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ロザリアンヌの魔力の循環訓練にはレヴィアスが付き合ってくれ、キラルは武器に慣れる訓練だと言ってジュードを連れ出かけて行った。
アリオスの時もそうだったが、キラルは誰かに何かを教える事が好きなのだろうかと思っていた。
「もっと身体の隅々細胞の一つ一つを意識して循環させろ」
レヴィアスは簡単にそう言うが、ロザリアンヌの身体に細胞がいったいいくつあると思っているのだと言い返したい思いを飲み込んだ。
そして毛細血管の隅々まで意識しながら血液を流すイメージで魔力を循環させ様と頑張っていた。
前世でそういう映像や画像をテレビで何度か見ていたので、意外と簡単にイメージはできたが思った様にスムーズに循環させる事は難しかった。
自分の意識の動きより多分魔力の動きの方が速いのか、魔力がどこをどう流れているというしっかりした認識ができなかった。
「もっと身体全体に意識を広げろ。自分のオーラを身体全部で感じるんだ」
オーラを感じろと言われても、人間の身体の殆どは水分なんだよ、その水分すら感じ取れないのに簡単に言わないでよとは言えず、ロザリアンヌは頭を悩ませていた。
そもそも魔力がオーラだとして、それを感じるっていうのが難しい。
確かに魔法を使う時や練成する時に魔力は感じるが、あくまでも何となくといった感じで明確に目に見えてもいない。
知識として頭に浮かぶ映像も画像もない。
仕方なく血管の中を流れる赤血球を思い描きながら身体全体に意識を広げていく。
そもそも魔力って赤血球でも白血球でもないとしたら、いったい何処にどうやって存在しどの様に循環しているんだ?
そんなハッキリと認識もできない物をどうやって身体中に循環させろというんだ?
(オラに元気を分けてくれ!)
ロザリアンヌは思わず心の中で叫んでいた。
するとあれこれ次々と頭に流れるあんなイメージやこんなイメージがあった。
魔力はこの自然界空気中にもある。
という事は血液じゃなくて酸素の様なものなのか?
自然界にあるそれを呼吸によって絶えず取り込んでいるのか?
それとも磁気にくっついて来る砂鉄の様に引き寄せているのか?
どちらにしても循環をイメージするとしたら、一度引っ付いたら剥がすのが難しいあの砂鉄を動かすイメージか?
磁気ネックレスにくっついた無数のクリップをネックレスに沿って循環させる感じか?
そう思いつくとロザリアンヌはまず空気中に漂っている筈の魔力を探した。
魔力さえきちんと認識し感知できれば、後はそれを自分の体の中で探し循環させれば良いと考えついたのだ。
すると一番に感知できたのはレヴィアスの魔力だった。
その魔力に集中しさらに詳しく感知しようと試みると、レヴィアスの魔力に段々と色がついていく。
とても静かな凪いだ海を思わせる雰囲気なのに色は何故か蒼かった。
少しくすんだどこまでも深い海を思わせる藍色に近い蒼。
「レヴィアスのオーラは深いのね」
ロザリアンヌの口から思わず出た言葉だった。
「オーラの色が見えるようになったか。次は自分のオーラも見てみるんだな」
自分のオーラを自分で見られるものなのかと疑問を抱きながらも、ロザリアンヌはレヴィアスの言う事に従った。
ロザリアンヌは両方の掌を目の前に掲げ、自分自身の魔力を感知する事に集中する。
するとすぐに自分の身体から炎の様に放出されるオーラが見えた。
赤よりも少し黄色が強いオレンジ色に近い色だった。
「オーラの色って人によって違うんだね」
「そうだな。だが状況によって変わる事もある」
「状況って?」
「性格が変わったり体調にもよるだろう」
最後に言葉を濁すようにした事を感じ、ロザリアンヌはそう言えば前世で死ぬ間際の人のオーラは真っ黒だと聞いた事があったのを思い出した。
「このオーラを循環させれば良いのね」
「そうだ。そして循環速度を速め圧縮させる感じだ」
ロザリアンヌは今度はすぐにそのイメージができた。
「やってみる」
魔力を感知しながら炎の様に身体の周りに漂う魔力を、頭のてっぺんからつま先までまんべんなく身体中を循環させて行く。
そして段々と循環を速めるイメージで続ける。
ひたすら続けているといつの間にか、循環しているというより身体に薄い膜になって張り付いた様になった。
とても不思議な感覚だった。
「できた様だな」
レヴィアスに言われ、ロザリアンヌがオーラを抑える事に成功したのだと知った。
「レヴィアスのお陰ね。ありがとう」
「気を抜くな。維持できなければ意味が無い」
レヴィアスに指摘され、オーラがまたも放出されているのを感じた。
気を抜くと簡単に解除されてしまう様だ。
「絶えずできるようになるのは難しいわね」
いつも気を抜かずに意識し続けるのはそう簡単ではないだろうと考えていた。
「ロザリーならできるさ」
レヴィアスはロザリアンヌの頭をポンポンと叩いた。
突然不意打ちで優しくされた事でロザリアンヌは急激にドキドキしてしまい、褒められて嬉しい筈なのにレヴィアスの顔を直視する事ができなかった。
「あ、ありがとう」
呟く様にそれだけ言うと、魔力の循環の練習を続けた。
(何なのよいったい…)
レヴィアスのロザリアンヌに対する態度が変わった様にも感じたが、それよりもドキドキする自分の感情の理由が分からず自分の心臓を握るように胸に手を当てた。
「ロザリーは居るか」
ロザリアンヌの戸惑いを打ち破るように、隠れ家に勢いよく飛び込んで来たのはリュージンだった。
「…」
「何事だ?」
「ロザリーにちょっと頼みがあってな」
リュージンをドワーフの村に置き去りにして別れた事には触れずにいるリュージンに、ロザリアンヌは咄嗟に反応できなかった。
「それよりごめんなさい。ドワーフを置き去りにして別れてしまって」
「そんな事はどうでもいい。儂はロザリーを信じておる。それよりもすぐに一緒に来てくれ」
強引に迫るリュージンにロザリアンヌもいったい何事かと思うのだった。




