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次の日ロザリアンヌは母カトリーヌと二人で街を歩いていた。
旅立つにあたり、これからはソフィアからの仕送りが無くなる事を報告し、今のうちに少しでも現金を渡しておきたいと申し出ると、案の定断られた。
そして話し合った結果、家族全員に何かプレゼントする事にした。
リリーとダリアは明日にでも本人たちに選ばせるつもりだが、父オットーと兄達の分はカトリーヌに選ぶのを手伝ってもらっていた。
キラルとレヴィアスは相変わらず自由行動だ。
どこにでも付いて来ていたキラルが、付いて来なくなった事がロザリアンヌは何より寂しかった。
しかし傍に居ない筈のキラルなのに、何故か以前より深く繋がっている様な気がしていた。
カトリーヌと二人で商店街を巡り、父には少し高級なお酒を、兄達にはやっぱり少しだけ高級な革の財布を選んだ。
そしてカトリーヌにはドレスをプレゼントした。
「こんな服着て行く所が無いわ」と言うカトリーヌに早速着替えさせ、その足でレストランへと向かった。
「みんなには内緒だよ。特にリリーとダリアには絶対に言わないでね」
ロザリアンヌは何故かカトリーヌに口止めをしていた。
「分かっているわ。そうそう来られそうもないお店だもの、言える訳がないじゃない。二人だけの秘密ね」
そうしてカトリーヌと二人だけで前世でも食べた事のない様な高級な料理を緊張しながらいただき、カトリーヌとの新たな思い出を作った。
その後も家族達と過ごしたり、キラルとレヴィアスと喫茶店に行ったり、街を散策しながら時間を過ごし、あっという間に予定の一週間が過ぎようとしていた。
ソフィアにはいつまでと言う期間の区切りはされなかったし、ユーリにもいつまでと言う指定はされなかったが、ロザリアンヌはメイアンを留守にしているのが気になりだしていた。
「そろそろ帰ろうか」
宿に併設されている食堂で朝食をとりながら、キラルとレヴィアス相手にそっと呟いてみた。
「もう良いの?」
「私は別に構わないぞ」
キラルとレヴィアスの曖昧な返事に「うん、やっぱり帰る事にする」ロザリアンヌはそう決めていた。
そしてその足で実家へと向かい、まだ出かける前だったカトリーヌに報告をした。
「ロザリー帰っちゃうの?」「ええっ~、帰っちゃうの」
「うん、また来るよ」
「次は私にも錬金術を教えて」
「そうそう、私もポーション作ってみたい」
ロザリアンヌが渡したお土産のポーションは家族にも、また家族が分けた知り合いにも評判が良い様で、リリーとダリアは今度は錬金術師を目指す事にした様だ。
「本当にその気があるなら、師匠に学ぶと良いよ。私は教えるのあまり得意じゃないから」
「師匠っておばあちゃんの事?」
「おばあちゃんってどんな人?」
「すっごく厳しいけどとても優しい人だよ」
ロザリアンヌがリリーとダリアにソフィアの事を思ったままに説明すると、カトリーヌは少し考える風にしてから苦しそうに呟いた。
「そうね、その厳しさがあの頃の私にはとても窮屈だったのよね」
「師匠も後悔しているんじゃないかと思います。だから私達弟子にとても良くしてくれているんだと」
「会いに行ってみようかしら」
「是非そうしてください」
ロザリアンヌは何故か他人行儀な言葉でカトリーヌを説得していた。
そしてロザリアンヌが家族に対しての妙な思い込みのわだかまりが消えた様に、ソフィアとカトリーヌも仲直りして欲しいと願った。
「マッシュとエドガーも探検者になろうかって考えている様だし、一度メイアンに戻ってみるのも悪くはないわね」
「そうなの?」
「そうなのよ。ロザリーの話を聞いてその気になったみたい」
確かに兄達にダンジョン攻略の話を聞かせたが、それで興味を持つとは考えてもいなかった。
「そうなのかぁ、でも探検者はみんな良い人ばかりだし、兄ちゃん達なら大丈夫だと思うよ」
ロザリアンヌは兄達がメイアンに行ったら、きっとソフィアも賑やかになり喜ぶだろうと考えていた。
そしてロザリアンヌが旅立ってしまったら、途端に寂しくなるだろうと思うとそれだけが気がかりだったので、この際是非ともそうして欲しいと願った。
これを切っ掛けにソフィアに今後も賑やかで楽しい暮らしをして欲しいと。
そうすれば少なくともロザリアンヌは安心して冒険ができる。
もっとも今のロザリアンヌなら、どこの大陸に行こうときっと転移ですぐに戻って来られると思う。
ただ転移魔法の難点は、やはり一度行った事のある場所でないと転移出来ないという事と、距離によって必要な魔力量が変わるというところだ。
しかしキラルが力を取り戻した効果か、ロザリアンヌの魔力量もかなり増えたと実感していた。
それに使えるかどうかはまだ分からないが、高位の光魔法も新たにいくつか覚えていた。
たとえ使えたとしても軽々しく使う気は無いが、光の精霊が奇跡を起こしたとされる欠損を治す回復魔法まで覚えていた。
本当にびっくりだった。
ロザリアンヌが覚えた光魔法は当然キラルには使えるのだろうから、キラルとレヴィアスさえいれば、ロザリアンヌはもう本当に怖いもの無しだと思えた。
これで魔導船と魔導艇が手に入れば、旅立つ準備はすっかりできるという事だろう。
ロザリアンヌはいよいよ旅立つ決意を固めていた。
そしてカトリーヌとリリーとダリアに見送られながらロザリアンヌは実家を出た。
路線魔導車乗り場まで送ると言われたが、帰りは飛んで帰ろうと決めていたのでロザリアンヌは断った。
転移しても良かったのだけれど、来る時に帰りは景色を空から眺めたいと思っていたので飛んで帰る事にしたのだ。
ロザリアンヌは妖精の羽で飛ぶことがすっかりとお気に入りになっていて、世間一般にはまだまだ広まりそうも無いが、やっぱり練成して良かったと思っていた。




