8話 隠し味に愛があるのか?愛が隠し味なのか?
「豚骨……」
俺の名前は山形次郎、41歳。至って思い込みの激しいサラリーマンで、男で日本人で人間で、生娘で貴族令嬢だった。
そうそれは……全部過去の俺だ。
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よっ、みんな。ちゃんと考えずに感じているか?直感に従って人生を満喫しながら謳歌してるか?
俺は相変わらず、こっちの世界でコイツの身体の中にいる。状況は何にも変わっちゃいねぇ。
俺がコイツの身体に入ってから、4ヶ月くらい経った。その間に思った事だが、こっちの世界には季節ってモンが無いのかもしんねぇ。
寒くも暑くもない過ごしやすい気候ってヤツだ。海が無ぇから季節も無ぇのかもな?知らねぇけど……。
そう考えると日本人だった頃の夏は暑過ぎたし、冬は寒過ぎたから、過ごしやすさで言えば段違いだ。でもな、そんな日本が懐かしい気もする今日この頃ってヤツだ。
だけど、住めば都って言うだろ?懐かしんでてもホームシックじゃねぇから、そこんトコは宜しく頼むぜ。
何を宜しくするのかは、勝手に決めてくれればいいさ。
おっと、話しが逸れちまった。直感で話しを進めてると脱線が激しくて困るな……。まぁ、それでもいいか!直感だもんな。
さて、あれから4ヶ月経って、日本人の心が宿る究極の出汁ラーメンスープに関する進捗はって言うとだな……。
実はなぁんにも進んでねぇ。タスク?そんなモンは無ぇ。マスト?なんだそりゃ、帆船か何かか?
要するにだな、俺はダンジョンに潜れなくなっちまったんだ。だから、切り身の調査も出汁の研究も何もかんも進んでねぇのさ。
なんでダンジョンに潜れないかだって?それは、俺がミルゼハイン公爵家の令嬢だからってだけじゃなくてだな、実は俺、王位継承権ってのを持ってたらしい。
ただ、順番が14番目くらいらしいから、どうでもいいっちゃどうでもいい。
更に言えば、俺は王位になんざ就きたいとは思ってねぇ。だって、考えてもみろよ?俺はただのサラリーマンだった男で政治家でもなんでもねぇ。
しかもサラリーマンって言っても、企業勤めのトラック野郎だぜ?そんな俺が王位もらったら、どんな政治すりゃいいかなんて見当も付かねぇだろ……。
まぁだから、俺はおっさんに「王位継承権なんざいらねぇから、ダンジョンに入らせてくれ」って言ったんだが、そしたらムキになって怒ってやがった。
自分の子供を自分が敷いたレールの上に乗っけて、そんなに歩かせたいモンかね?俺には良く分からねぇ心境だよ。
結局俺はあれから何回もダンジョンに行ったんだが、その度に衛兵に捕まってそのまま家に送還されるってのを繰り返した挙句、とうとう家から外に出る事も出来なくなっちまったのさ。ヤレヤレだろ?
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「まま、起きて。うち、お腹空いた。まま、ご飯ちょうだい?」
「豚骨……俺は眠い……もう少しだけ寝かせて……Zzz」
「むぅ。うちお腹空いたぁ。ご飯ご飯ご飯ーーッ!!」
「Zzz……」
「いいもんいいもん!勝手にままを食べるからいいもんッ!!」
ずるッ
ずりゅッ
「えへへ、いただきまぁす」
豚骨の朝は早い。ダンジョンに入れない俺の代わりに豚骨が潜ってくれているからだ。
おいおい、あんな幼女を危険なダンジョンに潜らせているのかって?いやいや、幼女だった頃の豚骨はもういないんだよ、これが……。
この4ヶ月で、豚骨の身長は、俺を超えて頭2つ弱分くらい大きくなったから、俺が今は見下ろされている。さらに言えば、発育も良くてホルスタインも青褪めるくらいになっちまった。
流石にレッドオークって牛だったんだなって思うくらいだ。いくら食欲が旺盛だからって育ち過ぎだと俺は思う。身体は大人、頭脳は子供って……ヤベぇだろ!
だが、問題はそこじゃねぇ。
んでもって、その豚骨が朝も早くから騒いでた「食べる」って言うのは、言わなくても分かると思うが、「食事」の事だ。
この世界の食事の方法は全部で三種類あるらしい。一つ目は誰でも分かる食事だ。物を食べる。これが全てで、何も考える必要は無ぇ、分かり易く言って栄養補給だ。ファイト一発ってヤツだな。
まぁ、これを経口摂取とかって言ってた。
俺達が口から食べた物は、消化されるとウドだかオドだかに変わるらしい。要するにそれがエネルギーや身体を造る素になるんだってさ。だから、物を食べなくても、エドだかオドだかがあればエネルギーは補給されるって事だ。
要するに口から食べるってのは、栄養点滴みたいなモンだな。でも、点滴と違うのは消化出来ないモンもあるって事だ。それがどっから出て来るかは言わなくても分かるだろ?
