13
ロザリアンヌはアンナから空間魔法の魔導書を貰ってから、マジックバッグの作成に夢中になっていた。
だって、転生者の定番の鑑定を手に入れるんだよ。
次いで定番のマジックバック、作れる様になったんだから作るよねそこは絶対間違いなく!
勿論午前中はダンジョンへ行きステータスアップを目指し、午後からの錬金術の修行の時間を使っての事だったが、これがまた思った以上に難航していた。
確かにロザリアンヌにも空間魔法は使える様になった。
とは言っても、今はまだ新たな空間を作ったり消したりする事以外にできそうな気はしなかった。
アンナの説明を聞いた時は他にももっとできる事がありそうな気がしたが、そもそも魔導書で覚えた魔法はそのままじゃないのか?本当に発展させる事はできるのか?と不確かで不明過ぎて、ロザリアンヌには今は他に考える事ができなかったのだ。
そんな事を考えながら作り始めたマジックバッグだったからか、折角バッグの中に作った空間の広さをその場で目視で確認する方法が無いのがまず第一の関門だった。
自分がこの位と考えた広さと実際に作られた空間の広さが同じじゃない事が多く、何度やり直したか分からなかった。
例えるなら、目を瞑ってバケツの水を汲んでみたけど、思った容量に達していなかったみたいな感じ。
結局大は小を兼ねるという結論に達し、その問題はクリアした事にした。
次に私が我慢できなかった問題が、空間に入れたアイテムが整理されない事だった。
例えるなら、片付けのまったくできない人が、取り合えず片っ端から押し入れに突っ込んでみましたみたいな感じで、その乱雑さといったら無かった。
マジックバッグに何が入っているかの確認ができず、記憶を頼りに手探りで探さなくてはならない事にとてもイライラした。
空間から頭で考えた物が簡単に取り出せるという便利機能はまったく無く、インベントリのように同じ物を自動で纏めてくれるとか、何が幾つ入っているか管理してくれるとか、空間内がきっちり整理整頓されない事が使いづらさを増長させていた。
こんなにイライラする位なら寧ろマジックバッグなんていらないだろうと思ってしまう程だった。
しかし確かに肩掛けバッグ2つとリュックを背負う大変さからは解放されるし、買取窓口へと何度も足を運ばなくて済むのはとても便利なので、ロザリアンヌは試行錯誤を繰り返していた。
そして結局バッグの中に仕切りを付けて、それほど大きくない空間を3つ作る事で取り敢えず使える物は作り上げたが、ロザリアンヌ的には到底納得がいくものではなかった。
小説やゲームの中のマジックバックはこんな物じゃない。
もっと画期的に便利な物で、主人公なら簡単に作れたはず。
って、そう言えば私は主人公じゃ無かったよ・・・
「マジックバッグを作ってみたんだけどね、何だか思った物にできなかったんだ」
ロザリアンヌはアンナに溜息をついてみせた。
「マジックバッグってそのバッグ?」
この世界ではマジッグバックはまだ知られていないのかアンナに興味深そうに聞かれ、ロザリアンヌはマジックバッグが何なのか、どう作り上げたのかなど丁寧に説明した。
「凄いわねロザリー、空間魔法でそんな事が思い付くなんて。探検者達がきっと泣いて喜ぶわよ」
アンナにそうは言われたが、そもそもこの街のダンジョンはその辺の心配が無いように考えられていて、探検者達は何日もかけて深く潜る様な準備もいらなかったし、ドロップ品もちゃんと全部持ち帰れていた。
だから探検者達が泣いて喜ぶと言われてもロザリアンヌには大袈裟な意見に思えた。
「本当にそう思う?」
「考えてもみて、身軽になれるって事は動きが制限されなくなるのよ、ダンジョン攻略が今よりずっとし易くなるわよ」
アンナの説明にロザリアンヌは自分の事に置き換えて考えてみた。
確かにバッグがパンパンになればなるほど動き辛くなり、今は薬草ダンジョンで弱い魔物相手だからそんなに苦労もしていないが、この先の事を考えると重いカバンぶら下げての戦闘は大変だと素直に頷けた。
ゲームをしていた時はインベントリがあったから自分で荷物を持ち歩くなど考えた事も無く、そんな事に不便も不自由も感じた事は無かったが、この先のダンジョン攻略を考えてもやはりマジックバッグは絶対に必要だと改めて思い直していた。
そしてだからこそ自分でも欲しいと考えたのだと。
「やっぱりどうせ他の人にも喜んで貰うなら今のままじゃ納得いかないわ、もっと使いやすいちゃんとした物を作らなくちゃ」
ロザリアンヌは自分が使う為だけの事しか考えていなかった。
しかしアンナに他の探検者にも必要だと言われた事で、何処か諦めた気持ちで適当な所で納得しようとしていた事を少し恥ずかしく思った。
「ロザリーは錬金術師なのでしょう?だったら錬金術で作ったら良いじゃない」
アンナはロザリアンヌを励ますつもりで何気なく言ったのだろうが、ロザリアンヌにしたら目から鱗の気分だった。
「そんな事でき・・・」
できるのと聞く気だったのか、できる訳ないじゃないと否定するつもりだったのか、ロザリアンヌは思わず発した自分の言葉を途中でやめてしばらく考え込んでいた。
素材とイメージと魔力があればレシピが無くても作れる?
自分の発想から思った物が作れたらそれがレシピになるって事よね?
錬金術を発動するには魔力が必要なら、そこに魔法を込めても確かにイケる気がする。
そうだよね、魔法はイメージが大事だって良く言うじゃない。
錬金術だって素材さえ揃っていれば後はどんなイメージだって乗せられるはず!
できないと誰が決めたの?
できると信じる心が錬金術なんじゃないか!!
「ありがとうございます、私もう少し頑張ってみます」
ロザリアンヌは自分の考えが纏まると、アンナにお礼を言って急いで席を立った。
今思いついたあれこれを早速試したくて仕方なかった。
動きを邪魔しないのを優先させるならなるべくコンパクトで、ウエストポーチの様に腰の帯剣ベルトなどに取り付けられる物が良いだろう。
それに錬金術で魔法を付与する時にきちんとイメージしたら、インベントリの様に整理された使い勝手の良い物が作れるかも知れない。
今やロザリアンヌは失敗する気など全くせず、出来上がりのイメージもしっかりとできていた。
こうして今まで下級ポーションや中和剤の作成しかしていなかったロザリアンヌは、初めて自分が考えたレシピに挑戦する事になったのだった。




