第18話 勇気のつるぎ
「本当かい!?」
全員の視線がセリーナへと集まる。
彼女は一歩前へと踏み出し、説明を始めた。
「町の中央広場にある日時計は知ってるわよね?」
「あの待ち合わせによく使う場所だね」
わたしがエドワードとのデートの待ち合わせにも利用した場所だ。
この町の観光名所にもなっている日時計。
通常のものより遥かに大きく、聞くところによると魔法学園の設立によって栄えたこの町の中でも異質な町の誕生前から存在していた謎のオブジェクトだ。
「日時計として利用されるようになったのは町の人間がオブジェクトを有効活用したからなの。学園にあった古い資料に書いてあったわ」
セリーナが図書館で調べていた本の内容を思い出す。
関係ない本をわたしに見せてきて何のつもりなのかと疑問だったが、まさかこんな時のために調べていたの?
「魔法使いが束になっても動かせず、破壊も出来なかったそうなのよ。原料もわからない謎の性質を持つ金属。似てるわよね?」
セリーナの話にわたしはピンと来た。
ブレイヴレオンの全身を構成している頑丈で休むと元通りに修復される不思議な金属。
セリーナの話が本当だとしたら、それはわたしの持つペンダントと同じような古代文明の遺物かもしれない。
「どうします団長? 学生なんかの話を信じて掘り起こす暇があったら避難誘導を急がないと」
「そうですよ。事態は一刻を争うんです」
ただ、この場にいる騎士達はセリーナの意見に否定的だった。
「ちっ……」
舌打ちをしながらセリーナが俯く。
彼らは間違ったことを言っていない。
不確かな情報よりも町を捨てて僅かでも人を逃がそうとしていた。
見ず知らずの少女の意見に賭けるよりも人命救助を最優先にする。
それは騎士として当然の選択だった。
俯いたセリーナが拳を強く握りしめて悔しそうにしている姿がモニターに映った。
「わたしは信じます!」
だから、わたしは大きな声を出す。
ブレイヴレオンのスピーカーから発せられたわたしの声に騎士達が口を閉じる。
「セリーナさんは凄い人なんです。わたしとエドワードは同じクラスでずっと彼女のことを見ていました」
セリーナがわたしに嫌味や皮肉を言ったり、自慢げに魔法を見せつけてきたことはあった。
でも、彼女がプライドを持って貴族相手にも臆せずものをハッキリ言えるのは確かな実績があったからだ。
人を騙したり、ズルをするんじゃなくて自分の実力を証明してきた。
だからわたしは彼女を信じられる。
「アンタ……」
俯くのをやめて顔を上げてブレイヴレオンと中にいるわたしを見るセリーナ。
「セリーナさんを信じられないならわたしを信じてください。セラフィー公爵家の人間の言葉を」
家名を出して騎士達に訴えかける。
普段は絶対に言わないこの言い方は、公爵家を代表してのお願いだ。
直接的な命令権はないが、軽い言葉じゃないと伝わって欲しい。
「僕も信じるよ」
そう言ってエドワードがセリーナの前に立った。
王位継承権を持つ彼の賛同はアルケウス王国の騎士である彼等にとって大きな影響力を持つ。
「なぁ……」
「いや、だがしかし!」
「早くしないと!!」
騎士達がどうしようかと顔を合わせる中、ガイルが剣を地面に突き刺した。
「お前ら!」
その場にいる部下全員の顔を見渡しながらガイルが声を張り上げる。
「殿下とルミナお嬢さんからのお墨付きが出たんなら騎士団はこの嬢ちゃんの話を信じて動くぞ! 責任は全部俺が受け持ってやる!」
「「「了解です!」」」
騎士団長一声で騎士団の人達が即座に動き出した。
「ありがとうガイル」
「俺はただ自分の直感に従ったまでです」
エドワードがお礼を言うが、ガイルはそんなものは不要だと笑った。
「それに、騎士団相手に堂々と自分の意見を言ってみせたこの嬢ちゃんの肝の太さが気に入っただけですよ」
優しい手つきでガイルがセリーナの頭を撫でた。
突然のことでセリーナは顔を赤くするが、一人の魔法使いとして自分の言葉を認めて貰えたのは嬉しそうだった。
「ルミナ! ブレイヴレオン!」
『広場へ向かうぞ』
そうと決まればさっそく作戦を実行して武器を手に入れる。
騎士団の先導を受けながらブレイヴレオンの巨体が町中を走りながら移動する。
地面に足跡が残ったり、屋根の瓦が落ちたりしているが、緊急事態なのでごめんなさいと心の中で謝罪しておく。
「ブレイヴレオン! あれだよ」
『あぁ、承知した』
時には障害物となる建物を軽やかに飛び越えたりしながら進むと、目的地の開けた場所に到着した。
「ちっ、どうやら向こうさんの準備が整ったみたいだぞ」
ガイルが舌打ちをしながら町外れを睨む。
攻撃の反動から回復したドラゴンがズンズンと音を立て、大地を揺らしながら再び動き始めた。
こっちも早く用意をしなきゃ!
