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ドラゴパパは普段は認識阻害で気配を消し、幻惑に似た力で風景に紛れて過ごしていたが、ドラゴの気配を察知し姿を現して待っていたそうだ。
間違いなくこの大陸最強種のドラゴパパは、別のドラゴン種のメスに求愛されて何度か子供を作っているので探せばドラゴの兄弟がこの大陸のどこかに居るそうだ。
そしてドラゴに翼が無いのはもしかしたらドラゴのママの遺伝子が強いか、ドラゴの成長で変わるかはドラゴパパにも分からないらしい。
「という事はドラゴの兄弟かも知れないからこの先ドラゴンとは戦えないよね」
「案ずるな、そんなに沢山はおらん。第一お主らと戦って敗れる様なヤツは儂の子供ではない」
「きっとドラゴが分かるんじゃないのかな」
ロザリアンヌの懸念にドラゴパパが笑っているとキラルが答えをくれた。
「そっか、ドラゴパパの事だってすぐに分かったみたいだから、兄弟の事もきっと気付くよね」
ロザリアンヌがドラゴに確認する様に頭を撫でると、ドラゴも当然とばかりにクゥ~ンと鳴いた。
「それよりどうしてあやつを連れ歩いておるのだ」
ドラゴパパは一人離れた所で蹲るようにして動かないアリオスの事を気にして聞いて来た。
アリオスはどうもドラゴパパの強すぎる気配に耐え切れずにいるらしい。
「この先にあるダンジョンに入る為の条件なんです」
「おお、お主らはあのダンジョンに入るのか。それでは一つ頼みごとをしても良いかな」
「私達にできる事なら構いませんよ」
ドラゴパパからダンジョンの話を聞くのは不思議な気分だったが、頼みごとをされるとは思ってもいなかった。
しかしきっとその頼み事とはダンジョンにまつわる事なのだろうと予測し、ロザリアンヌは気軽に返事をした。
「なに簡単な事じゃ。最下層にある宝玉を持ち帰ってくれ。さすれば儂もこの地に留まり続ける必要が無くなる」
「どういう意味ですか?」
ダンジョンと最下層にある宝玉と、この地に留まり続けるドラゴパパの関連が分からずにロザリアンヌは当然のように尋ねていた。
「ダンジョンが生きているという話はお主も知っておろう。その宝玉さえあればその仕組みを解除できるのじゃ。儂はあのダンジョン傍にある村の娘と約束をした」
ドラゴパパが語ったのはもう何年も昔の話。
ドラゴパパが人の姿に変化し村を訪ねた時にとても親切にしてくれた村の娘に恋をした。
しかし村はとても貧しく娘は大きな街へと働きに出る事になり、ドラゴパパは少しでも力になりたいと考えたのがダンジョンを停止させる事だった。
入る度に様相を変えるダンジョンのその機能を停止できれば、ダンジョンがもたらす恵みで村は潤い娘も村に留まってくれるとドラゴパパは考えたらしい。
しかし人の姿でダンジョンに入ってはみたが思う様に力を発揮できず、かと言ってドラゴンの姿ではダンジョンに入る事は叶わず、仕方なく今はこの地から自分の力を使いダンジョンを停止させているそうだ。
「もうあの娘ももしかしたら亡くなっているかも知れん。だが、約束は誓いとなりこの身に焼き付いている。しかし儂もそろそろ元々の住処に帰りたい。だからあの宝玉を持ち帰って来てくれ」
「ダンジョンの傍に村なんてあった?」
ロザリアンヌはドラゴパパの話を聞いてレヴィアスに確認する。
大森林の地図を埋めていた時にそんな村があったなら少なくとも気付く筈で、飛んでいる時はダンジョンの傍にそんな村を見つける事は無かった。
「ああ廃墟と化した小さな村があったな」
ロザリアンヌはまったく気付いていなかったが、レヴィアスは気付いていたらしい。
ドラゴパパはその話を聞いて少し悲しそうにした。
「そうかあの村はとうの昔に廃墟になっておったか。儂も迂闊だったな、せめて気配なりとも探っていればもっと早くに気付いただろうに。あの娘の気配から外れこの場所を選んだばかりに儂も馬鹿な事をした」
ドラゴパパはその村の気配を探るのを避けるためにこの場所を選んだらしい事を口にするので、ロザリアンヌはそこにドラゴパパの思いの深さや切なさを感じていた。
きっと自分が探知できる範囲外でそしてダンジョンに力を注げる限界の場所がここなのだろう。
村娘といったい何がありそして魂に焼き付く程の約束をしたのか、ドラゴパパに語る気が無い以上ロザリアンヌに知るすべはなく想像するしかできないが、何だかとても悲しくなってくる。
「しかし数人の気配はあった様に思う。確認してみなければ確かではないがな」
レヴィアスの言葉にロザリアンヌは少しの希望を見て期待する。
「ドラゴパパ、私達が村に行って確認して来るよ。もしかしたらその娘さんの事を知れるかも。だからそれまで待ってて。勿論ダンジョンの宝玉もきっと持ち帰ってくるわ。それがあればもうダンジョンが様子を変える事も無くなるのでしょう。そうしたら沢山の人がダンジョンに入れるようになるし、良いことだらけよ。うんそうよ、私に任せて!」
ロザリアンヌはドラゴパパに少しでも元気になって欲しくて、精一杯に力強く宣言をする。
そしてこの大陸のすべてのダンジョンが、もっとみんなに攻略し易くさせる為にも絶対に成功させようと考えていた。
「ハハハ、ああ、久しぶりに楽しい気持ちになれたわ。ロザリアンヌ、お主に任せた。儂ももうしばらくここで夢でも見ているとしよう」
ドラゴパパが初めてロザリアンヌの名前を呼んでくれた事を、ロザリアンヌは心から嬉しく感じていた。
そしてドラゴパパの為にも期待は裏切れないと思うのだった。