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久しぶりに魔法学校へと登校し、ユーリに頼まれていた自動翻訳機を納品に行った。
「思ったより早かったな」
ユーリは何を考えていたのか、暫くロザリアンヌを見詰めてから漸く口を開いた。
「卒業までこのまま登校しなくても良かったですか?」
「ああ、どうせ後2週間程度だ好きにすると良い。だが卒業式後少し私に時間をくれないか」
卒業式後って、確か午後からは卒業パーティーが開かれるが、ロザリアンヌは正直なところ卒業パーティーにはまったく興味が無かった。
【プリンセス・ロザリアンロード】のゲーム内では卒業式後に告白イベントがあって、攻略対象者と一緒にダンスを踊るのがエンディングのお約束だった。
しかし今回はストーリーにまったく参加していないので、告白される相手もいないしダンスを踊る予定もない。
それに今からドレスを用意するのも面倒だ。
なので別に付き合うのは構わないと思いながらも、念のため用件を確認する事にした。
「どんなご用でしょうか?」
「商業地区で一緒に行ってほしい所がある」
商業地区にユーリがいったいどんな用事があるのか、ロザリアンヌにはまったく見当もつかなかった。
正直また面倒くさい事を押付けられそうで少し躊躇ったが、しかしもしかしたら自動翻訳機絡みで何かあるのだろうかと考えて了承する事にした。
「分かりました。式後すぐですか?」
「そうだな式後商業地区大通りの入り口で待ち合わせで良いだろう」
ロザリアンヌは待ち合わせって面倒だなと思いながらも、学校から二人で出かけるのも周りの人に何か誤解をされそうで怖いので仕方ないかと諦めた。
「大通りの入り口ですね。式が終わったらすぐに向かいます」
ロザリアンヌはそれだけ確認すると急いで退出した。
卒業式までの間登校しなくても良い事になったので、ダンジョンでの素材集めと練成に集中できると考え気が急いたのだ。
それにリリーとダリアに何を作っているのか聞かれ、すぐに答えられなかった事がずっと心に引っ掛かっていて、何か家族にも喜んで貰える物はないかと考えていた。
家族にも喜んでもらえる誰にでも使える便利な物。
今ロザリアンヌが一番欲しいのはやっぱり通信手段だろうか。
スマホは便利だったが思い起こせば問題も多かった。
SNSでの誹謗中傷問題や炎上問題。それにデータの搾取や不正問題に偽情報に体調問題等々。便利分だけ問題も犯罪も多かった様に思う。
キラルやレヴィアスとは念話が使えるから問題は無いが、ソフィアやアンナ達とすぐに連絡を取りたい時はやはりどうしてももどかしさを感じる。
電話かメールが使えるだけでもだいぶ便利になるんだろうけど、電話に似た魔道具はまだまだ値段が高く一般には普及されていない。
いっその事改良して普及できないものかとも思うが、魔道具にまで手を出し始めたら国に束縛される未来しか見えない。
「別に難しく考えなくても良いのか?普通に100均にあったような便利グッズで」
ロザリアンヌは考えるのを放棄して、投げやりに呟いた。
「便利グッズ?」
「みんなに喜ばれる便利な物って何かないかと思ってね」
「便利な物じゃなくちゃダメなの?ロザリーの家族はポーションを喜んでたよ。ロザリーはもう十分喜んで貰える物を作ってると僕は思うけどな」
「だってポーションは昔からあって、錬金術師なら誰でも作ってるんだよ。それなのに今さら意味なんてないでしょう」
「何言ってるの、ロザリーが作るポーションには光属性の特別な効果があるんだよ。知らなかった?だからみんな効果が高いって喜んでくれるんだ。ロザリーにしか作れないんだからそれだけで特別だろう」
「知らなかった・・・」
少々錬金術チートを使っている事は理解していたが、それはステータスの恩恵だと思っていた。
しかし自分が錬成するポーションに光属性の特別な効果が乗るなんて、まるで考えてもいなかった。
「じゃぁ、ポーションに光属性の回復魔法を乗せたらその魔法効果のあるポーションも作れるって事?」
「僕にははっきりと言えないけれど、きっとそうなるんじゃないかな」
「そうなると素材が無くても、フルケアルやエスナやリザレクション効果のポーションを作れるって事よね」
ロザリアンヌはかなり興奮していた。
今まで素材を集めないと作れないと思っていたポーションが、もしかしたら素材無しでも作れるかも知れないと。
そしてもしかしたら骨折や少々の欠損なら治してしまうエリクシルや、頭さえ残っていれば全身を完全に修復した蘇生を可能とするエリクサーも作れるかも知れないと。
もっともそんな強力なポーションを例え作れたとしても簡単に世には出せないが、作れると分かっていればいつか役に立つ事があるかも知れないとロザリアンヌは考えていた。
そしてもう試さずにはいられなくなった。
「キラル、帰るわよ」
ロザリアンヌは足早に家へと帰ると、そのまま錬金室へと飛び込んだのだった。




