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第6話 最後までからかわれる

 結局寝る事はできなかった。


 佳奈の寝息が隣から聞こえてくるという苦悶の時間。理性との戦い。俺が寝ている時に変なことをしていないかという心配。

 別の事を考えようとも佳奈のことがちらつくから、寝れない。


 しかし、一時間経った頃、佳奈が起き上がった。

 そのまま京香の部屋に戻ってほしかったが、佳奈は声をかけてくる。


「……お兄さん、寝た?」


 そう聞かれても俺は答えなかった。起きていたが寝たふりをしたのだ。


 今答えようが答えまいが、あとでからかわれることは目に見えている。それでも今は寡黙を貫いた方が都合いい。変に誤解されたり、からかうための材料にされたりするかもしれないし。


 俺が何も言わずに壁を向いていると、佳奈は小さい溜め息をついた。


「はあ……。つまんないの」


 佳奈は吐き捨てるように言ってからベッドから離れた。ドアに向かって行く足音。そのままドアが開かれ、閉まる音が部屋に響く。


 ようやく解放された。しかし、未だに心臓はバクバクしている。


 つまんないって言われても仕方ないかもしれない。けど、隣に女の子いたら普通何も出来ないだろ!?


 俺は声に出したい気持ちを抑えて、なんとか心の中に留めた。


 もちろん、この後も寝れなかった。

 目を閉じて何も考えようにしたが、無理なものは無理。いつもより早起きだったが、寝た時間のせいにして自分を納得させた。


 それでも、佳奈を見るたびに頭を過ぎる佳奈の寝顔。

 朝起きて廊下ですれ違った時も。朝ご飯を食べている時も。洗い物をしている時も。


 そして、今も。


「京香ちゃん。お泊りさせてくれてありがとね」


「いいよー。私も楽しかったし」


 俺と京香は佳奈を送るために玄関に来ている。ようやく俺にとって地獄の三日間が終わりを迎えようとしていた。


 パンツから始まって朝は添い寝。貴重な休みなのに疲れが取れた気がしない。それでも、京香と佳奈が二人そろって楽しかったと言えるならそれでいいのかもしれないな。


 昔から変わらない佳奈の無邪気さ。俺もそんな佳奈に楽しませてもらっている。反応に困ることはあっても嫌な気持ちにはなっていない。からかい方のクセはどうにかしてほしいけど。


「あ、お兄さん。ちょっと来て。お礼言いたいから」


「いや、ここでいいだろ」


「靴履いちゃったから行けなーい」


「ったく……」


 俺は言われた通りに佳奈に近づいた。何を企んでいるかわからないが、京香の前では何もしないという自分調べの研究結果がある。少なくともパンツは出てこないはずだ。


 そのまま佳奈の前に立つと、ちょいちょいと右手で手招きされた。


 小さい声じゃないと言えないことなのか。俺は怪しさを感じつつも左耳を佳奈の顔に近づける。


「お兄さん。ありがとね。朝のことも」


「ちょ……!?」


 俺は忘れていた。これは朝に起きたことと似ている。寝ぼけていた佳奈の甘い声と漏れた息が左耳にかかっていたことだ。


「ふふ。やっぱりお兄さんは変態だね」


「なんでそうなるんだよ!?」


「顔、赤いよ。それと左耳もね」


「この野郎……!」


「え、なに。また兄ちゃん変なことしたの?」


「ううん。お兄さん()何もしてないよ」


「そ、そうなの?」


「それじゃ、お邪魔しましたー」


 佳奈は逃げるように玄関から去っていった。

 その間、京香は頭に疑問符を浮かべたまま、俺は左耳に手当てながら手を振った。


 まだ左耳が熱い。まったく、最後の最後にやってくれたな……。

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