『これだな』
中央広場の真ん中にそびえ立つ錆びついて苔の生えた細長い柱。
下から見上げるだけじゃよくわからなかったけれど、ブレイヴレオンの目線で見て初めてただの柱じゃないことに気づく。
『引き抜くぞ!』
柱の先端部分を両手で掴み、力の限り引っ張る。
かなり深くまで長い間刺さっていたせいか中々抜けない。
それでも諦めることはせず、町のためにもわたしに武器の情報を教えてくれたセリーナのためにも必ず引き抜いてみせる。
ズズズズッ……と地面に亀裂が走って日時計用に描かれた模様が崩れて地中に埋まっていた鋼が徐々に姿を見せた。
『「フルパワー!!」』
全身のエネルギーを最大解放して一気に引き抜いたのはシンプルな形をした一振りの剣だった。
長い間眠っていたせいで剣身は錆て柄の部分には苔が生えている。
「あんな剣で戦えるのか?」
エドワードや騎士達が不安そうな顔をしているが、わたしはモニターを見て笑った。
認証完了。
識別名【ブレイヴソード】
『これがワタシの新しい武器、ブレイヴソード。勇気注入!!』
ブレイヴレオンとパスが繋がったことにより、剣へと魔力が注ぎ込まれる。
新しい持ち主が決まり、封印されていたブレイヴソードは機能を取り戻す。
剣が発光すると錆や苔を吹き飛ばしてその下にあった新品のような輝きを取り戻した。
「かっこいい!! 凄いよブレイブレオン!」
「とんでもない名剣だ! 俺も欲しい!」
足元で何やら師弟コンビが大興奮をしているけれど、残念ながらのんきに鑑賞会をしている暇はない。
「ゴァアアアアアアアーー!」
『行くぞ!』
両手でブレイヴソードを握り締め、ブレイヴレオンは再度ドラゴンへの攻撃を試みる。
『はぁあああああああーーーーっ!』
全速力で走り、町の入り口まで接近したドラゴンの動きを止めるために筋肉の塊で大樹のような太さをした足を斬りつける。
勿論、狙うのは関節部分だ。
「ゴァア!?」
力強くブレイヴソードを振り下ろすと、これまでかすり傷しか与えられなかったドラゴンの足から緑色の鮮血が流れた。
「届いた!」
レオクローでは短くて通らなかった攻撃がリーチのあるブレイヴソードのおかげで深くまで突き刺さりダメージを与えられた。
山を背負ったドラゴンが初めて悲鳴を上げて怯んだ。
『うぉおおおおおおーー!』
右前足、右後ろ足、左後ろ足、左前足。
ぐるりとドラゴンの周りを走りながら素早く、そして的確に足の関節を狙い斬りつけていく。
大きな図体のせいで小回りや素早い動きが出来ないドラゴンはブレイヴレオンの姿を捉えきれずに立ち尽くしている。
「ゴァアアアアアアアーーーー!!」
さっきまで相手をする必要がないと思っていた敵が急に自分を傷つける刃を持ってちょこまかと動き回っているためか、ドラゴンが怒りの咆哮をあげる。
ギラギラとした目つきでブレイヴレオンを睨みつけてロックオンしてきた。
「あの攻撃が来るよ!」
ドラゴンは足から血を流しながらその場に体を固定するように踏みとどまると、背中を大きく揺らした。
モニターに高エネルギー反応が現れ、再び外殻を辺り一面に撒き散らすつもりだ。
「やべっ、逃げろ!」
「殿下とお嬢ちゃんは俺の後ろに!」
騎士団が慌てて攻撃に備えようとする姿が見えた。
ガイルはエドワードとセリーナを守るように剣を構え、降り注ぐ岩石を受け止めきろうとしている。
「ゴァアアアアアアアーー!!」
『今のワタシは、先程までとは一味違うぞ!』
轟音と共に射出された外殻が雪崩のように町へと降り注がんとする。
空に浮かぶ無数の影。
高所からの落下による衝撃も加わり、全てを押し潰そうとする無差別攻撃。
『ブレイヴスラシュ!』
しかし、ブレイヴソードを大きく横薙ぎに振るうと町に落ちるはずだった外殻は細かく粉砕されて小さな石になってしまった。
パラパラと小石が落ちる音がするが、町はほぼ無傷のままだった。
『ブレイヴソード。凄まじい切れ味だ』
わざと柔らかい関節部分を狙っていたけれど、これならあの硬そうな背中にも通用しそうだ。
「ゴァアアアッ! ゴァアアアアアアアーーッ!」
最大の攻撃を防がれてしまったせいか、自分の勝ち目の無さを悟ったのか、ドラゴンは虚勢を張るように吠えながら撤退をしようとする。
『「逃すかぁ!」』
こんな巨体を持つ存在だ。逃げるだけでも各地に被害を残す。
ブレイヴソードが有効で、足を怪我して動きが鈍っているのならここで仕留めきる。
もうこれ以上、誰かの帰る家が壊れるのはごめんだ。
『ブレイヴソード、フルチャージ!』
両手で持ったブレイヴソードを天高く突き上げるブレイヴレオン。
すると、剣身の先端から余剰分のエネルギーが放出されてブレイヴソードが伸びた。
「いくよ、ブレイヴレオン!」
『いくぞ、ルミナ!』
胸部にあるライオンの顔が吠える。
ブレイヴレオンの全エネルギーをブレイヴソードへと集中させた一撃必殺技。
『「フルパワーブレイヴフィニッーーーーーーッシュ!!」』
天まで届く巨大な剣が背中を向けたドラゴンを一刀両断。
その山のような大きな体に輝く光の斬痕を刻み、真っ二つになったドラゴンは断末魔を上げながら爆発四散した。
『我々の勝利だ』
エネルギーを使い果たしたブレイヴレオンの額のクリスタルとわたしの胸のペンダントが魔力切れを知らせる警告音と共に光を点滅させる。
「やった……勝った……」
ブレイヴソードを地面に立てて堂々と勝利宣言をするブレイヴレオンの操縦席で、わたしは町を守れた喜びを噛み締めながらその場に座り込むのだった。
主題歌を流すべき回その2でした。
脳内でTVアニメ『勇気一閃ブレイブレオン』の歌を再生してください。