二つ目に粘膜摂取とかって言われた。意味分かんねぇよな?だから、要するに子作りする感じで乳繰り合うと栄養補給出来るらしい。これもまたファイト一発だな。
だがこの場合、腹ヘリ具合いは平準化されるとか言ってたわ。要するにこれは何かの物を食べるんじゃなくて、アドだかオドだとか言うのを分け合う行為になるとかなんとか。
んでもって、これも栄養補給になるから「食事」って訳だ。
最後の三つ目が、体液摂取とかって言ってた。ここまで言えば細かい事を言わなくても分かるよな……?流石に41歳にもなって、こんな解説したか無ぇ。察してくれ。
だから、ファイト一発も無しだ。
でもま、粘膜摂取と体液摂取は、ある種の契約が結ばれて無ぇと駄目らしいから、そこら辺のヤツを捕まえても無理って事だ。
まぁそれやったら、犯罪だしな。それで栄養補給が成立してたら、性欲の塊なヤツらが大喜びになっちまうし、そんな野生の獣みてぇなのは駄目ってこったな!
俺達は猿じゃねぇし人間だから……いや、この身体はハーフオークだったな。
で、結局のところ豚骨は朝になって腹ヘリが過ぎると、俺の服を全部脱がしてあっちこっち舐め回すだけ舐め回して、俺の体液を啜るという暴挙に出る。
まぁ、男の俺からすると、思ってた以上に女の身体って気持ちいいんだなとか思ったりもしたし、俺は年齢的にもう性欲は無いと思ってたんだが、コイツの身体が若いからか豚骨の食欲でもう完全に調教されちまってて、溢れ出すと止まらなくなるってのが分かった。
まぁ若いってのは凄いね。
ってか、身体が気持ち良くなるって事は俺からしても気持ちいいって事に変わりは無ぇんだが、朝っぱらから一体何をやってんだろうな?
一応、家の中には俺達以外にも住んでるから、流石に大きな声を出すべきじゃねぇ事は分かってる。朝っぱらからお盛んなんて思われたくねぇし、当然だろ?
「うん、お腹いっぱい、まま、ご馳走さま」
「豚骨に朝から4回もイかされちまった……。まったく、コイツはまだ処女だった筈なのに、開発済みって知ったら男はドン引きだろうな……。でもま、俺は他の男のムスコなんて見たく無ぇから、それはそれでアリっちゃアリ……なのか?」
こうして、俺をたらふく食べた豚骨は意気揚々と装備品を身に着けていく。
豚骨の話しだと、5の倍数の階の最奥にはボス部屋みたいなのがあるらしい。ボスってのが俺にはピンと来ねぇが、要するに係長とか課長みたいなのがいるって事だろ?で、ソイツを倒すとお宝が1回だけ手に入るんだそうだ。
そしてそれは、係長や課長のハゲ隠しのヅラとかじゃなくて、れっきとしてちゃんとしたお宝らしい。
ちなみに豚骨は5階のボス部屋で、大振りの石頭ハンマーを、10階のボス部屋で、下半身用の装備品を拾ったらしい。
更に言えば、豚骨は現在、13階まで到達してるらしいが、その階までに拾った切り身の中に、鰹や鯖なんかは無かったから、俺が欲しい出汁は取れなかった。
おっとまた脱線しちまった……直感で話すとやっぱり話しが逸れまくるな……。
でな、俺が言いたいのは……ボスを倒すと手に入る装備品は、本人専用になるらしいって事だ。だから豚骨の装備品を俺が着けようと思って試してみたんだが、重過ぎて持ち上げる事も出来なかった。
でもさ、よく考えてもみてくれよ?武器と下半身用の装備だけだと、上半身とか腕とかは装備してない事になるだろ?流石に半裸じゃ、ダンジョンに行かせられない事くらいは分かるよな?
それじゃ露出狂が過ぎるってモンだ。
だから、胸当てくらいは……と、おっさんに言って用意してもらって、それを豚骨に着せてるんだが……日に日に成長するホルスタインは、その胸当てじゃもう小さ過ぎる様子だ。
それに、ホルスタインがホルスタイン過ぎて着れる服も無ぇときたモンだ。ただ、どこまで大きくなるのか分からねぇから、買うに買えなくて困ってるし、そもそも俺は外に出られねぇ……。
豚骨ホルスタインは、上からも下からも横からもはみ出る所か溢れ出してるから、もう胸当てって呼べない気もするんだよ……。でも、無いよりはマシだから早く新たな課長を倒して、上半身用の装備が手に入る事を俺は望んでいるさ。
じゃねぇと、流石に目のやり場に困るわ。外見は大人でも中身は幼女だから、見てても豚骨は気にしねぇかもしれねぇが、なんか犯罪者ッぽくて俺の気が引ける。
とは言っても、いつも朝はそのホルスタインが顔面アイアンクロー並の破壊力で、俺の息の根を止めようと必死なんだけどな。
ほんッと、若いってのはいいねぇ。俺ももう少し若かったら、あーんな事やこーんな事で楽しめたのかなぁ?
ん?破廉恥な事は何一つ想像して無ぇから、そこんトコは宜しく頼むぜ。流石に娘みたいなヤツとそんな事はしないだろ?俺はいつも一方的に襲われてるけどな。
まぁ重度のマザコンとでも思ってるから大丈夫だ、問題無い。気持ちいいとか、イかされたってのは、言葉のアヤだ。考えちゃいけねぇ、感じるんだ。
って、そっちの「感じる」じゃねぇ!
それにさ、娘とやる事って言ったらアレだろ?公園行ってブランコ乗ったり、家でトランプしたり……って、アレ?俺、娘と接した経験が無い……な。ま、まぁ、うん……なんか悲しくなって来たよ……。
と、まぁそんな感じで遅々たる速度だが、究極のラーメンスープに向けて一歩一歩、豚骨の牛歩に乗っかって邁進してる訳だ。
ってかそう考えると豚骨って牛だったのかなってやっぱり思うよな?ホルスタインよりもホルスタインだしな……うんうん。