126
ロザリアンヌ達はまず市場へと足を運んだ。
メイアンではあまり口にする事の無かった魚介類をなるべく沢山仕入れたかったからだ。
お寿司に海鮮丼にお刺身、イカの一夜干しにホタテバターにアサリバター、前世で幼い頃に良く食べたフグやカニの味噌汁が記憶から離れずにいる。
ロザリアンヌが倒した魔物の食材も手に入れてはいるが、そうじゃない海産物が楽しみで仕方なかった。
市場と言っても殆ど露店売りの様な賑やかな場所を見つけ、ロザリアンヌは片っ端から覗いて歩く。
「いらっしゃい、いらっしゃい、今日は出物が多いよ~」
呼び声も高く賑やかな店を覗くと、やはりと言うか当然のようにロザリアンヌが提供した魔物食材が並んでいる。
そうじゃないんだよと少しがっかりしながら最後まで店を覗いて歩き、結局お目当ての物を何一つ見つけられず屋台が並ぶ広場へと移動した。
「何だか良い匂いがするね」
早速キラルが反応して足を速めるので、ロザリアンヌも慌てて後を追う。
「グラントクラーケンの串焼きだよー、美味しいよー」
呼び声につられキラルと覗くと、適当な大きさに切られたグラントクラーケンが串に刺さり焼かれている。
「美味しそうだよロザリー」
とってもにこやかに振り返るキラルに抵抗できず、ロザリアンヌはレヴィアスの分も購入し、近くのベンチに座り早速食べ始めるが、ロザリアンヌは少々がっかりしていた。
確かに塩と胡椒でしっかりと味付けされていて、これはこれでとても美味しい。
しかしロザリアンヌはできる事なら醤油で焼いて欲しかった。もしくはバターとか。そして七味マヨネーズを付けて食べたかった。と少々がっかりしていた。
「美味しいねー」
「後でもっと美味しいのを作ってあげるわ」
「もっと美味しいの?すごく楽しみだな」
喜んで食べているキラルにも、もっと美味しい食べ方を教えたくてつい約束をしてしまう。
そしてその後も屋台を覗いては珍しそうな食べ物を探していると、エビやサザエやアワビなどを見つけた。
どれもこれもシンプルに塩焼きだったのが残念だが、思った通りの食材が手に入るのだとロザリアンヌは喜んだ。
そして当然ロザリアンヌはどこで手に入るか聞いたが、海に決まっているだろうと軽く流される返事にがっかりした。
今日は昨日の解体騒ぎで漁が休みになっているせいもあり、市場へ行っても手に入らないという意味らしかった。
しかしロザリアンヌはそっかぁと普通に納得し、久しぶりに海に入る事を決めた。
前世で子供の頃は良く一人で海に入っていた。
海辺の岩に付いている巻き貝やムール貝に似た貝などを遊びがてら良く獲っていた。
聞くと漁業権の様な物は無いらしいので、久しぶりに海に入って自分で獲ると決めていた。
早朝に日の出を見た時の海は凪いでいたので、少々深い海の中でも大丈夫だろうとロザリアンヌは考えていた。
「海へ行ってみよう」
ロザリアンヌはキラルとレヴィアスを急かし浜辺へと急いだ。
水着もウエットスーツも持っていなかったので、急いでウエットスーツを錬成する。
「私は海に入るけどキラルとレヴィアスはどうする?」
「僕も一緒に行くよ」
「私はここで見守っている」
そう言うとレヴィアスは、座り心地の良さそうな岩を探しそこに座った。
ロザリアンヌはキラルの分のウエットスーツとレヴィアスの為にパラソルとデッキチェアを錬成し、早速着替えるとゆっくりと海へと入る。
海水は思った程冷たくも無く、ロザリアンヌは足場を不安定にしている岩の上を歩きながら沖を目指す。
そして少し潜った所の岩場を探ると、サザエやアワビだけでなく岩の裏にウニがびっしりと張り付いていた。
ウニも何種類かあるが、一番美味しいと気に入っていたバフンウニだった事でロザリアンヌは興奮を抑えきれず、何度も海面と水中を往復しながら手当たり次第に獲って行った。
これでホタテがあったならと考えていると、海底を泳ぐように移動するホタテ貝を見つけロザリアンヌは歓喜を上げ後を追い見つけ次第結界魔法の応用で捕獲した。
(水中でも息ができたなら良いのに)
何度目かに海面に上がり息継ぎをした時にそう思っていた。
「できるんじゃないかな」
すぐ傍で手伝ってくれていたキラルが、ロザリアンヌの考えを読んだのかそんな事を言った。
「できるの?」
「結界を使えば良いじゃないか。海水が入らなければ良いだけだろう」
ロザリアンヌはキラルの言葉に今さらながら凄く納得してしまった。
「そっか、そうだよね。なんで思いつかなかったんだろう」
それからロザリアンヌは自分の周りに結界を張ると、息継ぎを気にせず海底を移動して周り、ホタテやエビだけでなく伊勢海老に似た魔物やウツボに似た魔物も手に入れ大満足で陸へと上がった。
思った以上に夢中になっていた様で、辺りは陽が沈む時間になっていた。
「大漁大漁。待たせちゃってごめんね」
ロザリアンヌはレヴィアスが待つ場所へと行き、まずは一人長く待たせていた事を謝った。
「随分と楽しそうで何よりだ」
一瞬レヴィアスのお得意の嫌味かと思ったが、顔つきはいつもの無表情ではなく穏やかだった。
「うん、海で泳ぐなんてホント久しぶりでちょっと興奮してたかも」
「それでいったいどんな美味しいのを食べさせてくれるの?」
キラルは自分も獲るのを手伝った魚介の数々を早速食べたいらしく、ロザリアンヌに強請ってくる。
「じゃあやっぱりここは浜焼きバーベキューだね」
ロザリアンヌはレヴィアスに焚火を頼み、バーベキューの準備を始める。
まずは特製の浜焼き用醬油ベースのタレを作り、バターも用意してから鉄板の上に獲れたてのサザエやアワビやホタテにエビを並べて行く。
キラルに焼き方のコツを伝授しトングを渡すと、ロザリアンヌはウニを剝きうに丼を作った。
そして最後にキラルと約束をしたグラントクラーケンを醤油ダレとバターで焼き、七味マヨネーズを付けて食べるとキラルも本当に心から喜んでくれた。
そうして心から大満足のバーベキューを楽しんだ後、結局今夜も浜辺に設置した隠れ家に泊まる事になり、この大陸の宿屋体験はまたも先送りになったのだった。




