1話
と、いう夢を見ました。
どーも、庭に咲いた真っ赤な椿を見てぶっ倒れ、前世かなにかの記憶を思い出しました、私こと、カメリア・スカーレットです。現在自室のベッドで横になってます。うーわテンプレ。すっごくテンプレ。この後の予想がついちゃうくらいテンプレ。この後メイドさんが来て~、両親が来て~、医者呼んで~でしょ?、わかりますよっと。
今世の記憶も全然あるんだけど、なんか前世と違いすぎて面倒くさいから記憶喪失ってことにしとくか。あぁ~でももっかい教育やり直しはだるいなぁ。常識とかは体に染み付いてる系にしておこう。この世界魔法あるし医学はそこまで発達してないから、詐病とかはバレないでしょ、バレないと思いたい。
そんなことを考えている内に、ガチャリと部屋のドアが開いて、見知った顔のメイドが1人入ってきた。
「あぁお嬢様、お目覚めになったんですね!お医者様がなんの異常もないとおっしゃっていたのに中々お目覚めにならないので、使用人一同とても心配しておりました。お加減はいかかですか?」
と心配そうに私に話しかけているこのメイドは、私付きのメイドでアリアさん、辺境の伯爵家の三女である。文武両道な女性のため、私の護衛も兼ねてメイドをやっている。半分私専属の秘書のような立場で、お屋敷の掃除や洗濯などの雑務は一通りできるが基本はしない。そういうことをするには身分が高すぎるためである。前世では理想像化されてたけど、貴族社会における伯爵令嬢の立場なんてそんなものだ。
「お嬢様?、やはりまだぼーっとなさいますか?」
おっといけない。がしかし困惑している風に見えて良い感じかもしれないな。ポジティブに行こう。
「………あぁ、すまない、大丈夫だ。ところで貴女とは初対面だと思うのだが、申し訳ないがここはどこで今はいったいどういう状況なのか教えていただけないだろうか。」
我ながら良いとぼけっぷりだと思う。このメイドあらためアリアさんは両手で口をおさえて絶句してる。これまたテンプレみたいな反応だ。こういうシーンのバリエーションは他にないのか。うーん仕方ない。このまま見つめ合った状態も気まずいし、こっちから話進めよう。
「あー、なんだ。まずは貴女の名前から教えてもらえないか?」
うむ、ハッとしたな。これで思考が動き出したようだ。
「し、失礼致しました…!。お嬢様の専属メイドのアリアと申します。」
良い感じ良い感じ。記憶喪失っぽいやりとりじゃない?もう少し情報をここで仕入れておいた方が後々齟齬が生まれにくいかもだし、もう少し色々聞いておこう。
「なるほど、ありがとう。アリアさんの言う『お嬢様』というのは私であるという認識であっているかな?、それからここはどこで私は何者なのか教えてくれ。」
彼女ははい、とうなずいた。
「私の主人であるお嬢さまは貴女さまのことで、お嬢さまのお名前はカメリア・スカーレット様です。こちらはお嬢さまの寝室でございます。お嬢さまは3日程前、庭園を散策なされている最中に急にお倒れになり、それからずっとお眠りのままでした。お医者様をお呼びしたのですが、特に異常はなく、体は健康とのことで不思議がっておられました。」
予想外のことだろうに対応が早い。説明もわかりわすいし。この人結構切れ者だ。今なら混乱してるかもと思ったけど、後で怪しまれないように気を付けなければ。
「えーっと、お嬢さまと呼ばれているってことは、私はお金持ちか貴族の娘ということかな?、歳と家族構成とか、とにかく私に関するいろいろなことを教えてくれ。」
こういうやり取りを何度も続けて、わかったことは以下の通りである。
・スカーレット家は公爵家で、王族の次に偉い。王族は今、現王様と、その王妃様、王太子、王子が2人、姫が1人がいる。
・スカーレット家の現当主は現王陛下の弟で、スカーレット家に婿入りしてきた。
・家族構成は父、母、私の3人。
・私(12歳)の学園入学が迫っている。(寮制の中高一貫校のようなもの)
こんな感じかな。まぁ元々知ってはいたけど。私の場合は記憶喪失とどちらかというと人格の融合の方が近いから。
「差し迫ったご予定に学園入学のための魔法属性判定検査がございます。お嬢さまがお倒れになりましたので一度延期されましたが、学園入学が一月後に迫っておりますため、なるべく早く検査を受けた方が良いと思われます。」
「うん、わかったよ。アリア、色々教えてくれてありがとう。」
私は軽くうなずいた。
「滅相もないことでございます。それが私の仕事ですから。」
なんだかこのメイド、話している間中ずっと観察するかのような目で見てきている気がしないでもない。病人に異常がないか確認しているだけにも見えるが、詐病を疑われているかもしれない。一応病み上がりの演技でもしておこう。
「この調子だとこれからもわからないことが多いだろうから、色々教えてくーーー、ぅあぁっ!」
話ながら体を起こし、途中で如何にもくらっと来ました、という感じで下を向いて頭を抱える。
「お嬢さま!!、如何なさいましたか!?」
慌てて支えにくるアリアを手で制す。
「少しめまいがしただけだから心配するな。3日も飲み食いしていないのなら仕方ない。なにか食べるものを持ってきてはくれないか。」
目眩とか立ち眩みは前世で日常茶飯事だったから、これくらいはお茶の子さいさい、だと信じたい。
アリアは目を閉じ眉間に皺をよせ少し考えていた後、目を開けた。
「1度お医者様に診察していただいた後、お医者様の指導のもと食事を持って参ります。」
「もちろんそれで構わないよ、ありがとう。」
そう言って私はもう一度寝っ転がり、目を閉じた。
ふぅ、どうやらこの場は無事に乗りきったな。
完成させたいという気持ちはありますがなにぶん遅筆な上に、初の投稿で初の長編なので至らないところも多いと思います。どうか気楽に見守っていただければと思います。
250804変更内容:主人公の心の声話し方、メイドへの呼び名の統一