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ロザリアンヌはダンジョン攻略より先にジュードの為の双剣作りと、やはりジュードにも使える妖精の羽を作る事にして、山脈の頂上付近から下界を見下ろし、隠れ家を設置できる場所を探し転移した。
「ジュードの双剣と妖精の羽ができるまではここでゆっくりするわ」
ロザリアンヌはキラルとレヴィアスとジュードにそう宣言し練成室に籠ろうとすると、キラルから待ったがかかった。
「ロザリー、練成には魔力が必要なんでしょう。だったら今日は美味しい物を食べてゆっくり休もうよ」
「ロザリー様、私もその方が良いかと思います」
キラルとジュードに進められ考えてみると、蜘蛛部屋を探索し鉱石の精錬や転移に魔力をかなり使っていた。
レベルアップに伴い魔力量が増えたお陰か枯渇した感じは無いが、確かに万全とは言えないのは確かだった。
今から伝説級の最強武器を作ろうというのに、魔力が途中で枯渇するなどあって良い筈も無く、万全の体制を整える必要を認めロザリアンヌは素直にキラルとジュードに従った。
「何だかカレーライスが食べたいね」
ロザリアンヌは何を作ろうかと考えて、何故か思わずそう呟いていた。
「カレーライス賛成!」
キラルが目を輝かせ喜んでいるのを見て、ロザリアンヌはキラルの為にハンバーグカレーにしようと決めていた。
ロザリアンヌは前世での幼少の頃、友達のお母さんにカレーライスをご馳走になった事があった。
そのカレーライスには肉が入っておらず、代わりに魚肉ソーセージが入っていた。
「私の子供の頃はとても貧乏で、カレーにお肉が入っているなんて知らなかったのよ。だからこの魚肉ソーセージが入ったカレーは特別なご馳走だったの」
そんな話を聞きながら食べた魚肉ソーセージ入りのカレーライスは普通に美味しかった。
魚肉ソーセージを野菜と一緒に油で炒めるのがポイントらしい。
しかしロザリアンヌが忘れられないカレーは蛤入りカレーだった。
地元で蛤が大量発生しご近所さんや友達とこぞって採りに行った事があった。
大勢で海へ行った事も楽しかったし、面白いように蛤が採れたのも楽しく貴重な出来事だった。
大きなバケツいっぱいに採れた蛤に喜び、珍しく母がカレーを作ってくれたが、蛤の砂抜きがきちんとされておらず口の中が砂でじゃりじゃりしていた。
それでも母が自分の為に作ってくれたのだという思いもあり、大量に入っていた蛤のダシも良く出ていてとっても美味しかったのを覚えている。
あの蛤カレーより美味しいだろうカレーは数々食べたが、いまだに強く思い出に残っているカレーと言われるとやはりあの蛤カレーだ。
今日はキラルの思い出に残る様なハンバーグカレーを作ってやるとロザリアンヌは意気込んだが、考えてみたらきっと肝心なのは味ではなく食べる側の思いなのだろうと思い直した。
思い出とともに蘇る味とはきっと提供する側の問題ではなく、食べる側の思いの問題なのだろうと。
だとしたらロザリアンヌはただ喜んでもらえる事を想像し作るだけだ。
練成鍋で作る料理にいったいどれだけの思いがこもるかなどロザリアンヌには分からず自信も無いが、少なくとも一緒に食べる楽しさだけは理解できている。
美味しい物を一緒に食べたいと思うこの思いが、ロザリアンヌにとって仲間となった絆の証なのだろうと感じていた。
そうして作りあげたハンバーグカレーはご飯の脇に千切りにした野菜を置き、その上にハンバーグを乗せ上からカレーを掛けついでにゆで卵を半分に割り添えた、見た目にも賑やかで彩鮮やかなものとなった。
「ハンバーグと卵も乗ってる。美味しそう~」
出来上がったハンバーグカレーを手放しで喜ぶキラルに、ロザリアンヌも嬉しくなって行く。
「本当に美味しそうですね。この様な料理は初めてです」
ジュードも嬉しそうにしている事にロザリアンヌは満足していた。
「本当に旨そうだな」
珍しくレヴィアスも料理を褒めた事にロザリアンヌは驚いていた。
「料理に興味が無いのかと思ってた」
ロザリアンヌは今までのレヴィアスの反応からレヴィアスは料理に興味が無いのだと思っていた。
そもそも精霊に食事も睡眠も必要ないと何度か言われた経験もあり、何を食べても反応の薄いレヴィアスにはあまり期待していなかった分ロザリアンヌの驚きは半端なかった。
「そんな事は無い。私も食べれば旨いかそうでないかくらいは判断できる」
素っ気なく答えるレヴィアスのレヴィアスらしい反応にロザリアンヌは思わず笑ってしまう。
「見た目は美味しそうだけど美味しくないって事もあるわよ?」
「食べれば分かる事だろう」
拗ねた様にそっぽを向くレヴィアスの反応もとても新鮮だった。
「早く食べようよ」
「私も我慢できません」
「そうねじゃあいただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
「…」
レヴィアスがいただきますを言わないのは今さらだったが、いつかみんなと一緒に言ってくれる日が来ると信じていた。
それよりもロザリアンヌの作った料理に少しでも反応してくれた事が本当に嬉しかった。
ロザリアンヌはこうしてみんな一緒で楽しい食事がずっと続くと良いと思っていた。




