155
絶えず最短ルートを見つけながら移動を続け、魔物も難なく倒して歩く一行に怖いものは無かった。
時間になってダンジョン内が変動を始めようともロザリアンヌ達の居る場所は変わらないと分かっていたので、ロザリアンヌ達は安心して休憩する事もできた。
ただ時おり現れる何かの鉱物でできているのかという程硬く素早いスライムだけは、スライムスレイヤーの称号を持つロザリアンヌでなければ倒せなかった。
キラルやジュードの素早い動きでも捉え切れず、レヴィアスのデバフ魔法も届かずドラゴの捕食もまったく歯が立たなかった。
しかしロザリアンヌが放つ雷魔法の一撃で痺れさせ、同時に発動させるシャイニングスピアでとどめを刺せたのでロザリアンヌは少しばかり得意気になっていた。
同時混合発動は混合させずに別属性の魔法も同時に発動できるのでかなり便利なのだ。
「ロザリーってやっぱり凄いね」
キラルは何かというとロザリアンヌをやたら褒めてくれるが、ロザリアンヌは褒める程の事じゃないよと思いながら悪い気もしなかった。
「キラルやレヴィアスの方が凄いじゃない。それにジュードにも敵わないわ」
キラルとレヴィアスは精霊なので実際叶う筈も無いが、ジュードにも単純に戦闘能力だけで言ったら絶対に敵わないと思っていた。
自分にはチートスキルと装備品があるからどうにかなっているがと考えて、ジュードにも装備品を作るかと漸く思い付いた。
以前はアリオスに提供するのを憚って止めていたが、今ならジュードにどんな装備を提供しようと寧ろロザリアンヌの為になると考えられた。
「私などこのお借りした剣が無ければ皆様に付いて行くのも難しいでしょう」
謙虚な発言がロザリアンヌのお節介心にさらに火をつける。
「ジュードの為に装備品を作るわね」
「私の為にですか?」
「そうよ、キラルもレヴィアスも私の作った装備品を着用しているのよ。何か似合うものを作るわね」
「では今日はこの辺にして休むか」
「じゃあ今日は僕が料理をするね」
レヴィアスもキラルもすぐにでも練成を始めると思ったのか休憩を提案してきた。
「そうしようか」
ロザリアンヌは折角の二人の好意を受け入れ、早速ジュードの為の防具のデザインを考え始める。
ここは戦士らしく全身鎧とかの方が良いのかなと考えてキラルやレヴィアスを見て思い直す。
キラルはお坊ちゃま学校の制服の様なブレザーに短パンで、レヴィアスは戦闘服とは到底思えないベストスーツ姿。
それにロザリアンヌに至っては一人で着て歩くのにもすっかり慣れたゴスロリドレスだ。
どこからどう見ても冒険者一行には見えない出で立ちの中に一人全身鎧ってどうなんだ?
それに全身鎧にしたら折角のジュードの動きを制限してしまいそうに思えた。
しばらく考えてロザリアンヌのゴスロリドレスに合わせたゴシック風のコートとパンツにする事にした。
ロザリアンヌのデザイン力では補えない所があったので、前世の記憶から引っ張り出して考えていると少しばかりスチームパンク風なデザインになってしまうが仕方ないだろう。
当然色はお揃いになってしまうが黒に決定し錬成を始める。
もう何度も繰り返した防具の練成はロザリアンヌには手慣れたもので、デザインさえしっかりイメージできれば何の苦労も無く作れた。
ついでに装飾品もコピーして行く。
そうして防具一式を作り上げてみると、ロザリアンヌのイメージで何となく双剣を持たせたくなった。
「ジュードは双剣を扱えたりするの?」
「双剣でございますか?」
「うん、双剣。扱えるならついでに作ってみようかなって思うんだけど」
「武器が無い時は両手を使う事もございましたので双剣も扱えるかと思いますが、わざわざお創りいただくのも申し訳ないです」
「申し訳なくないわ、だって私が作りたいんだから」
そう答えてみるが、どうせなら最強と言われる双剣を作りたいと考えていた。
このダンジョンで何か良い鉱石が見つかれば、それで作ってみたい。
「このダンジョンで採れる鉱石で最高の品って何だろう?」
「どうであろな。儂もさすがにそこまでは知らん」
「そうだな。何しろ未発見のダンジョンだ、ギルドにも情報は無かったな」
ロザリアンヌはこのダンジョンではまったく採取に力を入れていなかった事を後悔した。
しかし鉱石の採取に行けばドワーフに出会う確率も増えるだろうとロザリアンヌはしばらく悩む。
そしてどうせならダンジョン踏破して、ダンジョン設定をしてから採取を試みるかと決める。
大森林ダンジョンの様に採取品もリストの中から決められるのなら、その中で最強と言われる鉱石を設定すれば手に入れるのも簡単になると思ったのだ。
それに最深部に近い場所での採取なら、ドワーフ達に出会う危険も少ないだろう。
「ジュード取り敢えずコレを装備して。双剣はダンジョン踏破が済んでからにするわ」
「またいったいどうした」
ダンジョンコアでのダンジョン設定の話はしたはずなのに、実際に目にしていないリュージンはロザリアンヌの決定の意味が分からなかったらしい。
「リュージンにも面白い体験をさせてあげるから、まあ楽しみにしていて」
ロザリアンヌは含みのある答えをリュージンに投げかけていると、ジュードがその場で着替え始めていた。
ごく自然に下着姿になっているジュードの筋肉質な身体に無数の傷を見て、ロザリアンヌは羞恥心より驚きの方が大きかった。
どれもこれも古傷とは言え、痛々しくて見ていられなかった。
こんなに傷だらけになってまで今まで一人で戦っていたのかと思うと、その傷のどれもこれもが勲章の様でもあった。
しかしそれでもその傷を綺麗に治してあげたいと思ってしまった。
「ねえジュード、その身体の傷を治せるか試してもいいかしら?」
ロザリアンヌは傷を治す光属性の治癒魔法を使える様になっていた。
しかしその魔法では古傷を治す様な再生の効果があるかまでは分からず、それに今まで試した事も無く実際に効果があるかどうか自信が無かった。
ロザリアンヌは治癒魔法を使う機会も少なく、魔法自体の熟練度も多分全く足りていない。
キラルの成長のお陰もあって光魔法はかなりの数を覚えているが、こんな肝心の所で落とし穴があるとは思ってもいなかった。
「ロザリー、それは僕に任せて。ロザリーは錬金術師なんだから錬金術を極めれば良いよ。聖女の様な事は僕がするから。それに僕はジュードの師匠だよ」
ロザリアンヌはキラルに笑顔で言われ、錬金術でポーションを作る時に魔法を練り込めば良いのだと改めて納得していた。
そうすれば必然的に魔法の熟練度も上がるし、ポーションにしてみんなに持たせておけばかなり安心できると気が付いた。
知っていた筈なのにこの大陸に来てからすっかり疎かにしていた。
「そうだね、私は肝心の事をすっかり忘れていたみたい。じゃあキラルお願いね」
ロザリアンヌはジュードの古傷の件はキラルに任せ、ポーションの作成に久しぶりに精を出したのだった。




