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「ちょっとドラゴパパ、いったいどこまで飛ぶ気なのよ!」
ドラゴパパの背に乗せて貰いダンジョンまで送ってもらう予定が、肝心のドラゴパパは飛ぶことが楽しいのかさっきからハイテンションで何度もダンジョンらしき場所を通過していた。
「久しぶりの飛行じゃ、まぁ大目に見てくれ。ロザリーも上空からこの地の確認をするのも悪くは無いだろう?」
結局はこの大陸のすべてのダンジョンを踏破する予定ではあるし、地図を埋める手間が省けるのは確かではあるが、その飛行速度に景色をゆっくり楽しむ余裕などなかった。
「こんなに早くちゃゆっくり確認もしてられないわ。ドラゴパパもその存在を確認されないんじゃ面白くないんじゃなかったの?」
「寄りたい街があれば姿を見せるつもりじゃが、今は久しぶりの飛行を楽しみたい。それよりロザリーよ、お主は儂に名付けをしたのではなかったか?いい加減ドラゴパパは止めて欲しいぞ」
「ごめんなさい。ついうっかりしてたわ、リュージン」
ドラゴパパに指摘されすっかり呼び慣れたドラゴパパを改め、リュージンと呼んでみたらリュージンと何かが少し繋がった気がした。
「少し速度を落とす。まあ儂の気が済むまでゆっくり地上の景色を楽しむが良い」
「ありがとう。そうさせて貰うわ」
上空から確認しながらレヴィアスの解説を聞いていると、この大陸には5つの国があり、高い山脈や深い森に広い運河が国境になっている場所が多く、そのお陰で戦争の心配のない国も多いらしい。
「戦争なんぞ始めたら儂も黙ってはおらんしな」
リュージンはこの大陸を守るため、戦争にも介入している様だ。
「黙ってないって、戦争に参加するという事?」
ロザリアンヌは戦争をする国のどちらに味方するのかや、どういう風に介入するのかが心配になった。
勿論一方的に略奪や殺戮をするような国は無くなれば良いとは思うが、どちらにどんな正義があって戦うのかリュージンはその辺をどう判断するのか知りたい思いに駆られた。
「大抵は儂の脅し一つで戦争などしている場合じゃないと悟るが、そうでない国は王都を滅ぼしに行くな」
「リュージンが王都を滅ぼしに行ったら、関係の無い人々もひとたまりもないじゃない」
「安心するが良い、大抵は建造物を壊す位じゃ、兵士を全滅させるよりはましじゃろう。もっとも戦争なんぞおこす国に情けなどかける気も無いがな」
リュージンの考えに肯定も否定もできず、ロザリアンヌは何をどう言って良いのか分からなかった。
今まで一度だって実際に戦争を目にした事も無く体験した事も無いロザリアンヌが、理想だけで何を言ってもリュージンに届く気がしなかった。
実際にそうやって今までこの大陸の平和を保ってきたのだとすると、ロザリアンヌにはそれが事実なのだと受け止めるしかできないだろう。
「ところでリュージンは私達をいったい何処へ連れて行くつもりなの?」
「そう言えばロザリーはどこへ行きたいのか聞いておらんかったな」
ロザリアンヌはもっともだと納得していた。
確かにその辺を確認するのを忘れ、常識的に考えて大森林ダンジョンから近いダンジョンに連れて行ってくれるものだと思い込んでいた。
近い所から順番にと言うロザリアンヌの常識は、リュージンには通じていなかった様だ。
「もうリュージンの好きな所で良いわ」
ロザリアンヌは自分の常識を諦め、成り行き任せにリュージンに答えた。
「それではいまだに人間に発見されておらんダンジョンへ案内しよう」
「発見されていないダンジョンなんてあるの?」
ロザリアンヌは咄嗟に驚きの声を上げていた。
「人が寄り付かん場所にもダンジョンはあるぞ。その為の儂の移動能力だと思っていたのだが違ったか?」
違ったかと聞かれても、そもそも未発見のダンジョンがある事さえ知らなかったのに答えようも無く、ロザリアンヌは黙り込むしかなかった。
「そんな未発見のダンジョンはいくつ位あるのだ?」
ロザリアンヌの代わりにリュージンに聞いたのはレヴィアスだった。
「そうよのぉ、海底のを含めると4つかの」
「海底ですか?」
驚きの声を上げリュージンに聞いたのはジュードだった。
「他には山脈の頂上に近い場所と、これから行く大森林と、人間が寄り付けない島の4つじゃの」
「大森林って、あの大森林じゃなくて?」
「あれは大森林とは呼べぬわ。あれよりももっと深い森があるから楽しみにしておくが良い。それでどこから行くか決めたか?」
ロザリアンヌに選ばせてくれるらしいが、どこからと聞かれても咄嗟に決める事ができず「じゃあ近い所から」と答えていた。
「近い所か。では、儂も一度ねぐらに帰りたいし山脈のダンジョンにするか」
ロザリアンヌの意見は聞き届けられたかどうかも分からないまま、リュージンは山脈ダンジョンへ向かって方向転換していた。
「その前にちょっと寄りたい所ができた。お主たちも今宵はゆっくりしてからの方が良いじゃろう」
リュージンはそう言うと飛ぶ速度を一気に落とし、地上の人間にしっかりと確認出来る高度と速度で飛び始める。
そしてリュージンの思惑通り、地上に居る人達が騒ぎ出したのに気を良くしているのか旋回などもしている。
ロザリアンヌは自分達の事まで認識されては困ると、慌てて認識阻害をかけた。
「もうリュージンってば、私達を乗せているのを忘れてないよね?」
ロザリアンヌが少し非難する様に言うと、「忘れてはおらん、安心せい」と平然としている。
「リュージンに釘付けで僕達の事など意識もしないと思っているんじゃない」
「そうに違いないな」
「違いないとはどういう意味じゃ。みな儂に注目しているに決まっているではないか」
キラルとレヴィアスの手厳しい指摘にリュージンは慌てて答えているのを聞くと、どうもその通りだったらしい。
ロザリアンヌは大きく溜息を吐き、やはりリュージンに移動を頼んだのは失敗だったかと思うのだった。




