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ダンジョンに入ってみると洞窟タイプの作りで、当然のように中は視界が取れる程度には明るかった。
「じゃあキラル、レヴィアス、久しぶりのダンジョン攻略よろしくね」
「うん、僕に任せて!」
「分かっている任せておけ」
「クゥ~ン」
ロザリアンヌは久しぶりと言うより、この大陸に来て初めてのダンジョン攻略に気合を入れ号令をかける。
ドラゴも返事をする様に鳴き声を上げたがアリオスは相変わらず返事もせず、またドラゴから降りる気も無い様だった。
ロザリアンヌはそんなアリオスを無視して、既に駆け出していたキラルとレヴィアスの後を追う様にダンジョンの中を進む。
どんな魔物が出現するのか、そしてその上位種やレア種とはどんな魔物なのか、ロザリアンヌはそれが知りたくて少しだけワクワクしていた。
そして少し進むとダンジョン内は洞窟と言うより、アリの巣の様な様相をしている事に気が付く。
通路の様な少し狭い洞窟と広くなった空間の繰り返しで、そして大抵の場所は行き止まりになっていた。
魔物も体長が1mはあるだろう蝙蝠に似た魔物に、スライムと体長2m以上はあるだろう蟻に似た魔物が出現した。
飛び回りながら襲い来る蝙蝠も顎をギチギチ言わせながら迫りくる蟻も、普通なら厄介な相手なのだろうが、ロザリアンヌ達の敵ではなかった。
時折色の違うものや強そうな様相の魔物が現れたが、まったく問題無く倒せていて、寧ろ思っていた以上に魔物の数が少なく、ロザリアンヌは何となく拍子抜けしていた。
「今のがレア種ってヤツだったのかな」
あまりに呆気ない戦闘を終わらせロザリアンヌはドロップ品を拾いながら呟いた。
今倒されたのは物理にも魔法にも耐性を持つと有名な姿も大きな金色のスライムだったが、キラルのピコピコハンマーで一撃だった。
「Sランクダンジョンに比べたらどうって事無いかもね」
「そんな事より先を急ぐぞ」
レヴィアスが何かの気配を察知したのか突然駆け出した。
慌てて後を追うと少し移動したところでロザリアンヌも同じ気配を察知する。
それは多分あの老人が言っていたジュードと言う青年の気配だと思われた。
魔物と対峙しているがどうやら苦戦している様に感じ、ロザリアンヌも急いでレヴィアスの後を追った。
そして青年と魔物を目視で確認した時にはレヴィアスによって魔物は瞬殺された。
「大丈夫か」
「あっ、ありがとうございます」
レヴィアスに声を掛けられ、ジュードは慌てて頭を下げた。
「無事だったなら良い」
「武器が壊れてしまい苦戦していました。本当に助かりました」
見詰め合い二人だけの世界を作っているかの様な姿にロザリアンヌは何故か赤面した。そのくらい二人は絵になっている。
ジュードは見るからにボロボロの服装で明らかにみすぼらしいのに、どこか凛としたオーラを醸し出しているとてもスタイルの良い美青年だった。
それがどこかミステリアスで大人なイメージのレヴィアスと並ぶと、キラルとは違った雰囲気を醸し出していてロザリアンヌは思わず見惚れてしまった。
「これは珍しい、ブレイドラゴンを従えているのですね」
ジュードは目を輝かせ嬉々としてドラゴに興味を示すので、ロザリアンヌは漸く我に返る。
「私はロザリアンヌ、みんなにはロザリーって呼ばれてます。あなたはジュードで間違いない?村で話を聞いて来たのだけど」
「これは挨拶が遅れました。仰る通り私はジュードと言います。もしかして私を助けに来てくれたのですか?」
「それもあるけど、ダンジョンを踏破するために来たのよ」
ロザリアンヌは何故か珍しく大きく胸を張り自慢気にするが、何故か胸にざわつくものを感じていた。
意志の強そうなキリリとした切れ長の瞳なのに冷たい雰囲気など微塵もなく、寧ろ柔らかく穏やかな笑顔がロザリアンヌに今まで感じた事のないものを感じさせていた。
「このダンジョンを踏破なさるのですか?」
ジュードはまじまじとみんなを見回した後軽く頷くと「みなさんなら本当に成し遂げてしまいそうですね」と言った。
「当然よ、私の自慢の仲間だもの。ジュードも一緒に来る?」
ロザリアンヌは当然のように自分から誘っていた。
アリオスを仲間にと言われた時の戸惑いの様なものは一切なく、不思議なのだが自然と一緒に戦いたいと思えていた。
「それは有り難いお誘いですが、私は足手まといにはなりませんか?それに踏破するとなると何日掛かるかも分からず祖父と祖母の事も心配です」
「一応家には結界を張って来たわ。それに食材もかなり置いて来たから大丈夫だと思うけど、無理強いはしないわ」
ロザリアンヌはどこか説得する様な気持ちでジュードに話していた。
ジュードは少しだけ考える様な素振りを見せてから「ありがとうございます。ではお言葉に甘えご一緒させて貰います」とロザリアンヌにキラルやレヴィアスだけでなくドラゴやアリオスにまで改めて一人一人に頭を下げ挨拶をして行く。
「僕はキラル、これからよろしくね」
「私はレヴィアスだ。遠慮する事は無い、十分に力を発揮して見せてくれ」
「よ、よろしく」
「クゥ~ン、クゥ~ン」
ドラゴは何故かとても嬉しそうに好意的に鳴くと、ジュードに擦り寄っていた。
そしてドラゴの頭を撫でるジュードを見ていてふとある疑惑がロザリアンヌの頭をよぎる。
(もしかしてドラゴはジュードと兄弟なんて事は無いよね?)
そこまではドラゴパパに聞いていないけれど、あの村で恋した娘さんの子供って事はそういう事もあり得るのかも知れないと、ロザリアンヌは想像するが頭を振って否定する。
(いやいやいや、そこまで考えるのはあまりにも二次元脳すぎるか)
「こちらこそこれからよろしくお願いします」
ロザリアンヌはあまりにもくだらない事を考えた後ろめたさから、改めてジュードに深々と頭を下げていた。




