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大賢者様が作った収納袋の中から出した大型魔物に超大型魔物を港のドックに並べていくと、忽ちにドック内は狭くなり船や魔導船がミニチュアのように感じられた。
そして結界や隠蔽を掛けようかと考えていると既に人が集まりだしていたので、収納袋から出すとこを見られていない事からまぁ良いかと諦め、港の隅で三人で食事をとり始めた頃ギルドに居た中年男性が姿を現した。
「大事なお話をするのを忘れておりました」
額の汗をハンカチで拭いながらロザリアンヌ達にペコペコと頭を下げる。
「どうしたんですか?」
「このサイズの解体となりますとかなりの人出がいる事はご説明しましたが、その手数料として解体部位を提供する決まりがありまして、その辺の詳しい説明を忘れておりました。大抵の場合は傷みやすい食料部位を提供する事が多いのですが、今回は特にそうなるかと思われます」
「これを食べるんですか?」
ロザリアンヌはドックに並べた魔物を見渡して、いったいどの位の量の食材が確保できるのかと想像していた。
「勿論です。グラントクラーケンは大変な珍味ですし、ヘビーモンクなどは超高級食材ですよ。どちらもなかなか手に入らないものですから、今回はそれを目当てにかなりの人が集まると予測されます」
グラントクラーケンとは超大型のイカに似た魔物で、ヘビーモンクとはアンコウに似た大型の魔物で、他にもマグロに似た魔物にタコに似た魔物にシャチの様な魔物に大型のカニの様な魔物が並んでいる。
中年男性は他の魔物も貴重な食材で武器や防具になる素材や薬になる素材に油などもとれると興奮気味に説明してくれていた。
「勿論その辺の管理はすべて冒険者ギルドが規定に従い行いますので、どうぞご安心ください」
ロザリアンヌは説明を受けてそれは了承したが、この魔物を誰がどうやって持ち込んだかは秘密にして欲しいとお願いした。
既に集まった人達はその話題で騒がしくなっているので、ロザリアンヌは面倒事にならなければ良いと思っていた。
この大陸では一刻も早くすべてのダンジョンを踏破して、大陸の守護者に強制されたくないという願いを叶えて貰い、さっさと次の大陸へと渡りたいと考えている。
なのでその為にも面倒な事に巻き込まれている時間など無いと思っていた。
「冒険者登録はまだ済ませていませんが、絶対に秘密にしてほしいです」
「その辺の事はこの騒ぎが治まり次第、ギルドマスターからお話があると思います。ええ、ご安心ください」
そんな話をしている間も次々と人が集まり続け、魔物の周りに足場まで設置され始めていた。
冒険者ギルドは万が一の緊急事態に備え24時間開けているそうで、今回は魔物の素材が痛まない様にとの考えから緊急事態扱いになったらしい。
「分かりました。すべてお任せしますのでお願いします。ただ錬金術に使えそうな素材は私も持っておきたいのですが」
「それは当然です。買取に関してもギルドマスターの方からお話があるかと思います。それでは私はこれで失礼いたします」
中年男性は深々とお辞儀をして立ち去ろうとする。
「あっ、すみません、まだお名前を伺っていなくて。私はロザリアンヌと言います」
ロザリアンヌは丁寧なお辞儀をして、中年男性に自己紹介をした。
「これは失礼しました。私も興奮していたせいかうっかりしておりました。私は夜間受付担当のユーヤンと申します。以後お見知りおきを」
そう言って今度は浅くお辞儀をすると、急ぎ足で立ち去って行った。
ロザリアンヌはその後姿を見詰めていると、解体作業を先頭で指揮し始めた人物の所へと駆け寄ったので、きっとあの人がギルドマスターなのだろうと思っていた。
「この量の食材が一遍に流通したら値崩れを起こしそうだな」
レヴィアスがポツリと呟いた。
「そうだね、この解体を手伝った人達はすべて自分で食べる訳じゃないだろうしね」
キラルもレヴィアスに同調して、素材の値段を心配している様だ。
「じゃあ、別の街に持って行って少しずつ売る方が良いって事?」
「できるならそうした方が良いかも知れないな」
ロザリアンヌもそうしたいのはやまやまだったが、大賢者様の作った収納袋は時間停止機能は付いていない。
なので保存するとなるとロザリアンヌのマジックポーチになるが、容量を考えると他に入れたい物ができた場合に少し不安があった。
「この際だ、今作るか」
ロザリアンヌは魔導船の上で全力で作ってみると宣言した事を思い出し、それを今実行する事にした。
ロザリアンヌの感覚ではマジックポーチの容量はかなり大きなものを作れる気がしていた。
しかし問題はその容量全体に時間停止機能を広げ付けられるかは自信が無かった。
だが今回は全力で作る事を決めた以上、自分の限界に挑戦しようと考えていた。
「私しばらく錬金作業に入るから」
ロザリアンヌは宣言する様に立ち上がる。
「了解。僕は邪魔が入らないようにロザリーを見守ってるから安心して」
「私は解体作業に興味がある。見学させて貰うとするか」
それぞれのやる事が決まるとロザリアンヌは、念のために街の外へ出て隠れ家を設置できる場所を探した。
そして大賢者様の使っていた練成室に入り練成を始める。
今回は魔物や魔物の素材を専用にしようと考えて、リュック型にしてみた。
考えてみたら荷物らしい荷物を持たない冒険は、傍から見たら不自然な事極まりないだろう。
ロザリアンヌは妖精の羽を装着する事もあるので、リュックはキラルに預けようと考えていた。
そうしてロザリアンヌの全力の魔力と気力と体力を注ぎ込み作りあげたマジックリュックは、かなりの容量を確保できたと思う。
実際にどれくらいの容量になったのか確かめていないのでまだ想像でしかないが、多分大賢者様の収納袋に近づけた予感はあった。
「やり切ったわよ」
ロザリアンヌはそう呟くと、そのまま重い身体を引き摺りベッドへ倒れ込むとそのまま意識を手放していた。




