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ゴードンの説明によるとアリオスは、三男という立場から冒険者になる事を決め鍛錬を積んでいたそうだ。
しかし家を継がせる気も無いのに街から出る事も許されずにいるアリオスを、ゴードンは常々不憫に思っていた。
そんな時にロザリアンヌに特例でダンジョン攻略の許可を貰おうと領主に話をするが、領主にはこの国の者ではない相手に許可を出せないと突っぱねられた。
そして困ったゴードンが考えた苦肉の策が、名目上はアリオスが攻略するという形で許可を貰うだった。
ダンジョンの攻略が成功すれば勿論領主の手柄となるし、万が一攻略されなかったとしても領主としては口外さえしなければ済む話だ。
そう説得された領主は渋々許可を出す事を許したらしい。
ゴードンとしては幼い頃から一人地道に頑張っているアリオスを応援できるし、これ以上の解決策は無いと満足気だった。
「話は聞いた。それで私達がそのアリオスと一緒に攻略しなくてはならない理由も旨味も無いが、他にまだ話は続くのか?」
レヴィアスがいつもの冷たい視線の無表情でゴードンに確認をする。
「あぁ、いや、勿論冒険者ギルドとしてはできる限りのバックアップをさせて貰う」
さっきまでの満足気な態度から一変してタジタジのゴードンに、仕方なくロザリアンヌは助け舟を出そうかと考えていた。
「おまえら魔物の解体ができないらしいな。俺は魔法はあまり使えないが、解体の腕はそれなりに自信がある。それに俺を貴族の3男だと甘く見るな。これでも幼い頃から家を出た時の事を考えあれこれと学んでいる。おまえらがこの大陸を本気で冒険する気なら、おまえらが欲しい情報くらいなら提供できる」
「おまえ自身が本気で私達と一緒に来たいと望んでいるのだな?」
アリオスの熱意の籠った本気の売り込みに、レヴィアスはアリオスの意志を確認した。
「勿論だ。冒険者となって家を出られるなら俺はどんな事でもする。あんな家に居るのも我慢できない。親父も兄貴達もいつか絶対に見返してやる」
ロザリアンヌはアリオスが解体を請け負ってくれると聞いた瞬間から、もう既に仲間にする事は決めていた。
ダンジョン内だけだったら魔物の解体など必要ないだろうが、この大陸を冒険するとなるとやはり魔物を解体できる人が居るに越した事はない。
「確かに情報はいくらあっても困る事は無いが、おまえが本当に私達が望む情報を持っているかは疑わしいな」
「少なくともおまえ達よりはこの大陸の常識に詳しい。それに冒険者に長く憧れていたんだ、ダンジョンの情報ならギルドが保有する程度の事は知っている」
自信あり気に眼光鋭くレヴィアスを睨みつけるアリオスに、ロザリアンヌはどこか頼もしさを感じていた。
どう見ても貴族のお坊ちゃまと言う雰囲気はまったく無く、寧ろあのレヴィアスに負けず対等に話をしていて凄いとも思っていた。
「良いじゃないレヴィアス、アリオスを仲間にすることでダンジョンの許可を貰えるなら取り敢えずお試しって事にしようよ」
ロザリアンヌがレヴィアスとアリオスの睨み合いに口を挟むと、レヴィアスは大袈裟な溜息を吐いた。
「おまえは本当に・・・。おまえが良いというのなら構わないが、この大陸を歩いて冒険するのは大変だと思うぞ」
レヴィアスに言われてロザリアンヌは初めてアリオスを仲間にした時のデメリットを考えていた。
まず空を飛んでの移動は絶対に無理だろう。
魔力が無いらしいアリオスにはたとえ妖精の羽を装着させたとしてもきっと飛べない。
それにキラルとレヴィアスが精霊だと説明するかどうかも考えなくてはならない。
そして何よりアリオスが実際どの位戦えるか知らないので、ダンジョン内で強敵が現れた場合気にする必要がある。
「アリオス、取り合えずポーターとして私達に付いて来るのに不満が無いのならお願いするわ」
「ポーターってなんだ?」
「荷物持ちの様な冒険のサポートをする人の事を言うのよ。私達は解体できないしこれからもする気が無いの、それでも了承してくれる?」
ロザリアンヌはこの条件で納得してくれるのなら良いし、無理なら断るまでだと最後の采配をアリオス自身に委ねた。
「分かった。俺はその条件で構わない。これからよろしくな」
アリオスはあっさりと返事をしロザリアンヌに握手を求めるが、ロザリアンヌはあまりにもあっさりしすぎて呆気にとられていた。
「これから仲良くしよう」
ロザリアンヌに変わってキラルがにこやかにアリオスと握手を交わす。
「仕方ない、コイツが決めた事だ私は大人しく従おう」
レヴィアスも続いて握手を交わすので、ロザリアンヌも「よろしく」と我に返り握手をした。
「おお、良かった良かった。うまく話が纏まったな。儂もこれで一つ肩の荷が下りた。それじゃ早速冒険者登録だな。取り合えず儂の権限でCランクに登録しておくから手続きを済ませてくれ」
「Cランク?」
「冒険者には全部で十段階のランクがある。Cランクは下から3番目で冒険者として一人前と認められるランクだ」
アリオスの説明にロザリアンヌは、取り敢えず目立ち過ぎるランクではないと理解し納得した。
「E・D・C・B・A・AA・AAA・S・SS・SSSとランクがあるが、AランクとSランクには超えられない壁があると言われている。まぁおまえ達ならいずれはSランクに届くかもしれないな」
ゴードンはロザリアンヌ達をそう評価しているらしいが、ロザリアンヌは正直な話ランクにはあまり興味が無かった。
この大陸に骨を埋める気もないし長居する気も無いのだから、この大陸の人が決めた評価なんて意味が無いと思っていた。
なのでロザリアンヌは曖昧に返事を濁し、冒険者登録をすると冒険者ギルドを後にした。
その後アリオスと改めて明日の朝待ち合わせ、ダンジョンに向けて一緒に旅立つ事を決め別れた。
「こんな事なら隠れ家の改築は後回しにすれば良かったね」
ロザリアンヌは今朝増築したばかりの隠れ家を思い出し溜息を吐いた。
そして明日の朝までにどうにかアリオスの部屋も作り、簡易テントなども錬成しなくてはと思いながら隠れ家を設置できる場所を探した。




