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今日からまた1日1度午前1時の更新に戻ります。申し訳ありません。
ドラゴを仲間にしてからは大森林の中の移動もとても楽になった。
ドラゴは走りが速いだけでなく身のこなしも軽快でジャンプ力もあり、寧ろ背中に乗っているアリオスの方が大変そうだったがロザリアンヌは気付かない振りをしていた。
勿論大森林の中でロザリアンヌに向かって来る強敵に気付けばその場で待ち伏せ倒したし、木の実や蜂蜜を見つければ当然手に入れた。
そんなロザリアンヌ達の行く手を阻む問題は川だった。
歩いて渡れそうな浅い川ならドラゴでも問題無かったが、川幅が100m以上はありそうな川を目の前にしてどうするかを決めかねていた。
上流に向かい渡れそうな場所を探すか、それともキラルとレヴィアスに協力を仰ぎアリオスとドラゴを運ぶかの二択だろうが、ロザリアンヌは以前アリオスを運ぼうと提案して断られていた事もあって運ぼうとは口に出せなかった。
しかしどれくらい上流まで行けば渡れそうな場所が見つかるかも分からない。
「筏を作ったら向こう岸まで運んでくれる?」
ロザリアンヌはキラルとレヴィアスに恐る恐る聞いてみる。
「仕方ないそれ位の協力はしよう」
「僕も良いよ」
ロザリアンヌが思い悩む必要も無い程簡単に、キラルもレヴィアスも気軽に了承してくれた事に心から安心した。
そうして無事川を渡ると、大森林内の雰囲気と魔物の気配がガラッと変わったのを感じた。
そしてさらに奥地へと進むと、とても強い魔物気配を探知し始めた。
「ヌシがいるかも知れないな」
「かなり強そうだね。ロザリーどう、楽しみ?」
「やめてよキラル。それじゃまるで私が戦闘狂みたいじゃない」
「・・・・・・」
アリオスはあれからまったく喋らなくなっていた。
もっともドラゴの背に乗るので精一杯で話す気力も無いのかも知れないが、≪アリオスにとって私達はただ利用するだけの相手だって事なんだね≫の返事をはっきりと聞いていなかったので、正直ロザリアンヌにはその方が気楽だった。
はっきりそうだと言われてしまったら、ロザリアンヌは今よりもっとアリオスとどう接して良いか悩む事になるだろう。
お互い利用し合うだけの相手ときっぱり割り切る事もできず、かと言って一緒にいる以上お節介心も疼きまったく気にしないでいる事もできず、今までこんな中途半端な関係でこんなに長く誰かと一緒にいる事など無かった。
ロザリアンヌにとって言ってみれば初体験だった。
「クゥ~ン!」
ドラゴが私達の会話をどれ程理解しているか分からないが、強く鳴き声をあげたかと思うと突然走り出した。それも全速力でだ。
ロザリアンヌもキラルもそしてレヴィアスも慌てて後を追う。
「まさかヌシの所へ行く気なの?」
ロザリアンヌは必死にドラゴに話しかける。
ヌシと言うだけあってロザリアンヌの魔力に気付いている筈なのに、寄ってくる事も無くその場に留まり続けていた。
だから無視をして通り過ぎる事もできるのに、ドラゴは何故かヌシに向かって走り続けている。
「私は別に強敵とどうしても戦いたい訳じゃないよ。そりゃあ素材の事は気になるけど、相手に戦う気が無いなら無益な戦闘は避けたいと思ってるんだよ。ねぇ分かってよドラゴ」
懸命にドラゴに話しかけるが、ドラゴはまったく聞く耳を持たなかった。
「話が通じないなら念話を試してみたら?」
キラルに言われ、ロザリアンヌもそうかと気が付き試してみる。
≪ドラゴお願い話を聞いて≫
≪・・・≫
やっぱりダメかと諦めかけた時には既にこの大森林のヌシであろう強敵の姿は見え始めていた。
木々の間からはその全貌を確認出来ない程大きなその相手にロザリアンヌは戸惑う。
上空から地図を埋める為に飛んでいた時はこれほど大きな敵を感知する事も目視する事もできなかった。
このヌシがこの場にずっと留まっていたとするならば、何かしらの隠蔽か幻惑かが施されていた事になる。
それもレヴィアスやロザリアンヌが一見して気付かない程強力な何か。
そう考えるだけでも相手の力量が伺える。
ロザリアンヌはこのまま強敵の前に出ても良いものかと一瞬悩むが、ドラゴはアリオスを背に乗せたまま足を止める気配も無い。
仕方ないアリオスの身を護るのが優先だと、ロザリアンヌは腹を括ってドラゴの後を追った。
「クゥ~ン!!」
必死に後を追うロザリアンヌを他所に、ドラゴはその強敵に擦り寄り鳴き声を上げる。
すると「ガォォ~」という鳴き声とともにドゴ~ンと言う激しい地響きが巻き起こった。尻尾を激しく振った様だ。
≪ドラゴ?≫
ロザリアンヌが呆気に取られ佇みドラゴに念話を送った。
≪僕のパパだよ≫
「息子よ元気な様で何よりだ。お主が息子の主となったのだな。これからもよろしく頼む」
目の前に居る山のように大きな身体で翼を持つドラゴンと思われる姿をする大森林のヌシがドラゴのパパらしい。
そしてそのドラゴパパがロザリアンヌに頭を下げたのにも驚いたが、何より驚いたのはそのドラゴパパは意思疎通のできる言葉を喋っていた。
「あっ、いえ、こちらこそお世話になってます。私はロザリアンヌと言います、これからもよろしくお願いします」
驚き緊張し過ぎて何か訳分からない事を言った様な気もするが、ロザリアンヌは慌ててお辞儀をして自己紹介をした。
「いやいや、頭を下げるのは儂の方だ。儂はもうここに留まる事くらいしかできないからな。息子には広い世界を見せてやってくれ、いずれは役に立つ日も来るだろう」
「ドラゴは充分役に立ってくれています。大丈夫です、これからもずっと一緒です」
ロザリアンヌはこの大森林のヌシであろうドラゴパパにそう約束をした。
「アハハ、そうかそうか」
ドラゴパパはひと際大きな笑い声を上げ、辺りの空気を震わせると満足した様だった。
ロザリアンヌ達はその後ドラゴパパと思った以上に意気投合し、その日はドラゴパパの傍で一晩を過ごす事にしたのだった。




