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「ねえロザリー、ドラゴパパにもマジックポーチを作ってくれない?」
戻って来たキラルが珍しくロザリアンヌに頼みごとをしてきた。
「また何で?」
「ちょっと張り切って魔物を倒しすぎちゃった」
キラルとドラゴパパは、オーラを消す修行と称して大森林内の魔物を倒して回っていたらしい。
ドラゴパパともなるとロザリアンヌ以上に魔物が警戒するので、今まではわざわざ相手にした事も無かった。
それに人型に変化すると上手く力を制御できず、下手したらたいした強敵でもない相手に手古摺っていたが、今回オーラの調整とともに力も少しは使える様になり、魔物に逃げられないのも楽しくてつい倒し過ぎたとドラゴパパは豪快に笑っていた。
要するに冒険者登録をして早々に現金に換える魔物を倒したので、それを収納する為のマジックポーチが必要と言いう事だろう。
「まったく、そんなに倒したの?」
「うん、見てみる?」
キラルとドラゴパパに案内された場所には、本当に魔物が山になっていた。
「それでは私が解体を手伝いましょう」
「それじゃ俺も手伝うよ」
魔物の山に呆気に取られていた筈のジュードとアリオスが申し出る。
「そうだねこのままじゃどちらにしても収納が大変だし、冒険者ギルドで手数料も取られるしね」
ロザリアンヌが今作れるマジックポーチで収納は充分に間に合うとは思ったが、それでもそれだけになってしまいそうで自信が無く、魔物を解体し必要な部分だけとなれば、それに越した事はないと考えていた。
それに今は魔力も気力もまだ復活しきれていないので、今すぐにマジックポーチを作るのにも問題があった。
「じゃあ僕達はもう一度出かける?」
「そうじゃのぉ、儂のオーラは少しは消せておるか?」
ドラゴパパに聞かれて気付くと、ドラゴパパのオーラはすっかり落ち着き普通に強者感が漂う程度になっていた。
「大分マシになってる。でもこれ以上魔物を倒して貰ったら処理に困るから自重して」
「では儂は何を楽しんだら良いかのぉ」
「そうだ、キラルと料理のレシピでも研究したらどう?ドラゴも喜ぶ様なレシピの研究」
「それ賛成!」
「儂にも料理をしろと言う事か?」
「できる様になればもっと楽しいと思うけどな」
「クゥ~ン!」
キラルとドラゴパパに一緒に付いて行っていたドラゴも賛成の様だった。
「じゃあ早速今晩の料理から任せても良い?」
ロザリアンヌはキラルとドラゴパパに専用の練成鍋と練成オーブンを作り手渡し、調味料などの材料もマジックポーチから取り出す。
「キラル殿お手本を頼むぞ」
「任せておいて!」
すっかりやる気になっているキラルの楽しそうな様子を見て、ロザリアンヌも心が和んで行く。
「私はMPの回復に努めるから後はよろしくね」
ロザリアンヌはそう言うと隠れ家に戻り、少し仮眠をとる事に決めた。
ちょっとだけそう思いながらベッドに入ったが、目が覚めるとすっかりと日が昇り次の日の朝になっていた。
「余程疲れていたのか?」
いつの間にかレヴィアスが戻って来ていた。
「おはよう、すっかり熟睡したって感じ」
「魔導船ができあがっていたが、受け取りは魔導艇と一緒で構わないだろう?」
「うん、今の所必要なさそうだしね。それより何か変わった事は無かった?」
「変わった事とはなんだ?ロザリーは何を聞きたい?」
レヴィアスに抽象的な聞き方をしても通じないのだと理解し、聞き方を少し変えてみる。
「師匠達は変わらずに元気そうだった?」
「双子の妹たちがソフィアの弟子になり錬金術の練習を始めた様だな」
「本当に錬金術師になるつもりなのか。頑張って欲しいな」
「兄達は妹の為に素材を手に入れると張り切っていたぞ」
「お母さんとお父さんはどうしてた?」
「ロザリーの母は店番を手伝い始めていたな。父はソフィアの口利きで貴族の家に勤め始めたらしいが私は良く知らない」
ロザリアンヌはレヴィアスの報告にみんなそれぞれ順調に自分の道を歩み始めたのだと胸を撫でおろす。
そしてソフィアとカトリーヌが少しは歩み寄り打ち解けた様なので本当に良かったと喜んだ。
「本当に良かった」
「それより誰も居ないんだな。ここが安全とはいえ弛んでるんじゃないか」
レヴィアスはいつもロザリアンヌの傍に誰かしらがいる事が当然だったので、不満の様に口にしていた。
「みんなそれぞれ忙しくてね。私が割り振ったの、誰も悪くないからね」
ロザリアンヌはレヴィアスに言い訳をしてから約束のマジックポーチの練成に取り掛かる。
そうして新たに作ったマジックポーチの容量に、ロザリアンヌは自分にも同じものが必要だと考える。
これからもっと色んな素材を集めたいし、用途別に持ってはいるが、いずれは足りなくなりそうな気がしていた。
「この際ドラゴパパには少し我慢して貰うか」
ロザリアンヌは同じものを今スグに二つ作る気力も魔力量も無かった事から、ロザリアンヌの使っていたマジックポーチの方を進呈しようかと考える。
しかしその考えはすぐに打ち消し、また明日同じものを作れば良いのだと思い直す。
「そうだよね、そんなケチ臭い事考えちゃダメだよね」
ロザリアンヌは一人呟き、自分の心の狭さを反省する。
仮にもこの大陸の神様の様な存在に進呈するのにお古って、考えただけでもバチが当たりそうだ。
そうしてロザリアンヌとレヴィアスは、新たに作ったマジックポーチを手にジュード達の居る場所へと向かった。
そしてそこで見た光景は凄かった。
キラルにドラゴパパだけでなく、ドラゴにジュードにアリオス達面々がお腹をすっかり膨らませていたのだ。
ドラゴなど若干大きくなったんじゃないかと思えるほどで、苦しそうにしている様子にロザリアンヌは呆れ果てた。
「いったいどれだけ食べたの?」
「食べられる魔物を食べないのは勿体ないかと思って」
「そうじゃ、キラル殿が料理をしてくれると美味しいしのぉ」
「ええ、私もついつられてしまいました」
「クゥ~ンクゥ~ン」
「ドラゴは料理しないやつも食べてただろうが」
ロザリアンヌはこの場に居なかった事を喜んでいいのか反省するべきか悩む所だった。
「思う存分美味しい物を食べられたなら良かったんじゃない」
ひと際苦しそうでありながら嬉しそうなドラゴの頭を撫でながら、ロザリアンヌは平和な幸せを感じていた。
やっぱり美味しい物を仲間と一緒に思う存分食べるって嬉しいだろうし、今回はロザリアンヌは参加していないが幸せそうな様子を見るだけで満足できた。
美味しい物を食べて欲しいと思える相手がいるのも幸せな事で、きっとその相手は自分にとって大事な人と言えるだろう。
だからこれから何があろうと、美味しい物は仲間と分け合って食べようと思うロザリアンヌだった。