176
手紙を一通ずつ確認して行くと、要約すると至急連絡が欲しいという内容だった。
最後の方は「なぜ返事をくれないんだ」と悲痛な印象を受ける一文で終わっているものもあって、ロザリアンヌは顔を青くしながら慌てて「今気付きました。ごめんなさい」と返信を送った。
するとあまり間を置かず「今直ぐ会えるか?」と返信があったので「どこで?」と返すと「邸で会おう」と帰って来る。
ロザリアンヌはやっぱりスマホが欲しいと心から思った。
そしてアドレス転送をどうにか考える前に、まずは手紙が届いた事を知らせる何かが絶対に必要だと反省していた。
音が鳴る様にしたとして他の人はどうか知らないが、ロザリアンヌはマジックポーチの中に仕舞い込んでいるので気付く事も無いと思われる。
その前にどうやって音を鳴らすかがまず思いつかない。
文箱が光る様にする事ならできそうだが、それだってロザリアンヌには意味が無いだろう。
マジックポーチに仕舞い込まず、いつも身に着けていられれば別なのだろうが……
(指輪か腕輪にでも収納機能を持たせ、文箱の代わりに使えば良いのか!)
ロザリアンヌは咄嗟に思い付く。
それで光って知らせる様にすれば、気付かないという事は無いだろうし、すぐに確認できると考えた。
そう思いつくとすぐにでも改良したくて居ても立っても居られないくなり、ロザリアンヌはキラルとジュードも連れて、ユーリが滞在する邸の傍へと転移していた。
「どうしたの急に?」
「ごめん、ユーリから会いたいって連絡があったの」
「それじゃぁ僕達は遠慮するよ」
「何変な気を遣ってるのよ。仕事の話よ。キラルはいつも一緒に居てくれるんじゃなかったの?」
「本当に僕達が一緒でも構わないの?」
ロザリアンヌはキラルがここ最近変な気を遣っている事をうっすらと感じ始めていた。
やたらとジュードを連れ、別行動をしていたのもそのせいじゃないかと思う。
しかしそれが何の為なのか、キラルがどうしてそんな気を遣い始めたのかが分からず疑問だった。
「大丈夫、一人になりたい時ははっきりそう言うわよ」
ロザリアンヌが笑って見せるとキラルも安心した様に微笑んだ。
「じゃあこれからはロザリーが嫌って言っても絶対に離れないからね」
キラルはそう言うとロザリアンヌにきつく抱き付くので、ロザリアンヌは安心させる様にキラルを抱きしめゆっくりと頭を撫でた。
「キラルと一緒に居たくないなんて絶対に言わないわ」
「絶対だよ」
キラルはロザリアンヌの胸に顔を押付け、くぐもった声で呟いていた。
暫く抱き付いていたキラルも漸く落ち着いたのか、ロザリアンヌから離れると「仕事の話があるんでしょう?」と今度はロザリアンヌを促した。
「そうね。だいぶ待たせたみたいだから急がなくっちゃ」
ロザリアンヌは急ぐと言いながら、何故かゆっくりとした足取りでキラルの隣を歩いた。
そして邸に近づくと門の前で待つユーリの姿が確認できた。
わざわざ門まで出て待っているとは思ってもいなかったが、これで門の兵士と応対し待たされる事も無いのだと少しホッとした。
「よっぽどロザリーに会いたかったと見えるね」
キラルは何故かロザリアンヌの顔を見ながらそんな事を言った。
「何だかとても重要な話があるって言ってたわ。何かしらね」
「僕に聞いても分かる訳無いじゃん」
キラルが急に興味を無くした様にそっぽを向くと、ロザリアンヌの姿を確認したユーリが駆け寄ってくる。
「ロザリアンヌ!」
ロザリアンヌはユーリが自分の名を呼ぶのをまたも不思議な気持ちで受け止めていた。
「ごめんなさい、確認するのをすっかり忘れてました」
ロザリアンヌは改めて深く腰を曲げ謝った。
「こうして連絡が取れたのだから大丈夫だ。それよりジュリオもロザリアンヌと話がしたいと言っているが良いだろうか?」
「ジュリオ様がですか?」
この大陸では面倒事に巻き込まれまいとあれ程警戒していたのに、結局こうして出会ってしまうのかと肩を落とした。
そしてこれが大陸の守護者が言っていた強制力かと思うと、やはり一刻も早くすべてのダンジョンを踏破し強制力の発動を止めて貰おうと考えていた。
「そんな顔をするな。面倒な話ではない。取り敢えず案内をする」
ロザリアンヌの気持ちが表情にしっかりと出ていたのか、ユーリはロザリアンヌの気持ちを解す様に笑いながら言った。
そうして案内された部屋はジュリオが滞在している部屋らしかった。
応接室の奥には寝室があるのが見え、隣にもう一つ部屋がある豪華な作りで、家具も絨毯も部屋を飾る装飾品も明らかにお高そうだった。
そんな雰囲気の中、ロザリアンヌだけでなくジュードも緊張しているのか、同じ方の手と足を動かしギクシャクと歩いているので、つい笑いそうになるのを堪えた。
「よく来てくれた、待っていたぞ」
ソファーに座っていたジュリオは立ち上がるとロザリアンヌ達を出迎えた。
「こちらこそ何度も連絡をいただきながら気付かずにすみませんでした」
マジックポーチの騒動の時にお世話になったとはいえ、国の王太子でもありそう何度も顔を合わせてはいないロザリアンヌは丁寧な挨拶を心がけた。
「まあ座ってくれ」
ジュリオに促され、ロザリアンヌ達がソファーに座ると、ジュリオは早速の様に口を開く。
「では商談に入るとするか」
「商談ですか?」
ロザリアンヌは思ってもいなかったジュリオの言葉に、間の抜けた様な返事を返していた。