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ドロップ品の回収が終わり空間内を確認すると、中央には転移魔法陣が現れていた。
「ここが最深部だったのかしら?」
「そうかも知れんな」
「結構大変だったものね」
キラルもレヴィアスもここ蜘蛛部屋にはやはり辟易していた様だった。
「考えてみたらこの空間内全域に発動できる魔法もあったのに、私ってば冷静さに欠けていたわ」
終わってみるとロザリアンヌはもっと冷静に考え戦えたと反省していた。
咄嗟に思いつく魔法ではなく、もっと広範囲の魔法を複数同時に発動できる事も忘れていた。
状況や敵に合わせた魔法を使える様に、もっと自分が使える魔法の把握に努めようと考えていた。
「それより早く行ってみようよ。リュージンにも見せるんでしょう」
「そうね」
一人反省しているロザリアンヌをキラルが急かして来た。
そうして全員で一緒に魔法陣に乗ると、思った通り大理石で作られた部屋へと到着し、大森林ダンジョンと同じく中央にダンジョンコアが祀られる様にして置かれていた。
ロザリアンヌは迷うことなくダンジョンコアへと触れる。
『魔力を感知しました、ダンジョンマスターの登録を行いますか?』
ロザリアンヌは頭の中に響く声に「はい」と答えると、魔力を抜かれた感覚があった。
『マスターと認定しました。設定は次の中から行ってください』
目の前に浮かび上がる透明なボードを確認すると、大森林ダンジョンとはやはり少し項目が違っていた。
難易度や魔物の出現率などは同じだが、フィールドや選べる魔物の種類に採取物等は違いがあった。
ロザリアンヌは取り敢えずダンジョン内の変動をオフにし、難易度を最低に設定してみると採取物の項目のいくつかが選べなくなった。
ファンタジー鉱石でお馴染みのオリハルコン・アダマンタイト・ヒヒイロカネの他に&%#$と文字化けしている物の四つだ。
言語理解スキルを持っているロザリアンヌにも理解できない鉱石ってなんだそれという思いより、ヒヒイロカネより強い鉱石があるのかという興味の方が大きかった。
ロザリアンヌは是非ともその鉱石を手に入れたいという思いに駆られ、文字化け鉱石の採取ができる難易度を探し難易度の設定を少しずつ上げていくと思った通り最高難易度にしないとダメだった。
このダンジョンで最高難易度っていったいどの位敵が強くなるのか、ロザリアンヌには想像もできなかった。
鉱石欲しさに設定して敵を倒すのに手を焼くようでは本末転倒だろうが、その鉱石が手に入れば最強武器を作れるのは間違いない。
「設定を終了した後でも設定のし直しはできるのよね?」
『はい、何度でも可能です』
ロザリアンヌは思い切って最高難易度に設定し、文字化け鉱石も採取物として設定登録する。
そして採取できる場所も奥に行く程採取率が上がり、浅い場所でも一応採取できる様には設定してみた。
するとあの蜘蛛部屋でも採取ができるのが確認でき、なんとその確率は20%越えだった。
入り口付近での採掘ではいつ出るかも分からないが、あの蜘蛛部屋なら5回に一度は採取できる計算だ。
「もう一度あの部屋に挑むかぁ」
確実に手に入れたいと考えていたロザリアンヌは諦めた様な溜息を吐き、今度はもっと冷静に対処しようと考えていた。
そして出現魔物もレア種の出現率もフィールドも変えずにダンジョン設定を終わらせた。
あの蜘蛛部屋は出現魔物を変えても変えようがなかったからだ。
設定終了とともにごっそりと魔力が抜かれた感覚があり、ロザリアンヌは少し倦怠感を感じていた。
「なるほど、それがダンジョンコアで今ロザリーがしていたのがダンジョン設定なのだな。貴重な経験をさせて貰ったわ。それにあそこに宝箱もあるな」
ロザリアンヌがダンジョン設定を終わらせるとリュージンが面白気に口を開いた。
しかし今回の宝箱の数は2つだった。
もしかしたら難易度で宝箱の数が変わるのかも知れないと、何となく考えながら宝箱へと近づく。
「誰が開ける?」
ロザリアンヌはダンジョン踏破の功績はみんなにあると考えて、これからは開けたい人に開けさせようと考えていた。
「何を言っておる。ロザリーが開けずに誰が開けるというのじゃ」
リュージンはロザリアンヌが開けるのが当然とばかりに言うと、誰も反対する事無く納得した様子でいる。
ロザリアンヌはみんなの意志を受け、さすがに二度目ともなると水晶玉だった時は触る前に鑑定し、結果によってはジュードに譲れば良いのかと冷静に考えられていた。
そうして一つ目の宝箱を開けるとそこにあったのは黒いフード付きのマントだった。
鑑定してみると温度調整機能付き認識阻害マントとあった。
「これはジュードの為の装備品だわ」
ロザリアンヌは迷うことなくジュードに手渡した。
「私にですか?」
「だってジュードは認識阻害使えないでしょう。私もキラルもレヴィアスも使えるから必要無いのよ」
辞退しようとするジュードを説得した。
実際はロザリアンヌかレヴィアスがジュードにも認識阻害魔法を使えば済むのだが、不便なのは確かだった。
しかし考えてみたら、認識阻害のマントを自分でも練成できるのだと今頃気が付いた。
それに温度調整機能はきっとコピーできるだろうから、防具に付けたらこの先寒さや暑さに悩まされる事も無くなるだろう。
ロザリアンヌはとても貴重な物を手に入れたと心から喜んだ。
そして二つ目の宝箱を開けるとそこには野球ボールほどの水晶があった。
ロザリアンヌは水晶に触れる前に鑑定すると、言語理解スキルと鑑定結果が出た。
「ジュード、この水晶に触れてみて」
「私ですか?」
「そうよ。これも私やキラルやレヴィアスにも必要ない物だったわ。というか、この先ジュードに絶対に必要となる物よ」
ロザリアンヌは有無を言わせずジュードにスキルを取得させた。
それにしてもこのダンジョンで得たものは、ジュードを仲間にして必要としていたものばかりだと気が付いた。
もしかしたら強制力の影響なのかと思うとロザリアンヌは複雑な心境だった。
それってジュードを仲間にした事も既に何かの強制力が働いたという事になり、そしてロザリアンヌに何をさせようとしているのか分からないのがイライラした。
「ロザリー、用が済んだのなら急いだ方が良いのではないか」
ロザリアンヌがモヤモヤしたものを抱え考え込んでいると、レヴィアスが声を掛けて来た。
「急ぐって?」
「このダンジョンの難易度を変えたのだろう。もしかしたらあの場で採掘をしていたドワーフ達が困っているかも知れないな」
ロザリアンヌはレヴィアスに言われて初めてドワーフ達の事を思い出していた。
文字化け鉱石欲しさに最高難易度にした影響は既に出始めているだろう。
急に強くなった敵にダンジョン内に居たドワーフが対処できるか確かに不安だった。
「大変!」
ロザリアンヌは今すぐ設定を変え難易度を下げるべきか、それともドワーフを助けに行くべきか悩むのだった。




