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山脈ダンジョンでリュージンと別れたロザリアンヌ達は、取り敢えず一番近い場所にあるダンジョンへと飛んで移動し攻略を進めて行った。
冒険者ギルドが把握しているダンジョンの場所は、既にレヴィアスがすべて把握していたので、道案内はレヴィアス任せだった。
どのダンジョンも深さは多くても10階層位までしかなかったので、攻略にあまり時間が掛かる事は無かった。
中には既に踏破されダンジョンコアは別の人がマスターになっている事もあったが、ロザリアンヌが新たに大量の魔力を提供する事で上書きする事もできた。
そういう場合は大抵難易度を上げたり、上位種やレア種の出現率を上げて、さらに上書きされるのを防いだ。
そしてダンジョン踏破を国単位で終わらせた時に纏めて冒険者ギルドに報告したが…。
「了承も無く勝手にダンジョンに入っただと!?」というギルドの反応にムッとしたり「見慣れない新入り冒険者が馬鹿な事を言うな!」と信じて貰えなかったりしたので、結局報告するのは止める事にした。
国の大きさにもよるが、この大陸に来た当初は一つの国に3つ位ずつダンジョンがあるという話だったのに、いざ攻略を始めてみると結構な数があった。
ギルドに報告せずに個人で独占しているダンジョンや未発見のダンジョンもあったからだ。
ロザリアンヌだけでなくキラルやレヴィアスは、ダンジョンの気配まで察知できる様になっていて、その気配で難易度や深度まで予測できる様になっていた。
「あっちとこっちどっちにするの?」
キラルは上空で立ち止まりダンジョンの気配を感じロザリアンヌに聞いてくる。
「そうねぇ…」
「私は身体を動かしたりません。今回は私にお任せください」
「街に近い方にしないか」
「私も街で買い足したい物があるのよね。じゃぁ、あっちにしましょう」
ロザリアンヌは街に近い比較的簡単そうなダンジョンを選び、ダンジョンの傍へと降り立つと、ダンジョンの入り口を守っているのか兵士(?)が二人立っていた。
「何だろう?今までこんな事無かったよね」
「ああ、一応ここは冒険者ギルドも把握しているダンジョンだ」
「私が聞いて来ましょう」
ロザリアンヌがレヴィアスと不振がっていると、ジュードがいち早くダンジョンの前に立つ兵士に近づき話しかけた。
「このダンジョンへは入れないのですか?」
気配を感じさせず素早く近づいていたジュードに兵士の反応が遅れたが、ジュードの姿を確認すると途端に態度が変わった。
「何奴!」
「怪しい奴だな」
「別に怪しくないですよ。中に入りたいのですが、このダンジョンは閉鎖されているのですか?」
威張るように横柄な兵士に構わず、ジュードは表情も変えずに話している。
「近頃ダンジョンに異変が起こっていると報告があってな、調査に入る事になったのだ」
「そうだ調査が済むまでは冒険者の立ち入りを禁じている。知らなかったのか?」
横柄だった兵士はどう言う訳か態度を崩し、ジュードに気安く応対し始めていた。
「知りませんでした。それで、今は調査の人が入っているのですか?」
「いや、まだだ。入りたければ調査隊に選ばれるしかないぞ」
「そうなんですね。分かりました、親切にありがとうございます」
ジュードは兵士達に丁寧なお辞儀をすると、ロザリアンヌ達の所へ戻って来た。
「という事ですが、どういたしましょうか?」
「異変って何だろう?ちょっと気になるね」
「はぁ~~~。ロザリー、おまえは…」
ロザリアンヌが異変に反応し疑問を持つと、何故かレヴィアスが深く溜息を吐き、ロザリアンヌを可哀想な人を見るような目で見始めた。
「ロザリーが異変を起こしてる張本人だって自覚は無いの?」
