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第8話 勇気一閃

 

「……ここは?」


 無我夢中でブレイヴレオンの口の中に飛び込んだわたしだったが、気がつくと不思議な場所にいた。

 薄暗い空間には魔法陣が刻まれた足場があって、その上には宙に浮いた拳サイズの水晶が二つ浮いている。


『ルミナ! 立ち上がってこう叫ぶんだ!』


 姿は見えないけれど、ハッキリとブレイヴレオンの声が聞こえる。

 わたしは彼の言葉に従って魔法陣の中央に立って光り輝くペンダントを握り締め、叫んだ。


『「ブレイヴチェンジ!!」』


 キュピーンとペンダントから光が溢れ出てわたしとブレイヴレオンの全身を包み込む。

 光による変化はすぐに起きた。

 なんとブレイヴレオンの体がグングンと大きくなっていくではないか。

 更にはガシャンガシャンと音を立てながら姿が、見た目が変わっていく。

 四足歩行から二足歩行へと変わり、前足首から隠れていた五本の指が現れ、ライオンの頭が胸部へと移動をして頭のあった部分から人間に近い額に赤いクリスタルを埋め込んだ顔が迫り上がった。


『「勇気一閃(ゆうきいっせん) ブレイヴレオン!!」』


 変形をした巨人が見得をきり、勢いよく着地して大地を揺らす。


「これは……凄い! 凄いよブレイヴレオン!」


 わたしの目の前には前方と左右を映す窓のようなものが浮かび上がっていて周囲の様子がハッキリとわかる。

 さっきまで見上げるだけだったドラゴンと目線が同じくらいになっていた。


『ルミナもそのパイロットスーツがよく似合っているぞ』


 パイロットスーツ? と言われてわたしは自分の体を見下ろした。

 野外訓練には学園で防御力をあげる特殊な魔法が付与されたいつもの制服を着てきたはずだったのに、いつの間にか全身をピッチリと包み込むような服に変わっていた。

 所々に鎧のような意匠が施されているが、全く重さを感じないし動きやすくて快適だ。

 特に目立つのは胸の辺りに装甲のようについている大きくなった形見のペンダントだろう。


「な、何これ!? ちょっと恥ずかしい……」


 快適ではあるし、防御力もしっかりしてそうではあるが、貧相な体のラインがくっきり浮かび上がっているので恥ずかしい。

 他人には絶対に見せたくないと思った。


『ルミナ。キミの勇気がワタシに眠っていたいくつかの機能を呼び起こした。それがこの人型になった姿だ』

「もしかして記憶が戻ったの!?」

『あぁ。全てではないが一部を取り戻した。ワタシは超錬金機械生命体(アルケミスゴーレム)。ある使命のために造られた』


 ブレイヴレオンが腰を少し落として構えをとる。


『ワタシの使命は迫り来る敵からルミナを、人類を守ることだ!!』


 聞きたいことは山程あるけれど、その前に今は目の前の敵に集中するべきだと理解した。


『ルミナ。ワタシの操縦桿を強く握ってくれ』

「これだよね」


 宙に浮かんだ水晶を手で覆い被せるように握る。

 すると、自分の体の感覚と何かが結びついたような一体感を得た。


『そのスーツも、そのコックピットも、その操縦桿もワタシとキミをシンクロさせるための機能が備わっている』

「うん。まるでわたしがブレイヴレオンになったみたい」


 巨人の体が自分の手足のように動く。

 体は軽くてコンディションも問題なし。

 目の前に立つ恐怖の象徴でしかなかったドラゴンが今は倒すべき敵にしか見えない。


「ギャオーーッ!」

『来るぞ!』


 あちら側もわたし達を獲物ではなく敵と認識したようで襲いかかって来る。

 振り下ろされた腕を危なげなく躱して一気に懐に潜り込み、握り締めた拳を思いっきり突き出す。


『ブレイヴナックル!』


 腰の入った鋭いストレートパンチが腹に見事命中し、たまらずドラゴンがよろける。


『ブレイヴキック!』


 すかさずその隙を狙って追撃し、ドラゴンの首元を蹴り付けると相手はバランスを崩して倒れた。

 これがブレイヴレオンの力。

 凄い! これなら負ける気がしない!


