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「俺が今までいかに子供で世間知らずだったのか、この旅で教えられた気分だ。俺はいつも俺に対して偉そうにする親父と兄貴達を見返したいと考えていたが、今となってはそんな事を考えていた自分が恥ずかしい。それにこうしてダンジョンの最深部まで連れられて来てみれば、俺が何一つ役に立っていない事は明白だ。俺がロザリアンヌ、君達の役に立てるとしたらこれからだろう。精々このダンジョンの知名度を上げ、頓挫したあの村の再建に尽力すると約束させてくれ。そしてそれを成し遂げられたその時こそ、本当に君たちの仲間にして欲しい」
アリオスはロザリアンヌの思ってもいなかった事を口にし、驚いた事に頭を下げた。
ロザリアンヌは正直あのアリオスが?という信じ切れない気持ちもあったが、変わろうとしている事だけは感じていた。
「うん、期待してる。お願いします」
ロザリアンヌも素直に頭を下げた。
あの村が今まで見放されていた分を取り戻せる可能性が増えるのだとしたら、アリオスに頭を下げるのも厭わない気持ちでいた。
ロザリアンヌがあの村に永住するのであればまた違った方法もあるのだろうが、ロザリアンヌはただ通り過ぎるだけの旅人でしかない。
少しばかりの手助けはできるかも知れないが、助け続ける事ができない以上こうして誰かに託すしかないと思っていた。
「任せておけ、絶対に本当の仲間になってみせる」
ロザリアンヌは正直アリオスの事を仲間にする気なんてまったく無かったが、そう言えばそんな事も言っていたと思い出し少し困惑する。
「そろそろ出るか」
「そうしましょ」
レヴィアスに促され、ロザリアンヌはアリオスの仲間問題を曖昧にした。
「ドラゴパパの所へ行くんだよね?」
キラルが転移先を確認してくる。
「そうだね。ドラゴパパにジュードも紹介したいし、宝玉問題の報告が先だよね」
ロザリアンヌはみんなを纏めてドラゴパパの所へと転移した。
「ただいま~」
「無事な様で何よりだ。それで宝玉はどうなった?」
「宝玉はね持って帰れなかった。でもダンジョンの設定は変えて来たからもう大丈夫だよ」
「どういう事だ?」
ロザリアンヌは宝玉はダンジョンコアであることを説明し、それが無くなってしまったらダンジョンが崩壊する事を教え、新たにダンジョンの設定をどう変えたかも説明した。
そしてあの村に残った村人が居た事、ドラゴパパが恋した娘さんの息子がジュードである事も話した。
「確かに面影がある様じゃ」
ドラゴパパはドラゴに対面した時以上に嬉しそうにニコニコしていた。
ロザリアンヌはそれを見て、ドラゴパパが思い出の中の娘さんと何かを語り合っている様に感じていた。
アリオスは相変わらずドラゴパパの気配に圧され、離れた場所で大人しくしていたが、ジュードはつかつかとドラゴパパに歩み寄る。
「あなたがこの大森林のヌシ様ですか?」
「儂はここのヌシとはまた違う、故あってここに少しばかり留まっていただけじゃ」
物怖じする事無く対峙する二人と傍に居るドラゴを見ていると、ロザリアンヌの中にもしかしてドラゴとジュードは兄弟じゃないかという疑惑が改めて浮かび上がっていた。
しかしドラゴパパに聞くのも憚られ、ロザリアンヌはまたも一人否定する様に頭を振った。
「ロザリー、お主はこの地のダンジョンをすべて踏破すると言っておったな。この地を離れ動ける様になった礼じゃ、儂も少しばかり協力しよう」
ドラゴパパがそう言うとロザリアンヌの目の前に小さな呼び笛が現れ空中をフワフワと浮いていた。
「これは?」
「その笛を吹けば儂がいつでも駆けつけ手助けをしてやる。心置きなく使うが良い」
ロザリアンヌはドラゴパパの気持ちはとても嬉しかったが、いずれ魔導艇が手に入るし多分ドラゴパパの活動範囲はこの大陸に限られると思われるので、あまり役に立ちそうにないと考えていた。
それに何より、ドラゴパパが上空に現れたら大変目立ちそれだけで大騒ぎになりそうだ。
「当然姿を消してくれるのですよね?」
「何?それでは儂が目立たないではないか」
「私はドラゴパパで目立つのはごめんです」
ロザリアンヌはドラゴパパを少し冷たく睨む。
「まあ良いわ。お主の役に立つと言ったからには協力は惜しまん。お主が姿を消せというならそうしよう」
ドラゴパパはとても残念そうにした。
「それじゃ次のダンジョンまで連れてってください」
「その程度の事なら容易いわ、任せておけ」
ロザリアンヌは落ち込んだ様子のドラゴパパに元気を出して貰おうと、次のダンジョンまで送ってもらう事にした。
その間の移動でドラゴパパが少しばかり目立っても、人気のない場所で降りれば良いかと考えた。
そうすれば取り敢えずドラゴパパの要望には応えられそうだと思っていた。
「その前にジュードとアリオスを送ってくるね」
「できれば私も一緒に連れて行ってはくれませんか」
ロザリアンヌとドラゴパパの会話を聞いていたジュードが、いきなりとんでもない事を言い出した。
「一緒にって次のダンジョンへ?」
「そうです。次のダンジョンだけでなくこれからずっと一緒にです。私をあなた方の仲間にして頂けませんか。お願いします」
ジュードは深々と頭を下げる。
「村はどうするの?」
「これからアリオス殿が尽力してくださるというのなら私は安心して旅立てます。勿論祖父と祖母には了承を得ようとは思っています。困らないだけの準備も考えます。だからどうか私も連れて行ってください。村以外の場所を知るのが夢だったんです。あなた方と一緒にダンジョンで戦ってみて、本当に楽しかった。できるならこのまま一緒に居たいと思ってしまったんです」
ジュードの必死さにロザリアンヌはどこか感激していた。
始めて来たこの大陸で、ロザリアンヌ達を認め一緒に戦いたいと言ってくれる人が居るとは思ってもいなかった。
アリオスと先に少しだけ一緒に旅してみて、良く知らない相手と仲間になる難しさを感じていたけど、ジュードはロザリアンヌがジュードを認めるより先にロザリアンヌ達を認めてくれた。
ロザリアンヌはその事が何だかとても嬉しかった。
「私は構わないけどキラルとレヴィアスはどう思う?」
「僕は賛成だよ。僕も一緒に戦っていて楽しかった」
「ロザリーが良いなら私に反対する理由は無い」
キラルもレヴィアスも賛成はしてくれたけれど、それでもジュードに再度確認する。
「私達の旅はダンジョンを攻略するだけじゃないよ。本当に大丈夫?」
「どんな世界が待ち受けているのか楽しみです」
「分かった。じゃあ、一緒に行こう。改めまして、これからもよろしくね」
ロザリアンヌは右手を差し出しジュードと握手を交わした。
アリオスと揉める原因になった年上の男性に対する気軽な態度も、ジュードは笑って受け入れてくれたので、ロザリアンヌはホッとしながらジュードなら大丈夫そうだと思っていた。