。


ユーリの要望通り指輪型に作ったのに何を言っているのだとロザリアンヌは首を傾げた。

試書きにしては話題がジャストだし、冗談にしては面白くない。

何かの暗号かとも考えるが、そもそもユーリの考えなどロザリアンヌに分かる訳もなく、ロザリアンヌは気にするのを止めた。


「成功ですね。これで手紙が届いたのに気付かないという事も無くなると思います」


「ああ、見事だ」


ジュリオは感心した様に何度も頷いている。


「届いたか?」


ユーリが息を切らしながら戻って来た。


「届きました。成功です。ああそうか、点灯している様子を見せれば良かったですね」


ロザリアンヌはその場でユーリから送られて来た手紙を、そのままキーホルダに入れ返送した。

すると指輪はキーホルダーが光った時と同じ光を揺らし始める。


「それが君の答えか…」


ユーリは何故かガックリと肩を落とすので、ロザリアンヌはそんなに疲れる程走ったのかと思いユーリの顔をマジマジと見た。

もっと体力を付けた方が良いんじゃないのとは口には出せず、目が合った瞬間誤魔化す様にニッコリと微笑んで見せると「はあぁ~~~~~」とユーリは大袈裟過ぎる溜息を吐いた。


「文箱なら魔道具で作れると思ったのだが、錬成している所を見せられては考えが変わるな」


ジュリオも溜息を吐く様に呟いた。


「しかしコレは間違いなく画期的な連絡手段です!これは絶対に必要なものですよ!!」


「そ、そうだな。それは分かっている」


落ち込む様子のジュリオにユーリが激しく主張する。


「それならば文箱は魔道具部門、アクセサリー型は錬金術部門と分けて作れば良いんじゃないですか。人や用途によってどちらを望むか分かりませんし、それに魔道具部門や錬金術部門がこれに携わってくれるのなら、是非アドレス転送できる様に研究して貰えませんか?」


ロザリアンヌは自分では思いつかないアドレス転送の構想をジュリオに頼んでみる事にした。

今のところまったく思いつく気がしないので、少しでも大勢で考えた方が早くたどり着ける気がしたのだ。


誰かがロザリアンヌに代わって考えてくれるのなら、本当にいずれはアドレス転送が夢ではなくなり、それに例えば色んな人が考えてあれこれとヒントを貰えたら、自分でも何か閃くような気もしていた。


「アドレス転送とは何だ?」


「今は対で送りあえるだけですが、これ一つでジュリオ様にもユーリ様にも連絡できる様にする為の手段です。分かりやすく言えばこれに住所を持たせ、その住所宛に送れるようになればもっと便利でしょう?その研究をして欲しいのです」


「なるほどそれは確かに便利だな。分かった、とにかくその為にもまずはコレのレシピを売ってくれ」


ジュリオが頭を下げるのでロザリアンヌは驚いた。

一国の王太子がたかが平民のロザリアンヌに頭を下げるなどある筈も無い事だった。


「勿論それは構いません。でも練成品に関しては師匠に任せてありますので、詳しくは師匠と話してください」


ロザリアンヌはいつまでも頭を下げたままのジュリオに慌てて答える。


「分かった。どのみち国へ帰ってからでないと話は進められない。是非そうさせて貰う」


漸く頭を上げたジュリオに安心し、一度ソフィアのところへ帰って報告がてら話をしなくてはと考えていた。



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