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レヴィアスはトーガの街の冒険者ギルドに転移すると、ゴードンと面会をしていた。
「随分と久しぶりだな。あまり噂を聞かないが、今はどこで活躍しているのか気にしていたぞ」
ゴードンはキルド長の部屋のソファーにドカリと座り込みながら挨拶代わりに聞いてくる。
「この大陸のダンジョンはもう既に半数以上を踏破した。しかし他のギルドに報告に行っても相手にもされないので報告するのは止めた」
レヴィアスが少し腹立たし気にそっぽを向きながら吐き捨てた。
「ドロップ品を見せつけなかったのか?」
「マジックポーチの収納量が増えたので、今の所売りに出してはいないな」
実際ロザリアンヌは時間停止機能の付いたマジックポーチでも、かなりの容量の物も作れるようになっていて、寧ろ作り替えるのを楽しんでいる様で、用途別にいくつも持ち歩いている。
そしてキラルの持つリュックや、レヴィアスのバッグも既に何度も作り替えられていた。
「そのせいだな。頭の固い奴らには現物を見せるのが一番だ」
「そんな話の為に来たのではない。それよりやって欲しい事がある」
「この俺と交渉しようというのか?」
「おまえではない。ギルドと交渉したい」
「ギルドとだと!?」
「そうだ。おまえの方からギルドに持ち掛けてくれ」
ゴードンはあくまでも自信あり気な態度を崩さないレヴィアスが、これからどんな話をするのか内心ワクワクし始めていた。
街の漁師や冒険者が総出で倒すグラントクラーケンやヘビーモンクを軽々倒し、踏破に難儀していた森林ダンジョンを踏破し、過疎化した村の再建に尽力した事実を思い出しながら、次は何をするのか楽しみでもあった。
「今度は何をする気だ?」
「ロザリーはある国のスラムを救いたいと考えている。国を動かそうとしている様だが、そう上手くいくとは思えない。施すのは簡単だが、それでは救いにならないだろう?」
「そうだな。施しに慣れると向上しなくなるのは確かだ。しかしそれでなんでギルドなんだ?」
「ロザリーはダンジョンの設定ができる」
「ダンジョンの設定だと?」
ゴードンはレヴィアスが何を言っているのかまるで理解が及ばなかった。
「最近ダンジョンに異変が起きているという話は聞いていないのか?ソレの原因と言えば分かるか?」
「異変の話は儂の耳にも入っているが、原因があの娘だというのか」
「そうだ。ロザリーはダンジョン内のフィールドや出現魔物に採取できる素材など、かなりの選択肢の中から自由に変えられる。誰にでも攻略できそうな簡単なダンジョンから、とても攻略が難しいだろうダンジョンまでな」
「すべてのダンジョンをか?」
「そうだ。未発見のダンジョンや未登録のダンジョンまですべてだ」
「未発見のダンジョンに、未登録のダンジョンだと!?」
ゴードンはギルドに登録されていないダンジョンがまだあるとは思ってもいなかったので、かなり驚いた。
「未発見のダンジョンだけでなく、個人で密かに独占しているダンジョンもあったぞ。そのすべてを私達は発見できる。何ならそのすべての情報を開示しても構わんぞ」
「ほ、本当か!!」
ゴードンはすべての冒険者が気軽に利用できるダンジョンがあればと常々考えていた。
実際森林ダンジョンが踏破された情報が広がり、着々と冒険者が集まりだしギルドも潤い出している。
そうして冒険者が増えだした事で、新たなダンジョンが見つかればと考えてもいた。
しかし新たなダンジョンが見つかったとしても、入る度に様子を変え魔物の強さが変わる現状では何一つ変わらない。
攻略が難しいと判断され領主が管理する事になり、一部の冒険者しか入れない今の状況を変えなくてはならないと思っていた。
それがロザリアンヌなら自由に作り替えられると聞いては、ゴードンもさすがに驚きより欲望の方が大きく動いた。
「ああ。ダンジョンの情報開示と望みの通りに作り替えることを条件に、この大陸にある全スラムの奴らに冒険者指導をし、生きる術を教えてくれ。スラムの奴らに本当に必要なのは教育だ。本来はそれが出来れば良いのだがな。まぁ長い目で見ればギルドにも損の無い話だろう」
「確かにそうだ。だが儂の判断だけで返事はできん」
「だからギルド本部と交渉をしてくれと頼んでいる」
「分かった。しかし頭の固い奴らを黙らせるだけの手土産が必要だ。何か珍しいドロップ品の一つでも預けてはくれないか」
「ロザリーならいっぺんで黙らせる様なアイテムを持っているのだが、私はたいした物を持ち合わせていない」
ロザリアンヌならダンジョンボスのドロップ品や、ダンジョンの宝箱から手に入れたアイテムなど珍しい物を持っているが、レヴィアスは偶にドロップ品の回収を手伝うくらいなので、ゴードンが望む物を持っているとは考えてはいなかった。
しかしそう言いながらレヴィアスが自分のマジックバッグから取り出すドロップ品の数々に、ゴードンは忽ち目を丸くし驚いた。
「コレを売りに出す気は無いのか?」
ゴードンが唾を飲み込み慎重に聞いてくる。
「私は錬金はしないからな。売るのは勿論構わないぞ」
レヴィアスはソフィアに預かったロザリアンヌの資産を、既に各国のお金に両替していたので換金にあまり興味が無かった。
それに今のところロザリアンヌの資産を減らす事無くみんなに分配もできているので、無理にドロップ品を売る事も考えてはいなかった。
しかしこの辺でマジックバッグを空にしておくのも良いかと思い、自分が回収し持ち合わせている分を売り払う事にした。
(どの道ドロップ品ならどこで売ってもたいした違いはないだろう)
レヴィアスはそんな事を考えながら、マジックバッグの中からドロップ品のすべてを出した。
「魔石があればそれも売ってくれないか?」
魔石はロザリアンヌが錬金術で使う事が多いのであまり売りに出さないのだが、蜘蛛部屋攻略で大量に手に入れた分もあるから大丈夫だろうと判断する。
「私が持っている分で良ければいいぞ」
「助かる。これから魔石の需要が増える予定だから、どこの国も目の色を変えている」
「ならば尚更攻略し易いダンジョンは必要じゃないのか?交渉の方しっかり頼んだぞ」
レヴィアスはゴードンに改めてギルド本部との交渉を頼み、そして魔石に目の色を変えるゴードンの態度から交渉が上手くいくだろう事を予測した。
後はダンジョンを管理する者達との個別の交渉方法を考えるべきかと思い悩む。
そしてドロップ品の査定が済むまでどこで時間を潰そうかと考えていた。




