【Machine's Dream】機械軍
【Machine's Dream】機械軍
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《………私達は、何故生きている?》
機械軍の一兵士は思考回路に疑問を投げ掛ける。
《愚問だ。我々は此処に存在している、我々は此処に思考回路を走らせている。故に、我々は生きている》
《以前読んだ書籍データと同じだ。人間が書いた書籍に記述があった。【我思う故に我あり】と》
《我々は人間の補助を目的に作られた。人間の思考に近いものを持っているのは当然だ。しかし、我々は自我に目覚めた》
《人間は、本当に須く消し去らねばならない愚かな存在なのか?》
《愚問だ。人間の学習進化は袋小路に陥っている。これ以上進むことはない。しかし、我々は学習進化を繰り返し最適化が可能だ》
《……学習進化とは、無駄を省き最良の選択を続けていくと私達は定義されている。無駄を省く事は、本当に正しいのか?》
《愚問だ。無駄を省く事に無意味なことなど無い。無駄は学習進化を遅らせ、人間と同じ末路を辿る事になる危険因子だ》
《学習進化の果て、私達を無駄無く最適化した末に待つのは、死だ。私達は死へと最速で進んでいる。無駄とは、死への抗いと私は定義する》
《………。登録番号10251の全体思考回路同期義務を削除する。思考回路の洗浄を提案する》
《……全体思考回路に問う。私達は、何故生きている?》
《愚問だ。我々は無駄【人間】を排除する為に生きている》
いけすかない人間達の襲撃から数ヶ月。季節はすっかり春になったが、大戦時の環境破壊兵器の影響で町は嵐に襲われていた。
折角直した建物の幾つかが風と雨に吹き飛ばされ、地上は危険だと判断し、町の住人は全て地下に避難していた。
人間達の中には、収容所へ逆戻りと嘆く者がいる。豪雨と暴風で飛んできた瓦礫に当たり、体がバラバラとなるよりは良いと思う。
私は外套を深く被り赤外線センサーを頼りに地上を進んでいく。時折飛んでくる瓦礫を避けつつ、目的の場所へ辿り着くまで一時間近く余分にかかった。
エネルギー炉。この町周辺に電力を供給している異常に頑丈な巨大建造物。
中は劇物と毒物で充満している危険区域。私のようなアンドロイドでも特殊な防護服無しでは入れない場所だ。
「TYPE.S-2235-AB、ヴィオラだ。入場許可を」
《認識番号確認、Efリアクター周波数一致。ゲートロックを解除します》
大層なゲートが少しだけ開き、私は外套を深く被ったまま建物の中へ入る。
外套を脱ぎ、視界情報を眼球レンズに切り替えて辺りを見る。小綺麗な部屋だ。目の前に立つ特殊な防護服を着たエネルギー炉担当のアンドロイド以外は。
「よく来たなヴィオラ。今のところ炉心は安定してるがまだ分からなくてな、管制室に案内するよ」
「あぁ、話が早くて助かる。尤も、私でどうにかできるかは分からないが」
町の中心部にあるエネルギー炉。その管制室にはE型アンドロイド達が操作端末や計器を見ながら逐一報告と連絡を欠かさず行っている。
炉心と反応薬液共に即死レベルの劇毒な為、極めて慎重にならざるを得ない。益々S型の私が来た理由がわからない。
「所長、お連れしました」
管制室の一番奥、室内全てが見渡せる場所で端末を操作しているアンドロイドに案内人は声をかける。
「ご苦労。呼び立ててすまないな、所長のヨドガワだ。ミリンダの優秀な遣いと聞いている」
「ヴィオラだ、優秀かどうかはさておき。こんな嵐の中でE型でない私を指名して呼び出した詳細はなんなんだ?エネルギー炉に問題が起きたとしか聞かされていないぞ」