「えっ、私が?!」
レヴィアスだけでなくキラルまで冷めた笑顔でロザリアンヌを見る。
「ダンジョンが変動しなくなっただけじゃなく、難易度や出現魔物の変異に採取物まで変われば異変というしかないだろうが…」
「そうだよ、ロザリーってばかなり好き勝手に変えてたと思うよ」
「私はロザリー様がこの地の者達の事を考えてなさっていると信じております」
呆れたように話すレヴィアスとキラルに対し、ジュードはロザリアンヌを庇ってくれる。
「でも一応ダンジョンを踏破した報告はしたわよ。詳しい話も聞かず、納得しなかった方が悪いんじゃない。それを異変扱いだなんて失礼しちゃうわ」
「ロザリーが悪いとは言っていない」
レヴィアスはロザリアンヌの頭に手を置き、少し興奮していたロザリアンヌを落ち着かせようとする。
「気にせずにダンジョン攻略するんでしょう」
キラルのキラキラ笑顔はロザリアンヌの荒れた感情を癒してくれる。
「私はロザリー様に何処までも付いてまいります」
片膝を着くジュードの姿が、ロザリアンヌの眼には忠犬が尻尾を振っているように見えて来た。
「はぁぁ~。そうよね、異変だって言うならこのまま異変を起こしまくってやりましょう!」
ロザリアンヌは拳を掲げ新たに宣言する。
この大陸にあるすべてのダンジョンを踏破しなくてはならない事実は変わらない。
誰が何と言おうがどう考え様がロザリアンヌには関係ない。
迷惑をかける結果にはしていないと自負しているし、少しでも多くの人がダンジョンからの恵みを得られる様にと考えている。
しかしこの大陸でロザリアンヌができるだろう唯一の手助けだと思っていたのに、その事実をこの大陸の人に知られず認められないのが少し寂しかった。
でも元はと言えばこの世界の強制力を無くしてもらう為に始めた事で、完全にロザリアンヌの個人の都合だ。
それにロザリアンヌが顔を見た事も無い知らない誰かに認められる必要なんてない。
傍に居てくれる仲間たちがロザリアンヌを信じて認めてくれる、それだけで十分だろうと自分を納得させる。
「では参りましょうか」
今回は私に任せろと言ったジュードが、やけに気合を入れている様だった。
ジュードは気配の遮断はできるが認識阻害はまだできないので、完全にローブ頼りで先を歩き始める。
ローブのフードを被ると認識阻害されるのは本当に便利だった。
あれから数々の宝箱を開けたが、このローブがジュードにとっては間違いなく一番の宝だっただろう。
それから中に入れた物が自動で補充される便利な樽も何度か出現しまた増えていた。
かなりの高確率で宝箱から出るのか、花瓶程度の大きさの物からドラム缶程もある物まで合計で6つ手に入れていた。
ロザリアンヌはそろそろ何に使うか考えた方が良いかと思っていたが、なかなかゆっくり考える暇も無くマジックポーチの肥しになっている。
それに収納ボックスの様な宝箱もかなりの数を保有していて、そろそろ売りに出そうかとも考え始めていた。
領主に献上するという事でアリオスに一つ渡したが、あれは森林の村の再建へ向けての付け届けの様なものだ。
今さらこの大陸の誰に献上する気も無く、相手もいない。溜まる一方の物は少し整理したいと思うのは当然だろう。
ロザリアンヌはジュード達の後ろを静かに歩きながら、そろそろマジックポーチの中の溜まりに溜まったドロップ品も整理し売り払わなくてはと考えていた。
書籍化にあたり一章前編をかなり加筆改稿しました。後編も改稿予定中。
その中で大賢者様が男から女に代わっています。
その都合上ストーリに少しばかり違和感があるかも知れません。
書籍発売の頃までには一章は書籍と同じ様に直すつもりですが、長くお付き合いいただいている皆様にご迷惑をかけるかも知れません事をお詫びいたします。




