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アリオスに気配探知を任せたが、考えてみたらキラルやレヴィアスそしてロザリアンヌ以上の気配探知が使える訳も無く、はっきり言って何の役にも立ってはいなかった。
それに雑魚敵は早々に逃げ出すばかりなので、ロザリアンヌとしては魔物の縄張りなどが変わり却って良くないのではないかとも思い始めていた。
「あの魔物達がこの大森林から逃げ出して近隣の村に迷惑を掛けたりしないよね?」
不意に浮かんだ疑問をレヴィアスに投げかけた。
「さあどうだろうな。近くに村は無かったから大丈夫だとは思うが、私にはそこまで予測できない」
「大丈夫だと思うよ、だって雑魚ばかりだもの。ねぇアリオス」
キラルは何故かアリオスに話を振る。
「えっと、そうですね」
アリオスは歯切れの悪い返事をしているが、ロザリアンヌは大丈夫そうなら良いかと自分を納得させた。
「それよりも」とレヴィアスが口にすると「凄い勢いで近づいて来るね」とキラルが続きを話す。
ロザリアンヌはそう言えば倒すのは自分の役目だったと思い出し、魔物が姿を現すのを待って最大級のシャイニングスピアを頭に向けて撃ち込む。
かなり大きな黒い熊に似た魔物だったが、当然一撃で倒れ落ちた。
ロザリアンヌは熊が居るなら蜂蜜や鮭もいるのかもと呑気に考えて、きっと木の実も豊富なのだろうと考えていた。
そして見つけたら絶対に手に入れると誓っている間に、レヴィアスが魔物を回収した。
「解体をアリオスに頼むんじゃないの?」
「できるのか?」
ロザリアンヌがレヴィアスに聞くと、レヴィアスはアリオスに確認する。
「すみません一人じゃ無理です」
「だそうだ」
ロザリアンヌは内心でやっぱりねと思いながら、続いて寄って来ている魔物に備えた。
「あんまりのんびりしていると寄ってくるだけだ、早い所抜けてしまおう」
レヴィアスはそう言うが、折角向こうから来てくれるなら手間が省けるし、倒してしまえば後は気楽に移動出来そうだと考えていた。
何しろ飛べないアリオスは本当に足手まといでしかなかった。
やっぱりアリオスの足場問題を解決しない事には、この先この大森林を抜けるのに何日かかるか分からない。
以前浮遊魔法を手に入れた時に魔法の箒を改善しようと思ったが、結局そのままにしてあった。
しかしあれはアンナの魔力があったから使えるのであって、アリオスにどれ程の魔力量があるか分からない事にはたとえ改善しても使えるかどうか分からない。
さっきの熊の魔物みたいな足の速い魔物を使役できたなら、アリオスを乗せて走って貰うのにと考えてロザリアンヌの頭に閃くものがあった。
「ねえレヴィアス、魔物を使役する事はできないの?」
ロザリアンヌは闇魔法で幻惑や魅了を使えるなら、使役も可能なのじゃないかと考えたのだ。
「使った事は無いが可能かもしれないな」
「じゃあこの森の中を移動するのに良さそうな魔物を見つけたら試してみようか?」
ロザリアンヌは既にできる気しかしなかった。
何故ならこの大陸もロザリアンヌの記憶から作ったのなら、当然使役や召喚の知識もしっかり持っているのだからできない訳がない。
何ならスライムを仲間にして最強に育てる事もできるかも知れないと思っていた。
問題があるとしたら、ロザリアンヌのジョブがテイマーじゃない事くらいだろう。
もしかしたらテイマーにしか使えない能力だった場合は、いくらロザリアンヌに自信があっても使役するのは無理かもしれないという事だけだ。
しかし考えてみれば召喚士でもないのに精霊を2体も宿している時点で、規格外なのだからきっとできる筈。
ロザリアンヌは自分に言い聞かせるようにして魔物に対峙する。
(成功するまでやるだけだ)
ロザリアンヌは魔物の姿が確認できた時点で魔力を飛ばす。仲間になってくれる様に願いながら。強く強く助けてくれる様に願いながら。
ロザリアンヌの近くまで迫って来ていた魔物を倒そうとするキラルとレヴィアスを制し、ロザリアンヌは直前に迫るまで願い続けた。
するとその魔物はロザリアンヌの前で四つん這いに伏せ、ロザリアンヌに敵意の無い顔を向けてきた。
(どうしよう、使役できちゃったよ)
正直とても怖かったので腰が抜けそうだったが、使役が成功した喜びに打ち消されホッとした気持ちから全身の力が抜けその場に座り込んだ。
伏していた魔物はロザリアンヌに擦り寄るようにして頭を寄せてきたので、ロザリアンヌはその頭を撫でた。
「仲間になってくれてありがとう。それでこの場合名前を付けるんだよね」
ロザリアンヌは自分の記憶通りの手順として確認のために口にすると、魔物もそうだと言わんばかりに頷いた様に思う。
「ドラゴっていうのはどう?」
ロザリアンヌの記憶ではドレイクと言われる最強種のドラゴン似ていた事からドラゴと提案すると「クゥ~ン」と何ともドラゴンらしくない鳴き声で返事をした。
ドレイクの様に翼は無く、身体もポニーより少し大きめと言った感じなのでドラゴンかどうかは疑わしいが、かなりの速さで大森林の中を駆けて来たからにはきっと役に立ってくれるだろうと疑ってはいなかった。
ロザリアンヌは早速ドラゴにお願いをする。
「このアリオスをその背中に乗せて移動してくれない?」
「クゥ~ン」
ドラゴは了解したと言わんばかりに頷くと体勢を低くした。
しかし当のアリオスは「何考えてんだよ」と驚きから覚めおもいきり拒否っている。
「そうか乗り心地も考えなくちゃダメか」
「そうじゃないだろう。魔物を信用できるのかって話だ」
「大丈夫だよ、ドラゴはこんなに可愛いし大人しいじゃない」
ロザリアンヌがドラゴの頭を撫でながら説明するが、アリオスはなかなか納得しない。
「じゃあ私達の全力に付いて来られるの?これ以上時間を無駄にできないの。この子は私達の仲間になったの。受け入れられないならあなたが外れて」
ロザリアンヌがきっぱりと言うと、漸く諦めたのかアリオスは観念した。
しかしやはり乗り心地とアリオスの安全を考えて、鞍や手綱を錬成した。
「ドラゴ窮屈だろうけど我慢してね。さあこれで文句は無いわよね」
ロザリアンヌはドラゴに謝りながら早速練成した鞍や手綱を取り付けると、アリオスに視線を飛ばす。
「ああ、悪かった」
アリオスの意外過ぎる反応にロザリアンヌは拍子抜けした気分だったが、素直になってくれた事を少しだけ喜んだ。
「ドラゴ、僕はキラル。これからよろしくね」
「私はレヴィアスだ」
一段落したところでキラルとレヴィアスがドラゴに自己紹介する。
「クゥ~ン」
ドラゴは分かっているよと言わんばかりに二人の前にひれ伏すので、ロザリアンヌはドラゴはきっとキラルとレヴィアスの正体を感じ取っているのだと思っていた。
「じゃあ改めてダンジョンに向かって出発よ」
ロザリアンヌはアリオスがドラゴの背に乗った事を確認してから号令を上げ、速度を上げながら大森林の中を移動したのだった。