『油断してはいけないぞルミナ。ダメージを与えてはいるが、致命傷にはなっていない』


 確かにブレイヴレオンの言う通りだ。

 体の大きさはほぼ同じだし、スピードはこちらの方が上回っているが、ドラゴンの全身は鎧のような鱗で覆われている。

 普通の打撃を与え続けても戦いが長引くだけで致命傷を与えられない。

 このまま騎士団が来たとしても怪我人や死者が出るのは免れないだろう。

 なら、パワーアップしている今のブレイヴレオンとわたしで何としてでも倒さなくてはならない。


「だったら!」


 直感で操縦桿の水晶を指でなぞり、ブレイヴレオンに備わっている能力を発動させた。

 人型になった時に収納された爪を再度展開して鉤爪のように拳に装備させる。

 更にそこに魔力を集中させることで鉤爪が熱を帯びて赤く光る。


『ヒートレオクロー!』

「ギャオーーッ!?」


 高温に熱せられた鋭い爪がこれまで傷付かなかったドラゴンの硬い鱗とその下の肉をバターナイフのように切り裂いた。

 傷口から緑色の血を流しながらドラゴンが悲鳴を上げる。

 よし、この攻撃ならドラゴンを討伐することができる。


『「はぁあああああああーーっ!!」』


 敵の攻撃を冷静に回避しながら左右の爪で引っ掻いて確実にダメージを蓄積させていく。


「ギャオッ!」

『ぐはっ!』


 ただ、相手も死に物狂いで暴れ出した。

 でたらめに振り回された尻尾の軌道を予測出来ずに当たってしまった。

 巨体が持つ質量はとても重く、衝撃で吹き飛ばされて地面を転がる。

 衝撃は意識をシンクロさせているわたしにまで届いて、体が痛むがわたし達はすぐに起き上がった。


「行かせない」


 ブレイヴレオンの視界の中に走って森から逃げている生徒達が見える。


「傷つけさせない」


 その中には怪我人に方を貸しながらこちらを心配そうに見つめる彼の姿があった。


「みんなを、エドくんをわたしが守るんだ!!」


 わたしの大好きな人が守りたいものを。

 大好きな人が笑って暮らせる場所を。


『ヒートレオクローラッシュ!』


 息をするのも忘れて攻撃する手を絶え間なく振り続ける。

 反撃の暇なんて与えない勢いで繰り出した攻撃はドラゴンの体のあちこちに命中し、その強靭な肉体をボロボロに傷つけた。


「ギャオオオオオオオオオオーーーーッ!」

『ルミナ! 敵の口内に高熱源反応を確認した!』


 ドラゴンが絶叫していると、外の視界を映す窓に危険を知らせる赤いマークが現れて警告を促す音が鳴り響いた。

 またあの恐ろしい火炎を放とうとしているのだろう。

 パワーアップする前とはいえ、ブレイヴレオンを戦闘不能寸前まで追い詰めた強力な攻撃だ。


「どうすればいいの?」

『こちらも対抗する必殺技を使う。キミの持つありったけの魔力を注ぎ込むんだ』


 何をどうすればいいのかが目の前に提示された。

 わたしはそれをすぐに読んでブレイヴレオンの指示通りに動く。


『「うぉおおおおおおおおおおおーーっ!!」』


 足を広げて勢いよく地面を踏みつける。

 足首まで地面に埋まってしまうが、動かないように固定するのが目的だ。

 次に体を丸めて全身を流れる魔力の全てを一点に集中してどんどん圧縮させる。


『「必殺!ブレイヴゥゥゥ……!」』


 甲高い音と共にバチバチと火花を撒き散らしながら限界ギリギリまで圧縮された高密度の魔力がブレイヴレオンを象徴する胸部にあるライオンヘッドにチャージされ、放たれる。


『「ガオーブラストォオオオオーーーー!!」』


 胸を張り、突き出されたライオンヘッドの口から放出された極太の光線はドラゴンが火炎を吐くよりも早く命中してその姿を呑み込んで消滅させる。

 体内の器官に引火したのか放った光線の余波なのか凄まじい爆発が起きてドラゴンは爆散した。

 吹き飛んだ肉片も何もかもが魔物と同じように塵になって脅威の痕跡は跡形もなくなった。


「はぁはぁ……やったね」

『あぁ。我々の勝利だ!』


 わたしと連動するように白と金の巨人が天に向かって拳を突き上げた。

 ブレイヴレオンの額のクリスタルとわたしの胸のペンダントが魔力切れを知らせる警告音と光の点滅をする。


「やったよ。エドくん……」


 戦闘が終了して気が抜けたせいなのか、魔力切れを起こしたせいか疲れがどっと押し寄せてきた。

 きっと戦いに夢中だったせいで脳が興奮してあらゆる危険信号を拒んでいたのだろう。

 足元から力が抜けてまともに立っていられなくなったわたしはその場に崩れ落ちるように倒れる。


『むっ! 大丈夫かルミナ!?』


 意識が途切れる直前に心配そうなブレイヴレオンの声と、こちらへ飛んでくるフェニックスの姿が窓に映し出されていた。




ブレイヴチェンジと叫んだ辺りでBGMが流れ出して戦闘開始で主題歌を流したい。



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