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新たにジュードを交え楽しい食事を済ませゆっくり休んだロザリアンヌ達一行は、延々と続くのではないかという蟻の巣ダンジョンをとにかく奥へ奥へと進んだ。
最近は練成鍋で作る料理を得たいが知れない物と言わなくなったアリオスとは違い、ジュードは何をしても驚き喜んでくれるのでロザリアンヌは気分が良かった。
ドラゴも居たのでステーキと付け合わせにスープと定番すぎるメニューだったにもかかわらず、ジュードもドラゴも美味しいと喜んで食べてくれのでロザリアンヌはとても満足した夜を過ごした。
今の所階層ボスの様な存在に出会う事も無く、多少魔物の出現率が上がった程度で相変わらずあまり緊張感も無くダンジョン内を移動していた。
「やはりみなさんとてもお強いですね」
突然現れたかのように見えた蝙蝠の魔物を速攻魔法で倒したロザリアンヌとレヴィアスに向かってジュードが言う。
「ここの敵は然程強くも無い」
「私には十分強い相手です」
「でも今までこの魔物相手に一人で戦っていたんでしょう。それってとても凄い事だと思うわ」
ロザリアンヌの本心だった。
ロザリアンヌは装備やスキルに助けられているが、ジュードはそれらに関してあまり知識も持たず、装備している物も手作りの決して良いとは言い難い物だ。
その状況でダンジョンに一人で入り、今まで命を落とす事無く居られた事こそが凄いと思うし、ロザリアンヌには真似のできない事だ。
ロザリアンヌにはゲームの知識があったし、チートスキルや装備品が手に入るのを知っていたから躊躇なく居られたが、もしそれが無かったらダンジョンに迷わず入り続ける事ができたかは疑問だった。
「こんなに奥まで来たのは初めてです。私はただ足手まといにならないようにと必死なだけですよ」
ジュードは苦笑いして見せるが、少なくともかなりレベルが高いだろうとロザリアンヌは想像していた。
身体能力を強化しているとは言え基本の戦闘能力がロザリアンヌ達とは全く違い、本物の戦士と呼んで間違いないと感じていた。
他の村人達が見捨てたあの村をずっと一人で守って来たのだろうから、それも当然の結果だろうとロザリアンヌは思っていた。
そしてついに今までとは明らかに違う異様な雰囲気の階層に出た。
多分蟻の卵だろう物で埋め尽くされた空間が3つもある階層だった。
蟻の卵を守っていたのだろう兵士蟻が、まるでモンスターハウスの様な勢いで一斉に襲い掛かってくる。
その奥にはひと際大きな女王蟻だろう気配も感じていた。
「私に任せて!」
ロザリアンヌはシャイニングレインを即座に展開する。
流星群の流れ星が降り注ぐように光属性の槍が広範囲に突き刺さり、兵士蟻の数を次々に減らして行く。
ロザリアンヌの両脇ではシャイニングレインを逃れた蟻を、キラルとレヴィアスがやはり魔法で討ち取っている。
下手に接近しては不利になると考えた戦略は大成功だった。
そうして兵士蟻の数を減らしながら少しずつ奥へと移動し、蟻の卵も消滅させて行く。そして辿り着いた場所には気配通りとても大きな女王蟻が居た。
そう認識した時だった。驚いた事に女王蟻はいきなり雷魔法を撃ち放ってきた。
先頭に居たロザリアンヌもキラルもレヴィアスも結界に守られ平気だった。
ジュードとドラゴは咄嗟に反応して回避したが、アリオスがドラゴの背に乗っていなかったらと思うとロザリアンヌは顔を青くした。
少なくともアリオスの命を守る事は絶対と決めていたのに、今まで然程脅威にもならない相手と油断していた自分を呪った。
今回はドラゴに助けられたが、下手な拘りなど持たずに防御を完璧にする装備くらい渡しておけば良かったと後悔した。
ロザリアンヌがそんな後悔をしている間に、女王蟻はキラルとレヴィアスの手によって呆気なく倒されていた。
「ドラゴありがとう」
ロザリアンヌはアリオスが無事だった事を喜び、ドラゴに抱き付き心から安堵していた。
「クゥ~ン」
『ドラゴって凄いね、あの魔法を咄嗟に避けられるなんて』
『凄い、偉い』
『偉い、偉い』
ロザリアンヌはドラゴの頭を撫でながら褒めた。
「ジュードも凄かったね、私なんてまったく反応できなかったよ」
「逃げるのだけは得意なんです。命を守る為の術ですからね」
冗談めかして言うジュードにロザリアンヌは頼もしさと好感を持ち思わず笑みを浮かべてしまう。
「おい、魔法陣があるぞ」
レヴィアスに言われ確認すると、女王蟻が居ただろう場所に魔法陣が浮かんでいた。
「まだ最深部には到達していないのに、あれって入り口に強制送還されるタイプじゃないよね?」
ロザリアンヌはメイアンのダンジョンを思い浮かべ少し疑ってしまう。
「もしそうだったとしても、転移で戻って来られるだろう」
そう言われてみればこのダンジョンは様相を変える機能は停止されているので、この女王蟻の部屋に転移しようと思えばできるのだとロザリアンヌは素直に納得した。
「そう言えばそうだった」
そうしてロザリアンヌ達は迷うことなくみんなで一緒に魔法陣に乗ったのだった。