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「作れちゃったよ・・・」
「やったねロザリー」
ロザリアンヌはぐったりとしながらも、できあがったエリクシルとエリクサーを手に呟いていた。
もっともかなりの魔力量と時間を必要としたので、久しぶりに魔力切れ寸前の怠さを感じていた。
なのでそう簡単に作れないという事も改めて確認出来た。
そして何より伝記にあった光の精霊が起こした奇跡とされる魔法を、ロザリアンヌも使える事が分かったのも大収穫だった。
キラルでさえロザリアンヌが使えるかどうか分からないと言っていたのに、ロザリアンヌの魔力量はどれだけ増えたのかと考えずにはいられなかった。
「でもこれは世に出す訳にはいかないわね」
ロザリアンヌは今作ったばかりのエリクシルとエリクサーを、そっとマジックポーチに仕舞った。
「作れただけでも凄い事なんだから、ロザリーは本当に凄いって僕は知ってるよ」
キラルはロザリアンヌを慰めようとしてくれている様だが、ロザリアンヌは実はそんなに落ち込んではいなかった。
探求心から突き動かされ作ってみただけで、大賢者様が燃やせと言ったレシピでもあった。
それに万能薬でも危うくソフィアやアンナのお母さんに迷惑をかけるところだったと今は反省していたから、もしコレを世に出すとしたら十分に考えどうしても必要だと分かった時だけだと決めている。
「大丈夫よキラル。それに私も私の事を本当に凄いって思っているから」
「良かった。塞ぎ込んで見えたから少しだけ心配したよ」
「違う違う、本当に疲れただけ。魔力も気力ももう空っぽよ」
「じゃあ今日はもう休んだ方が良いね。ソフィアも心配してたよ」
ロザリアンヌが時間を確かめると、既に夜の10時を過ぎていた。いつもなら寝ている時間だ。
ロザリアンヌはソフィアが用意してくれてあった夕飯をキラルと食べてから、ゆっくりとベッドへと入った。
そして次の日からロザリアンヌは、新たにどんなポーションが作れるのか試行錯誤を始めた。
エリクシル程強力じゃなくても、せめて細胞を活性化させて怪我の治りを良くするポーションをと考えてみたり。
食べても太らないポーションやぐっすり眠れるポーションに若さを維持できるポーション等、前世で自分が望んでいたものを作れないかと色々と考えていた。
しかしいくら作っても効果のほどを実証する術が無かったり、そもそもまったく作れる気がしなかったりで結局どれ一つ成功したとは言えなかった。
「ロザリー明日は卒業式だろう、支度はできているのかい」
「大丈夫、パーティーには出ないから」
「そう言わず折角だから楽しんでおいで」
ソフィアはそう言うと、モーリスの街で飛んだ時の星空の様な色のグラデーションの素敵なドレスを差し出した。
「これって・・・」
「卒業のドレスは身内が用意するもんだろう」
ソフィアは身内が用意するものだと言ったが、【プリンセス・ロザリアンロード】内では攻略対象者がプレゼントしてくれていた。
トゥルーエンドだと攻略対象者全員から渡され、バッドエンドだとそもそも卒業式には出ない。
「師匠、ありがとう」
ロザリアンヌは感動でソフィアに抱き付いていた。
パーティーに出る気など今でもまったく無かったが、とても素敵なドレスに感動したのだ。
このドレスを着られるのなら、パーティーに出ても良いかと思えるほど素敵なドレスだった。
同じ色の靴と髪飾りまで用意されていて、本当にパーティーに出るのも良いかと思いながら受け取った。
もっとも式後はユーリと待ち合わせているので、状況次第ではやはりパーティーには出られないだろう。
こんな事になるなら、ユーリの誘いなどどんな理由があろうと断れば良かったと思っていた。
そしてもしパーティーに出られなかったら、このドレスを着て超高級なレストランへでも行くかと、ロザリアンヌは考えていた。
そしていよいよ魔法学校の卒業日、ロザリアンヌは感慨深く登校した。
色々あったが、総評してやはり魔法学校へ通えた事は良かったと思っていた。
「おい、話がある。卒業式後に少し時間をくれ」
突然呼び止められ振り返るとクラヴィスだった。
「えっと、予定があるから無理だわ」
ロザリアンヌは今更クラヴィスが自分に何の用があるというのか、まったく意味が分からず咄嗟に断っていた。
もっとも用があるのは本当なので、何の後ろめたさも無かった。
「予定ってまさか他の男か?」
いったい何を言っているのだとロザリアンヌは怪訝な顔でクラヴィスを見た。
だいたいロザリアンヌが何をしようが誰と出かけようが、クラヴィスにはまったく関係の無い事だ。
それを≪他の男とか≫なんて聞かれ方は、正直無性に腹が立つ。
「関係ないでしょう」
ロザリアンヌはそれ以上話をする気にもなれず、その場を足早に立ち去った。
すると今度はランディーに呼び止められた。
「卒業式後は僕に時間をくれないか」
(いったい何なのよ!!)
ロザリアンヌは胸の内で思いっきり叫んでいると、キラルがロザリアンヌの耳元近くで囁いた。
「告白でもする気じゃないのか」
ロザリアンヌは本当に心から驚いた。
キラルが念話ではなく、わざわざランディーに見せつけるように耳元で囁いた事も、そして≪告白≫というワードにも。
そう言えばゲーム内では卒業式後は告白イベントが起こるけど、だって多分出会いイベントしか起こしてないよ?
今までそれ程接点も無く、恋愛イベントらしい物等何一つなかった筈・・・
そう考えていて自分がとても大事な事を忘れていたのを思い出した。
そうだよ、攻略対象者は主人公のステータス次第で簡単に落とせるのだった。
もしかしたらクラヴィスもランディーも、ロザリアンヌのステータスが高くなった事で勝手に熱くなっているのか?
Sランクダンジョンを踏破して、大陸の守護者に会った時点でゲームは終わったんじゃないの?
なんで魔法学校卒業までゲーム仕様だって教えてくれなかったんだと、大陸の守護者を思いっきり呪っていた。
ロザリアンヌはランディーにごめんなさいと叫ぶようにしてその場を逃げ出した。
他には出会いイベントを起こしている相手なんて居ない筈。
多分ロザリアンヌの攻略対象者は彼等だけの筈。
ロザリアンヌはこの2年間の記憶を掘り起こしながら、恐々と教室へと向かうのだった。