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冒険者ギルドに入りカウンターへ向かうと綺麗なお姉さんが二人も座っていて、一瞬場所を間違えたかとロザリアンヌは辺りを確かめてしまった。
「キルドマスターと約束をしているロザリアンヌと言います」
受付窓口で巨乳で綺麗なお姉さんに声をかけると「承っております」とギルドマスターの部屋へと案内された。
勝手知ったるギルマスの部屋とばかりに、ロザリアンヌは何の緊張も無く部屋に入ると突然大声が響き渡たる。
「この儂を待たせるとはいい度胸だ」
「えっと、お約束は昼頃という話でしたが?」
ロザリアンヌは怒鳴り声に慌て時間を確認しようとしたが、ギルドマスターの部屋に時計は無かった。
隠れ家には柱時計があったので時間を間違える筈も無く、ロザリアンヌがキラルとレヴィアスの顔を見て自分が間違えていない事を確認する。
するとレヴィアスが懐中時計をポケットから取り出し時間を確認してくれる。
「午後の一時だな。昼食時間を避けた丁度いい頃合いだ」
「そうだよね」
ロザリアンヌは改めてホッと溜息を吐き安心する。
「なんだそれは?」
ゴードンはレヴィアスの懐中時計に興味を示し、それが何かの説明を求めレヴィアスに詰め寄った。
レヴィアスはゴードンに丁寧に時間を知る魔道具だと説明すると、ゴードンは大変驚いていた。
この国にはまだ時計は普及してはいないらしく、教会が慣らす鐘の音で時間を知るそうだ。
そして昼頃というのは正午の鐘の音が鳴る頃という意味で、その時刻をわざわざ指定して約束をしたのはお昼ご飯を一緒にという意味合いもあったらしく、ゴードンはそれで腹を立てていた様だった。
そもそもこの国に昼食という風習は無いらしく、お昼にご飯を食べる為に朝食を我慢していた為にゴードンはかなりイライラしていたのだろう。
「そうとは知らずにすみませんでした」
ロザリアンヌが素直に謝るとゴードンもどうにか機嫌を直し「まあいい、それで食うんだろう?」とかなり凄まれた。
「いただきます!」
ロザリアンヌより先にキラルが返事をしていた。
朝食が遅かったので昼食はまた屋台でも見て廻ろうと予定していたので、ロザリアンヌも別に反対はしなかった。
「では行くぞ」
ゴードンが大股の急ぎ足で部屋から出るので、ロザリアンヌ達は慌てて後を追う。
そうして連れていかれたのは、繁華街にある特に高級そうな宿の中にある食堂と言うよりレストランといった感じの場所だった。
ロザリアンヌはその場所の雰囲気からして、何か面倒くさい事が起きそうな予感がしてたまらなかった。
ゴードンが普段使いしている食堂とも思えず、富裕層にしか縁の無さそうな宿だというのもその理由だった。
『まさかジュリオ達とは関係ないよね?』
『大丈夫だここには気配は無い』
念の為にレヴィアスに確認するが、レストランで引き合わされるのはジュリオ達ではないらしいので取り敢えずは安心した。
「遅くなって悪いな。予約をしていたゴードンだ」
ゴードンはレストランの店員に声をかけると奥にあった個室へと案内された。
そしてロザリアンヌが中へ入ると一人の青年が既に席に座っていた。
「待たせて悪かった。手違いがあったんだ」
「別に良いですよ。どうせ俺は暇なんで」
身なりの良さそうな青年は、かなり年上のゴードン相手に親し気にしている。
「コイツは領主様の3男坊で、アリオス・バーリントだ。アリオス、こちらが例のロザリアンヌ嬢にキラル殿にレヴィアス殿だ」
ゴードンは順に紹介してくれたが、ロザリアンヌは相手は領主の息子と聞きながらも軽く頭を下げる程度に挨拶をした。
「腹が減った。取り合えず食うか。おい、料理を運んでくれ」
ゴードンは余程お腹が空いていたのか、きちんとした挨拶も済んでいないというのにどんどんと話を進める。
そして掛け声と同時に運ばれる料理を目の前にして、ロザリアンヌはどうして良いか悩む暇もなく席に座った。
「いただきます」
既に食べ始めているゴードンとアリオスに続きロザリアンヌも料理を食べ始める。
野菜と魚を一緒に煮込んだスープと、グラタンの様な料理にスパニッシュオムレツの様な料理にステーキと見た目に華やかな料理が並んでいた。
無言で貪るように食べているゴードンに圧倒されて、ロザリアンヌは口を開く事もできず同じ様に黙って料理を食べた。
しかしこの料理を食べ終わったらいったいどんな話をされるのかが気になっていて、ロザリアンヌはしっかり味わう事もできずにいつの間にか食事は終了していた。
「ご馳走様でした。美味しかったねロザリー」
「そうだね」
キラルに話を振られロザリアンヌは慌てて返事をする。
「そうだろう。この街で一番の料理だ。旨くて当たり前だ」
ゴードンは機嫌が良くなったのかニコニコして自慢気だった。
「それより話を始めてくれないか」
ロザリアンヌがずっと気になっていて、切り出したくてもできなかった話をレヴィアスがしてくれた。
ゴードンはレヴィアスに促され漸く話を始める気になったのか、咳ばらいを一つして話始める。
「コイツを仲間として同行させる事が条件だ」
ロザリアンヌは一瞬何を言っているのか理解できず「何の条件?」と素で聞いていた。
「冒険者ランクに関係無くダンジョンの探索の許可を出す為の特例の条件だ」
ゴードンの申し出にレヴィアスが素早く反応した。
「別に私達は許可が無くてもダンジョンに入ろうと思えば入れる手段がある。それなのにコイツが冒険者としてギルドに登録し正当な手段で攻略しようと考えているから従っているが、私達にその条件を飲まなくてはならない理由が見当たらない」
レヴィアスに言われてみるとまったくその通りだった。
別にこの国のルールなど無視して、何なら認識阻害を使ってダンジョンに入ってしまえば良いだけだ。
考えてみればそれが一番手っ取り早く、そして面倒くさい事態に巻き込まれる事も無くダンジョン踏破できるだろうと理解できた。
しかしそれでは本当にゲーム攻略の為のダンジョンアタックの様で、冒険をしているというリアルを体験できないとロザリアンヌは思っていた。
まぁ一部の傲慢な人に関わるのは面倒くさいが、色んな人と知り合い色んな人の生活を見てその考えを知る事で、新しい錬金術のレシピが閃くのを望んでいる。
大陸の守護者に会い願いを叶えて貰うのを目的としているが、ロザリアンヌの最終目標は偉大な錬金術師になる事だ。
その為にきっと近道なんて無いと思っていたので、この国のやり方に従いこの国を楽しみながら冒険したいと考えている。
「まあ待て、その話をこれからするからまずは聞いてから返事をしてくれ」
「話してみろ」
ゴードンの説得の様な説明にレヴィアスは仕方なさそうに返事をするので、ロザリアンヌも大人しくゴードンの話を聞く事にしたのだった。




