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「またやっちゃったかぁ・・・」
ロザリアンヌは目を覚まして肩を落とし少しだけ反省する。
錬金を始める前は明日の予定を考えて加減をしようと思っていたのに、いざ始めると練成に集中してしまいそう言う考えはどこかへ飛んでしまう。
明日というか、既にもう今日の昼間を過ぎている時点で、大森林の探索はまた明日という事になる。
ロザリアンヌは取り敢えず謝るのが先かとベッドから起き出しキラル達を探す。
「目を覚ました様だな」
ロザリアンヌが起き出した気配を察知したのか、レヴィアスがリビングに姿を現した。
「ごめん予定が狂っちゃったね」
「問題ない、別に急ぐ旅でもないだろう」
そう言われると少しだけ気が軽くなるが、予定を決めたのは自分なのに守れなかった事は反省すべきだと思うし、キラルやレヴィアスに隠しているがロザリアンヌ自身は急いでいた。
「そうなんだけど」
「それより出来上がったのだろう?」
レヴィアスは話を変える為なのか、ロザリアンヌが話し終わるのを確認する前に尋ねてきた。
「ああ、うん、ちょっと待って」
ロザリアンヌは慌てて錬金室から昨夜作りあげたボディーバッグを持って来てレヴィアスに渡す。
「似合うと思うんだけど、気に入ってくれたら嬉しいわ」
「なかなか面白いデザインだな」
レヴィアスは気に入ってくれたのか、手に取ったボディーバッグをいろんな角度から確認している。
「斜め掛けにして前で抱えるようにもできるし、リュックの様に後ろに背負えるようにもしてあるわ」
レヴィアスが肩に掛けショルダーバッグの様に持ったところでロザリアンヌが説明する。
「なるほどな、なかなか便利そうだ。ありがとう」
レヴィアスの素直な感謝の気持ちがとても新鮮で、ロザリアンヌは嬉しさから思わずニヤケてしまう。
「そう言えばキラルはどうしてるの」
こういう時に一番に顔を出すはずのキラルの気配が無い事を不審に思い尋ねた。
「特訓をしているらしい」
「特訓?」
「ああ、アリオスに気配探知能力を持たせたい様だ」
また何で?という疑問が湧いたが、別に悪い事でもないので口を挟むべきではないだろうと考えた。
「じゃあご飯の準備でもして待ってるか」
「アリオスが気配探知能力を習得するまで帰らないと言っていたから気にしなくても良いだろう」
「えっ、何それ」
ロザリアンヌは驚いて思わずレヴィアスの瞳をマジマジと見詰めてしまう。
キラルがアリオスにそんなスパルタを強要するとは、ロザリアンヌには到底考えられなかった。
キラルはいつだってキラキラの笑顔を辺りに振りまき、色んなものを浄化している穏やかで優しい聖人と言うより聖女様の様な存在だと思っていたのに、そんな厳しい事もするとは思いもしなかった。
「奴も色々と思う所があるのだろう。ロザリーには子供ぶっているが、奴はかなり強かだぞ」
レヴィアスにそう言われても、ロザリアンヌはなかなか受け入れる事ができなかった。
「じゃあいつ帰るかも分からないって事?」
「ロザリーが必要なら呼び戻せば良いだろう」
きっと念話で伝えればそれも可能だろうが、キラルが自分で決めてやっている事に口を挟みたくはなかった。
それにキラルはキラルなりに何か考えがあっての事だと信じられた。
「じゃあその間私は何をしようかなぁ」
急に予定が未定になった事で、改めてキラルが戻るまでの間何をするか考え始める。
(もっともその前に腹ごしらえだ)
ロザリアンヌは自分の分とレヴィアスに手っ取り早く食べられるものを探し、マジックポーチから以前モーリスの街でテイクアウトしてあった料理をいくつか取り出し食べ始める。
「そうだこの際だからこの辺の地図を埋めておこうかな」
ロザリアンヌはアリオスが仲間になってから封印していた妖精の羽を使う事を考えた。
そして思う存分飛んで、この辺の地図を埋めてしまおうと。
「ならば私が同行しよう」
「だって留守番も必要でしょう?」
「大丈夫だ、結界と隠蔽に抜かりはない。それに何かあればキラルも連絡してくるだろう」
ロザリアンヌはそれもそうかと納得して、レヴィアスと出かける事を決め食事を済ませ支度をする。
「フフッ、レヴィアスと二人だけで出かけるって考えたら初めてだね。何だか新鮮な気分だわ」
ロザリアンヌは今までキラルと二人だけというのが当たり前だったので、別行動の多いレヴィアスと二人で出かけるなんて考えた事も無かった。
それにただ地図を埋める為だけの飛行に、レヴィアスが付き合うと言ってくれたのも正直不思議だった。
「私も今は別にやる事も無いしな、ロザリーの護衛を怠る訳にもいくまい」
護衛と言うよりロザリアンヌが何かしでかさないかを見守るのが目的だと感じたが、けして口にはせずに感謝だけを言葉にする。
「ありがとうレヴィアス、とっても嬉しいわ」
そうしてロザリアンヌはレヴィアスと並んで空を飛び、辺りの景色を確認しながら地図を埋めて行く。
『どの方向から埋めて行こうか?』
『トーガの街方向に戻るか山脈沿いを埋めるかだな』
『なんで山脈沿い?』
『あの山脈はそのまま国境になっている』
ロザリアンヌは素直に納得した。
国境沿いを埋めて行けば間違いない。そしてその後抜けた所を埋めれば良いだろう。
しかし今から向かうだろう山脈方面を埋めるのは二度手間になってしまう気もする。
ここはやはりもう行かないかも知れないトーガの街方面の抜けを埋めた方が良いかと決めた。
『海岸線沿いから埋めようよ』
『私は付いて行く。ロザリーの好きに飛べ』
『了解!』
ロザリアンヌは進路を任され、何だか飛行機のパイロットにでもなった気分だった。
そして全速力とまで行かないが、かなりのスピードで飛んでいたのにレヴィアスはちゃんとついて来ていた。
そして1日は掛かるだろうと思っていた海岸線までの距離を3時間弱で飛び、少し北上した辺りでそのまままた大森林方面へと方向を変える。
『そう言えば大森林に隠れ里があるって言ってなかった?』
『あるかも知れないと言っただけだ』
『なんだ、確定じゃなかったのか』
隠れ里と聞いてエルフや忍者を連想し何気に楽しみにしていたので、ロザリアンヌは少しだけがっかりした。
視界の先に広がる大森林を見れば、エルフや忍者が隠れ住んでいると言われても納得してしまうだけの広さがある深い森だ。
『あったとしても、ロザリーが考えているのとは違うものだと思うがな』
『またそんな思わせぶりな事言って。知っているなら話してくれても良いじゃない』
『確証の無い事は口にしたくはない』
レヴィアスが話す気が無いのはしっかりと伝わって来たので、ロザリアンヌはそれ以上聞くのは諦めた。
しかし大森林に何かがありそうだというのは予測できた。
(楽しみにしておくか)
ロザリアンヌは一人納得し、その後は黙って飛ぶことに集中した。




