短編 39 小学生の妊活実習
妊活って流行ってるよねー。
よし! サーモンも波に乗ってみっか!
そしたらこうなった。
この年。政府の方針で、とある法案が可決された。
「妊活促進法」
とち狂った法案だが実際に審議を経て通った真っ当……かどうかは疑問の余地が残る法案である。
少子高齢化が止まらない昨今。これが少子高齢化に対する政府の答えであった。
この法案の対象となるのは、なんと小学生である。
小学生の児童。この子達に妊活がどういうものかを教えて早いとこ少子化を乗り切ろう、そういう法案だったのだ。
小学校の一年生から子供達は性教育は勿論、子育ての苦悩や出産に掛かる費用、果ては義理の親との付き合い方も学んでいくことになる。
そんなわけで。
今日も小学4年生の妊活実習授業は修羅場と化していた。
「私のお腹には彼の子供がいるんだもん! 奥さんと離婚して私と結婚してよ! もしくは慰謝料と養育費をよこせー!」
「あなたは何を言ってるのかしら? そのお腹の子供が真実私の夫の子かどうか、きっちり検査させてもらいますからね! 私の知り合いの病院で!」
「な、なんだと!? そ、それは……ほら、プライバシーの問題とかさ?」
「あなたにやましいところが無いのであれば……妊娠検査薬を使いましょうか?」
「けっ! 覚えてやがれー!」
こんな妊活実習が日本各地で行われることになった。
ノリノリなのは女の子達である。4年生ともなると演技が演技に見えてこないくらいに妊活実習に全ての女児が馴染んでいた。
一方男の子達はと言うと。
「へっへーい。僕の可愛い子猫ちゅわーん。僕の愛でこの国を盛り上げて行こうぜぇ? レッツ子作り!」
「……どう思う?」
「んー……八点」
「私は嫌いじゃないなー。二十二点」
「私は論外で」
「……結論として赤点でーす!」
「そんなバカなぁぁぁぁ!」
4年生だと男性からのアプローチも学習指導要綱に盛り込まれている。
しかしその見本や解説を担当した者があまりにも使えねぇ奴だった為に男子はいつまでも奮わずにいた。
何せ政府の主導である。ここに噛んできた政治家も沢山居た。裏を返せば『こんなんが国の政治を担っていたから国は衰退した』と誰もが痛感することになった。
子猫ちゅわーんの下りは現役総理の決め台詞だったと言う。
当然の帰結として当時の政権は交代した。
それから幾度も勃興を繰り返しては迷走する政府であったが『妊活促進法』はいつの時代も何故か健在であった。
そしてしばらく時代が経て。小学4年生の『妊活実習』はこうなっていた。
「ふふっ。君……良いお尻してるじゃないか」
「ふふっ……君の方こそ、こんなにご立派なソードを学校に持ってくるなんて……いけない子だ」
男子の妊活実習はベクトルを変えて超進化していた。
「……良いっ! すごく良いわ! これなら八十点は堅いわ!」
「……うーん。ソードじゃなくてナイフだよね。六十点」
「キャラが被ってるので四十点」
「結論として六十点でーす」
「いぇーい! これで補習はクリアだぜー!」
「あー、気持ち悪かった」
変態の国、ジャポン。
こうなるのも当然であった。
しかしこの大きな変化により若い世代の出生率は微増した。
これに加えて男性にも子供が産める技術がジャポンで開発された。
ぶっちゃけ人体改造だが世論はそれを是とした。
そしてそれが普及して二十年後の婚活実習はこうなっていた。
今回は小学一年生の実習である。
「まーくん! 私の赤ちゃんは元気かね!」
「うん! みかちゃんの赤ちゃんは元気だよー」
「あーもう! まーくんがかわいいぃぃぃぃ!」
「ふにぇぇぇ! 赤ちゃんがつぶれちゃうよぉぉぉぉ」
最早性別など意味はない。幸せであればそれで良い。世界はそう変容していた。
女だから、男だからと主張するものは既に無い。
流石に小学一年生では妊娠しないが男の子のお腹にはぬいぐるみが入れられている。
産み育む喜びを。
男がそれを知ることで世界は平和に近付いた。
無論そんなことで世界全体が平和になるわけでもない。でも馬鹿な紛争は確かに減ったのだ。
戦は人を殺す。
大切な子供を殺す。
自分達が子供を産むようになって、それがどれだけ辛い事なのかを男達はようやく理解したのだ。
男も孕む世界。それは男も女も関係無く幸せになれる世界だった。
だがしかし。
だかしかしである。
「みかちゃんの赤ちゃんの方がきっとかわいいとおもうんだけど」
「だめー! まーくんが産むことに意味があるの! 成人したらすぐに産むのよー!」
「……むー」
悩むまーくん、成人まであと三年である。
変態の国、ジャポン。
ここだけは滅んだ方が世界の為だったのかも知れない。
今回の感想。
今回は傑作だと思います。