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卒業式は厳かにそして何事もなく進行し終わった。
ロザリアンヌはその後初等科の時の担任だったマッシュと、本科3年になってからの担任に挨拶をして、これ以上イベント事が起こっては大変とばかりに急いで学校を後にした。
そしてユーリとの約束を守り商業地区大通りの入り口付近で待っていると、程なくしてユーリが姿を現した。
やはり卒業式の後そのまますぐに来たのか、いつものラフな格好とは違いビシッと決めた正装姿だった。
「待たせたか」
眼鏡を押し上げながらチラリとキラルを見た後にロザリアンヌに声をかけた。
「いえ、私も今来たところです」
「そうか。それでは行くか」
ユーリはそのまま何も言わずロザリアンヌの前を歩き出した。
「えっと、どちらへ?」
ロザリアンヌは慌ててユーリの後を追いながら尋ねる。
「今日は市が出ていると聞いている。おまえも卒業したんだ、私とこうして出歩いても問題あるまい」
「???」
ロザリアンヌにはユーリが何を言いたいのかまったく理解できなかった。と言うか理解したくなかった。
これはどう考えてもユーリとのデートイベントだ。
【プリンセス・ロザリアンロード】の中でも親密度が深まると、待ち合わせて市を見て回るデートイベントがあった。
しかしロザリアンヌはユーリと愛を深めた覚えなどまったく無い。
それに愛情を示された事も・・・・・・
って、そう言えば、ユーリって頭は良いけど恋愛に不器用ってキャラだった。
主人公の興味を引くために無理な例題を出してみたり、何だか訳の分からない理論を自慢気に話したり、やたらと不可解な行動をとる事が多かった。
そう思うと、今までやたらと色々強要していたのはもしかして愛情表現だったって事?
いやいやいや、ちょっと待って、ホント止めて欲しい。それじゃぁユーリも攻略対象だったって事?
学園もの乙女ゲームにありがちな教師枠?
それとも隠しキャラ的な?
まさかあり得ない事だけどゲームとは関係なくロザリアンヌに興味を持った?
「すみません、少し確認したいのですが、ここで待ち合わせた用事ってこの市を見て回る事ですか?」
「そうだ。卒業祝いを何か送ろうと考えていた。おまえは貴族街の店になど興味もないだろう。ここで何か記念になるものを見つけると良いだろう」
「先生にお祝いを貰う理由が無いのですが」
「今まで良く私の無理を聞いてくれた。それに課題も思っていた以上に頑張った。私は教師としてとても鼻が高い」
ユーリはさも当然とばかりに言うが、ロザリアンヌには到底納得ができるものではなかった。
無理難題だろうが難しい課題だろうが、結局はロザリアンヌは自分の意志でした事だし、ロザリアンヌの為にもなっている。
教師として鼻が高いのは置いといても、やっぱりお祝いを貰う理由にはならない。
第一ロザリアンヌはユーリとデートをする気もないし、たとえデートでなくても一緒に市を見て回るなんて偶然でもあり得ないと思っている。
どう考えても教師としか思えない。【プリンセス・ロザリアンロード】の攻略対象者だったとしても、ロザリアンヌにはここから恋愛に発展させる気などまったく無かった。
「用事がそれだけなら帰らせて貰います」
ロザリアンヌが踵を返すとユーリに腕を掴まれ引き留められた。
「私が悪かった。優秀な生徒だと目を掛けていたつもりが、いつからかおまえの事が気になっていた様だ。自分の気持ちに気付いたのは最近になってからだが、抑えが利かなくなってしまった。今すぐにとは言わない、私の気持ちを受け入れてはくれないか」
まいったなぁ、告白イベントに突入しちゃったよ。
ホント驚きだよ。
まさか魔法学校生活の最後の最後にこんなイベントが待っていたとは・・・
「私は別の大陸に旅立つ事を決めてます。だから先生の気持ちを受け入れている余裕なんてありません」
ロザリアンヌはその先の予定を話し、きっぱりと諦めてくれる様に断った。
「いずれは帰って来るのだろう?待っていても良いだろうか?」
ユーリがまさかこれ程まで引き下がらない男だとは思ってもいなかった。
「待たれても困ります。本当に私にはそんな気持ちは無いんです。失礼します」
ロザリアンヌはユーリの手を強引に振り解きその場を去った。
「良かったのか?」
しばらく行くと、キラルが何を思ってかそんな聞き方をして来た。
「何が?」
「仕方ない午後の卒業パーティーは僕がエスコートするよ」
そう言えば2年間ずっとソロだったロザリアンヌには、パーティーにエスコートしてくれる相手もいなければ一緒に行く友達もいなかった。
そもそも卒業パーティーの事など考えてもいなかったから、まったく何も考えていなかった。
しかし告白イベントまでこなした今となっては、卒業パーティーで何かあるとも思えない。
だとしたら、折角ソフィアが用意してくれたドレスもあるし出ないというのも勿体ない。
魔法学校最後のイベントを精々楽しもうとロザリアンヌは考えた。
「それじゃあキラルの正装も用意しなくちゃね」
「今から店に行って僕に合うのがあると良いけど」
「大丈夫、正装のデザインなら色々見せて貰ったわ」
ロザリアンヌは急いで家へ帰るとその足で錬金室へと向かい、キラルの正装一式を作り上げた。
「どう?」
キラルの正装姿は言うまでもなくとても素敵で、ロザリアンヌは言葉も無くただ見詰めてしまった。
自分で作ったとはいえ、本当にキラルに似合っていた。
「急がないとパーティーに遅れるよ」
キラルに促され、急いで学校へと戻るとロザリアンヌも急いでパーティーに出る為の支度をした。
そうしてシンデレラの舞踏会よろしく、少し遅れて出席したロザリアンヌとキラルは当然目立ってしまったが、誰に邪魔される事も無く、ソフィアから送られたお気に入りのドレス姿でキラルと二人楽しい時間を過ごしたのだった。