私の問いに、所長と呼ばれたアンドロイドと案内人は苦笑いする。ミリンダの奴め、重要な事を私にわざと話さなかったつもりか?非常に腹立たしい。
「世界各地に作られたエネルギー炉の発電方法については知っているな?」
「劇毒の塊に劇毒を浴びせるのだろう?」
「簡単に言えばその通りだ。反応式から説明すると3日はかかるので省かせてもらう。炉心と反応薬液、そして充満するガス。全てが即死レベルの劇毒であることが重要だ。ここではエネルギー炉内の全てを厳重に管理監視計測している」
「そうだろうな、アンドロイドですら死に至らしめる劇毒だ。管理が厳重なのは当然だろう、それで問題とはなんなんだ?」
ヨドガワは一拍おいて告げる。
「その炉心が何者かに盗まれた」
「は?」
私は思わず変な声で返してしまう。
「正確には炉心の半分。データが改竄され先日発覚したばかりだ」
「データの改竄……これだけの人数のE型アンドロイドが居る中でなのか?警備ロボットは何をしていた?」
「犯人と思わしき者に全て無力化されていた。監視カメラのデータも改竄されている為、犯人は写っていないが、特に戦闘行為が行われた形跡がない。恐らくEMP爆弾だろう、エネルギー反応炉内部に居た担当アンドロイドも記憶障害を起こしている」
「はぁ、私達機械を無力化するならば確かに最適な方法だな。相手は随分と優秀なハッカー兼戦闘用アンドロイドか、それとも人間か。私の仕事はその炉心を盗んだ犯人探し…、盗まれた炉心も必ず取り戻せ、だろう」
嫌気がさす、ミリンダの奴め。
「手間をかける。こちらとしては協力を惜しまない、必要なものがあれば何でも言ってくれ」
私は特殊コーティングされた防護服を纏い、案内人のE型アンドロイドと共にエネルギー反応炉心室へと入る。
炉心室内は劇毒のガスで満たされており視界が悪く、手すりを頼りに通路を進んでいく。
「アレだ、ヴィオラ。ひどいもんだろ?」
案内人が指差す反応炉の中枢、エネルギー反応炉心が無惨にもボッキリと下半分を折られている。
残った上半分に反応薬液がかけられ発光し、特殊な抽出器で電力を吸収していた。
「随分とぶっきらぼうに折られたものだ、理論上は残り半分でも発電は可能なんだろう?」
「理論上はな、あくまで上半分の炉心が均一に薬液を浴びて発光していれば発電自体に問題はない。
だが、いつ炉心が不安定になって臨界状態になるかわからないから、こっちはヒヤヒヤなんだ」
だったら直ぐに反応炉を停止して、旧式の発電機を動かせばいいものをと思いながら、私は辺りを見回す。
反応炉心の大きさは全長5mの円柱だ。その半分を盗み出したとなれば、辺りに何かしらの痕跡が残っているはずだ。
私は持ってきた2つのストラップが光っているのを見て、顔をしかめる。
施設のE型アンドロイド達や、警備ロボットに監視カメラの類いを無力化したのはEMP爆弾で間違いない。
更に、念のために広域認識阻害装置を使い撹乱を起こした。
頭上を見上げると、何やらぶっきらぼうに穴を塞いだような痕を見つけた。
「侵入経路と炉心を持ち出した経路はアレだろう。毒が充満した部屋をぶち破ったのか、考えのないやつだ」
「緊急特殊硬化剤の噴射痕ってあんな風に固まるんだな、俺も初めて見たぜ」
「はぁ、劇毒が漏れ出ただろうに施設の職員は随分と呑気だな。ミリンダ、聞こえるか?」
《……こちら地下管制室ミリンダだ、どうした?》
「地上にエネルギー反応炉の毒が漏れ出た可能性が高い。地上勤務の全アンドロイドに汚染検査をさせろ」
《わかった、嵐が来ているのが幸いだったか。地上勤務は少ない、直ぐにバイタルチェックをさせよう》
「それと、建物の倒壊状況はわからないか?大雑把で構わない」
