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ロザリアンヌ一行はジュードのお爺さんとお婆さんの了承を得て、旅立つ前にトーガの街に転移した。
アリオスを送って行くついでにドラゴパパの冒険者登録をする為だ。
久しぶりに冒険者ギルドのスイングドアを潜るとカウンターでは綺麗な巨乳のお姉さんが待機していた。
(そう言えばユーヤンは夜勤担当だったっけ)
そんな事を考えながらカウンターへと向かい、冒険者登録の手続きをお願いする。
「冒険者登録をしたいのですが」
「どなたを登録しますか?」
「今日はこのドラゴパパを」
「ドラゴパパですか?」
「あっ…」
すっかりドラゴパパ呼びが普通になっていたが、まさかドラゴパパで登録は出来ないだろう。
「名前をまだ伺っていませんでした」
ロザリアンヌは今頃になってドラゴパパに名前を聞いていた。
「名前か、かの娘にはリアンディと呼ばれていたのぉ」
「その名を私達も呼んでも構いませんか?」
「そうじゃのぉ…」
ドラゴパパは少しの間物思いに耽っていたが、何かを決意した様に話始める。
「その名は儂の思い出に刻んだ。ロザリー、お主が儂に新たな名を付けると良い」
「えっと、私ですか?」
「そうじゃお主じゃ」
ロザリアンヌは少しだけ躊躇する。
そもそも名付けは得意じゃないんだよとは言えず、それにジュードのお母さんが呼んだ名前に影響されるのは考えものだろう。
とは言っても、仮にも神様に近い存在に付ける名前など簡単に思いつく訳も無い。
「リュージンなんてどう?」
日本の龍神をそのまま名前にしてみたのだが、ちょっと安易過ぎたかとも思っていた。
「悪くは無い。その名で構わん」
ドラゴパパにあっさりと了承を得られ、ロザリアンヌは少しだけホッとする。
もっとも龍神の存在を知るものなどこの世界ではロザリアンヌだけだろうし、多分何の問題も無い筈だと自分に言い聞かせる。
そうしてその後無事に冒険者登録を終えたドラゴパパは、魔物素材を売りしっかりと現金を手に入れていた。
「これで暫くは儂も心配なく人里を楽しめるのだな。礼を言うぞロザリー。それでその礼とは言わんが儂にドラゴを預けてはくれんか」
「ドラゴをですか?」
ロザリアンヌはドラゴパパの申し出に驚き、その真意を確かめたかった。
「そうじゃ、しばらくの間儂の手でドラゴを鍛えたい。無論お主が嫌だと言うのならそれでも構わぬがな」
ドラゴパパは自分の手でドラゴを鍛えたいと言うが、ロザリアンヌは折角弟ができた様な気分になっていたし、別れるとなるとやはり寂しさを感じる。
しかしドラゴの事を考えたら、ここでドラゴパパに鍛えて貰った方がドラゴンとしての格も変わるのじゃないかとも思う。
『ドラゴはどうしたい?』
ロザリアンヌは自分では決め切れず、ドラゴに念話を送っていた。
『良く、分からない』
ドラゴにしてみればお父さんと別れるか、ロザリアンヌと別れるかと言うだけの問題でも無いのだろう。
そう思うとやはり自分の我儘でドラゴの将来を左右させるのはどうかと思い、ロザリアンヌは寂しさを我慢し決意する。
「分かりました。ドラゴはドラゴパパに預けます。でもまたいつでも会えるのですよね?」
「当然じゃ。当分の間は儂がいつも一緒にいる事になるしな。儂を呼んでくれればドラゴも一緒じゃ」
「いずれ成長したドラゴをまた迎えに来ても良いんですよね?」
「そうじゃのぅ、その時にドラゴの力が必要だと思えばそうするが良い」
「ドラゴは今のままでも私達の仲間です。迎えに来るのは当たり前じゃないですか!」
ロザリアンヌは心から叫んでいた。
アリオスの足問題があったとはいえ、懐いてくれたドラゴを仲間にしたのはロザリアンヌだ。
自分で名前を付け、少しだけ意思の疎通もおぼつかないとはいえ念話だってできる。
しっかりとロザリアンヌ達の力になってくれていたれっきとした仲間の一人だ。いや一匹だったか。
「クゥ~ン!」
ドラゴにもロザリアンヌの気持ちは通じた様で、力強い鳴き声を上げていた。
「ドラゴパパとしっかり修行に励むのよ。元気でいてね」
ロザリアンヌはドラゴの頭を何度も撫でた。
「おいおい、まったく今すぐの別れじゃあるまいし大袈裟な。ダンジョンまで送ってもらうのだろう?」
アリオスが折角盛り上がった感情を台無しにする事を言って来る。
「やっぱりあなたを家まで送った方が良いの?」
ロザリアンヌは嫌味な言い方でアリオスに仕返しをしていた。
「俺はギルマスと話もあるからここで別れる。ロザリー、俺との約束も忘れるなよ」
ロザリアンヌはアリオスと何か約束をしただろうかと少しだけ考える。
そう言えばあの村を再建させた暁には仲間にしろとかなんとか言っていた様な…
思い出してはいたが無視をする事にした。
「あの村の復興は絶対に忘れないでね」
「ああ、任せておけ」
一緒に旅している間は口数も少なく何の役にも立たなかったアリオスも、トーガの街に帰って来た途端偉そうな態度が復活した様だった。
アリオスを仲間にするかどうかは別として、絶対にあの村はどうにかして欲しいとロザリアンヌは強く願っていた。