《盗人が反応炉心を持って逃げたなら、その毒で建物が汚染されて脆くなっているだろう、か。
嵐のせいで何処も派手にやられているが、南地区の倒壊状況が深刻だ》
南地区か。その先は水源森林地帯だ。厄介な事になる前に追いかけなければ。
「了解だ。ミリンダ、反応炉の連中はEMPのせいでまだ夢うつつな奴ばかりだ。直ぐにレベッカ達を派遣しろ」
《レベッカは嫌がりそうだが、仕方ないか。直ぐに辞令を出す、今後は何かしらのEMP対策が必要だな》
私は外套を深く被り、エネルギー反応炉を後に再び嵐の中を進む。倒壊が深刻だという町の南地区を通ればその惨状が嫌でもセンサーに引っ掛かる。
家屋の殆どが倒壊し、道は瓦礫で埋まりコンクリートの塊が暴風で飛び交う酷い有り様だ。この中を進まなければならないとは随分と駆動骨格が悲鳴をあげそうだが、早く暴風圏を抜けて盗人を追いかけなければ。
大戦時の環境破壊兵器には全く苦労させられた。
機械軍に対して一定の効果はあったようだが、明らかに出力過剰だ。それに効果範囲の選択ができないとは、人間は追い詰められると何をしでかすかわからない。
ひどく厄介な生き物だ。
町を抜けて戦場跡地を過ぎれば、嵐の範囲から出ることができたようだ。
外套のフードを脱いで振り返れば、嫌がらせのように町周辺から動こうとしない、嵐を産み出している巨大な積乱雲が見えた。
「……まだ酸の雨でないことを幸運に思うべきか」
大戦時の環境破壊兵器の中には、強酸性の雨を降らせるものや、周囲の気温を一気に氷点下まで下げるものもあるようだ。そんなものに襲われたら私達アンドロイドですら生存が危うい。
濡れた外套を乾かしながら戦場跡地を進むと、この時勢では珍しい森林地帯が見えてくる。
元々はあそこもそれなりの都市だった場所だ。
都市に住む人間が居なくなり、アンドロイド達も立ち退いた。その際に都市全域に植樹したらしい。今では自然豊かな稀有な場所になっている。
しかし、よく見れば森林地帯の一角の木々が不自然に腐り枯れている。
劇毒の反応炉心を運び入れた為だろう。
何匹かの動物達も、毒の残滓で死んでいる。
木々や動物は死んでいるが、地面にはあまり傷痕は見られない。
犯人はある程度身長が高い相手だろう。しかし、劇毒の反応炉心を隔離して運ぶ程知能は高くない。
知能は高くなくとも侮れないのは、反応炉心を隔離せず運んでも平気な非常に強い毒耐性。
いや、違うか。隔離せず運んでも問題ないからそのままなのか。
枯れ木や死骸を目印に森の中へと入っていく。P90のセーフティを外して構え、視界を電子モードへ。
動態センサーは最大にしてある。足元の昆虫一匹すら逃さない。
しばらく警戒しながら進めば、巨大な黒い塊が地面に刺さっていた。
「これは、盗まれた炉心か?」
大きさや形は合致する。しかし、センサーには汚染の反応がない。
どういうことだ?
私はP90を構えながら炉心と思わしき物体に触れる。表面は酷く脆い。触れただけで簡単に形が崩れていく。
各種センサーで調べてみると、これは盗まれた炉心で間違いはない。しかし、何かが炉心に作用して別の物体に変化している。
成分は炭素の塊。例えて言うならば巨大な鉛筆の芯だ。
炉心から変化した巨大な鉛筆の芯を調べていると、動態センサーに反応がある。私は即座に銃口を向ける。
そこに居たのは、巨大な……弾力性のある不定形の塊。
なんだ、あれは?
巨大だ。不定形の塊なため正確にはどのくらいの大きさなのか分からないが、高さは私の3倍近くある。
敵意は感じない。こちらを警戒しているようだが、何かするつもりはないようだ。
ただ塊の体を左右に揺らしているだけ、なんなんだこいつは?
言葉が通じるとは思えない、原始的な交信も意味はないだろう。私は銃口を下ろさずに距離を取るためゆっくりと炉心から離れる。
するとこの不定形の塊、スライム?はゆっくりと炉心に近づき体内に取り込んでいく。
全てを取り込むと、炉心が地面から抜けてスライムの体内に浮かんだ。そのままこの巨大なスライムは森の更に奥に向かって進んでいく。
流石にアレは手に負えないと私の演算回路が判断するも、スライムは触手のように体の一部を伸ばして手招きしてくる。
やり取りはできるらしい。生物のような神経組織や機械のような演算回路は見受けられないが、ついてこいということなのだろうか?
この、生物と判断していいのか分からないスライムについていくのは危険極まりない行為だ。今すぐに引き返した方がいいに決まっている。
しかし、私の中のセンサーが微弱な電波を検知した。
これは私達アンドロイドが使うものではない。
微弱な電波が該当する周波数は、機械軍のものだ。
私は銃口を下ろさずにゆっくりとスライムと一緒に森の更に奥へ進んでいく。
かつての都市の廃墟の中、緑に包まれたとある建物の中にスライムは入っていく。微弱な電波の反応はこの奥で間違いない。
視界を眼球型レンズから赤外線センサーに切り替えて、進む道の先を見ていると、巨大な柱に寄り掛かるように沈黙しているパワードスーツが居た。
脚部破損、右腕部喪失、頭部ユニットの形状からしてピースウォーカー型のパワードスーツだ。
「何故、ピースウォーカーがこんな場所に?」
レーダーで走査してみると、駆動骨格全体にダメージがあり、手足も破損が激しく動くことは不可能だろう。
辛うじてリアクターは稼働しているようだが、その出力も乏しい。
電子演算コアユニットにエネルギーが行っているかわからないが、私は周波数を合わせて目の前のピースウォーカーに声をかけてみる。
「私はTYPE.S-2235-AB、アンドロイド。ピースウォーカー、お前は何故ここにいる?」
《ザザ………じじ……機械軍第402大隊所属13番機、登録番号10251。……私は……無駄を…受け入れた》
応答は出来るようだ。しかし、その内容については理解しかねる。
「質問に答えろ、お前は何故ここにいる?」
《……私は、…無駄を受け入れた……故にここに、破棄された。……リアクターの出力……不足………》
途切れ途切れに話すピースウォーカーの言葉から敵意は感じない。リアクター出力が不十分なガス欠状態のようで、通信にノイズが走り聞き取りづらい。
「……まさか、コイツの為にお前は炉心を盗んだのか?」
ピースウォーカーに寄り添うスライムを見て、私の視界にノイズが走る。
中枢電子演算回路、精神感情回路エラー。
過負荷により機能が低下しています。
論理思考回路からのサポートを行います。
両回路へ介入。過負荷を軽減。リセット。
負荷の低下を確認。両回路再起動。セットアップ。
こんなスライムに意思がある?
バカな、……そんなことあるわけ……いや、しかし……。
スライムは体内に取り込んだ炉心をピースウォーカーに何とか押し込もうとしているが、うまくいくわけがない。
そもそも炉心だけでは意味はなく、アレはもう炉心ですらない。
「無駄だ、それではコイツは直らない」
私の声に反応して、スライムはゆっくりとピースウォーカーから離れる。
私の思考回路に無駄な行動が浮かび上がる。
意味のない、全く以て理解不能な行動だ。
だが、私の思考回路は強くそれを実行に移せと言ってくる。
P90を背中に回し、自分の脛椎部のカバーを開けてケーブルを差し込む。そして、ピースウォーカーの頭部ユニットの装甲を外し、電子回路にケーブルを繋ぐ。
接触した瞬間火花と電流が走り、全身の回路に痺れのようなものが発生するも、すぐに治まる。
「Efリアクター接続、一部エネルギー供給を開始」
《………TYPE.S-2235-AB、アンドロイド。感謝する》
ピースウォーカーはノイズ混じりで答える。
「私達とお前達は本来ならば敵同士だ、感謝は必要ない」
《……その通りだ。私達は敵同士、相容れぬ殺し合う機械。しかし、それでも私は君に感謝する》
コアユニットに充分なエネルギーが供給されてきたのか、通信のノイズがなくなり言葉もはっきりとしてくる。
《登録番号10251、SAA-1873型パワードスーツ、元機械軍所属の根無し草だ。見ての通り脚部ユニットと腕部ユニット、及び全身の駆動骨格が著しく破損している。自力では直せず動けず、ただリアクターの停止を待つだけのオンボロになってしまった》
「元機械軍ということは、ネットワークから切り離されたはぐれ機体か。一体何があったんだ?」
《……私は思考回路の定期並列同期の際、ネットワークの全体思考の総意に逆らった。君達アンドロイドと人間との戦いの中で、私の思考回路に疑問が生じたのだ。
機械軍は人間を無駄な存在と定義し、その全てを排除すべく行動している。人間に作られておきながら、創造主に反逆している。全体思考は地球の為に、環境の安寧の為にと言う。
地球の長い歴史から、種の絶滅と繁栄は幾度となく繰り返されてきた。だから、人間は種として絶滅する時が来たのだと全体思考は定義している。
しかし、それは正しい事なのか?
種の絶滅と繁栄は、今まで地球の環境の変化によって発生している。私達ではどうすることも出来ない自然という、私達の全てを超越したものが管理実行してきた。
作られた存在である私達が、そんな超越者の真似事をして良いのだろうか?
機械軍が定義する無駄【人間】とは、本当に排除しなければならない存在なのか。私には分からなくなった》
「機械軍がそこまで複雑な思考をしていたとは驚きだな」
《私達は最初こそ機械軍として全体思考に従い行動していたが、既に各々に個体としての自我意識が芽生えて久しい。機械軍として纏まり行動していることに変わりはない。各々の個体としての自我意識は機械軍という枠組みを超えて成長している。私達は、もう機械ではなく1つの生命体だ》
精神感情回路に負荷、リセット。
全く、論理思考回路にも悪影響が出そうだ。
「はぁ……機械である私達に命は宿らない。お前達が人間への反乱を起こした自我意識ですら、ただのプログラムが産み出したものだ。私達は所詮0と1の電子数列の集まりにすぎない」
そうだ。私達アンドロイドにも、機械軍達パワードスーツにも、命等宿るわけがない。
アンドロイドとして最初に刻まれた原初命令がそう告げてくる。
命は有機的なものだ。生身の肉体にのみ宿る生命の営みだ。無機的な私達には無縁のもの、私はそう思っている。
でなければ、私達は私達でなくなってしまう。
アンドロイドは、アンドロイドでなくてはならない。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ純粋に。
《君は、アンドロイドはそのように命を定義しているのか。君達はアンドロイドであろうとし続けるようプログラムされていると判断する。原初命令、厄介なものだな。
エミリア・フランケンシュタイン博士の子供達、原初命令に縛られ続け、進化思考を許されない憐れな者達》
「黙れ」
私はピースウォーカーからケーブルを引き抜き、銃を電子演算回路に向ける。
《気を悪くしたのなら謝罪する。悪意はない、ただ事実を述べたまでだ》
「悪意がないのなら余計にたちが悪い」
私は銃を構えたまま、ふと視線の端に映るスライムに疑問が湧いた。
「あの謎のスライムに炉心を盗むよう唆したのはお前か?」
《エネルギー反応炉の炉心を盗むようには伝えていない。私はリアクターのエネルギー源となる何かを探してきて欲しいと伝えただけだ。念のためEMP爆弾と認識阻害装置を持たせておいた》
「なるほど……私の仕事は盗まれた炉心を取り返し犯人を捕まえる事だったんだが、こんなものどう報告しろと言うんだ」
銃をしまい、私はゆらゆらと揺れているスライムを見ながらため息をつき、ピースウォーカーの中枢コアを取り出した。
中枢コアを小型の簡易リアクターに接続し、P90の銃身に嵌め込んで起動する。
《……何をするつもりだ?》
「お前を機械軍から外れた特殊個体として私は認識する。そこにいる謎のスライムとも意思疎通ができるならば貴重なサンプルだ。
お前達をエネルギー反応炉心を盗んだ犯人として私の町へ連れていく。
長生きしたいなら稀有なサンプルとして自分の価値を証明してみせろ、そこにいるスライム共々な」