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7話 7つ目の食材は母なる海の恵み……塩だ

挿絵(By みてみん)




「うちのおっぱいを……」


 うちの名前はとんこっつ、産まれてから少し経ったレッドオークだよ。

 ままに助けて貰って、ままに名前を付けて貰って、凄く幸せなの。

 だからずっとず〜っと、ままと一緒にいるの。



-・-・-・-・-・-・-



「クレア……そ、その剣を、パパの部屋から持って来たのかい?」


「勝手に持ち出しちまって悪いとは思ってる。だけど、武器が必要だったんだ。許してくれよなッ!」


「い、いや……それは別に構わないんだけど……その剣は飾りだよ?」


「ふぁッ?!」


「よく刃の潰してある飾りの剣で、あそこまでモンスターを倒せたモンだって、パパは今……凄く驚いてるよ」


 飾り?飾りだって?いやいやいや、もう一つおまけにいやいや……だってさ考えてもみろよ?飾りの剣であんなにスパスパ三枚におろせるモンかよな?

 なぁ……子供用のおもちゃの包丁じゃ魚も肉も切れねぇだろ?それだったら、おもちゃの包丁で殺人事件が起きちまうだろ?可怪し過ぎんだろうがッ!



「クレアリス、貴女……そんな魔術をどこで覚えて来たの?」


「ふぁあッ?!」


 魔術だってよ!聞いたか?ここは日本とか世界にあるネズミー達の王国みたいに、剣と魔法と夢と希望を金で買うような世界だってのか?

 ——ん?日本で本物の剣を金で買ったら銃刀法違反で捕まっちまうから、飽くまでも比喩表現だぞ。だから本気にするなよ?

 それに……本人の欲しがってる夢と希望を、金で売ってあげるのもダメだろ……それくらいは分かるよな?でも、大人の事情ってヤツがあるから、全否定だけは出来ねぇんだ……悪りぃな。



「ほら、クレアリス。モンスターはいなくなったんだから、その魔術を解きなさい。いつまでもそんな状態じゃ、危なっかしくて包丁も握れなくなりますよ?」


「い、いやぁ、どうやって解くのか知らないんだけど……それにそんな魔術を自分で掛けた自覚もないし……」


「魔術は掛けた本人しか解く事が出来無いのは知ってるでしょ?なんで掛けられたのに解けないの?」


「それは、俺が聞きたいくらいで……」


 俺は母豚から魔術の解き方を聞く事にした。だが、聞いた方法をいくら試しても駄目だった……らしい。ってか、そもそも俺には魔術ってヤツの自覚が無ぇから、解けたのかどうかは分からねぇ。そこで、解けたかどうだか確認してもらうって方法を採用したんだが、自力で解くのは不可能だったみてぇって事だ。

 そもそも目に見えねぇモンをどうやって見てんのか、不思議な事ばっかりで、悩ましいったらありゃしねぇよ……。



 ちなみに母豚が言うには、俺は無属性の高等魔術・自動戦闘(オートバトル)ってのが掛かりっぱなしになってるらしい。

 まぁ、詳しい事は分からねぇが、使用可能武器ってのを手に持ってる時に殺気を感じると、勝手に戦闘してくれるらしいぜ。

 これって便利だよな?


 でもってそれは、体内にある変な力……アドだかウドだかオドだかって言うのが切れるか、周囲から殺気がなくなるまで勝手に継続されるらしい。

 やっぱり魔術ってのは、よく分からないね。


 まぁ、そんなこんなでその魔術の力があったから俺は、飾りの剣でもモンスターと闘えてたって訳さ。飾りの剣でスパスパ出来た理由もそのオートなんとかのお陰なのかね?



「なぁ、パパさん、ちょっと聞きたいんだが……いいか?」


「どうしたんだい、クレア?」


「なんで魚の切り身が落ちてるんだ……?なんでモンスターを倒すと魚の切り身が現れるのか教えてくれないか?」


「魚のキリミ?何を言ってるんだい?モンスターが落としていくアレは、魚じゃないよ?それにキリミってなんだい?そもそもあんな姿の魚はいないだろう?」


「魚を切り分けた身だから切り身だ。あれはその切り身じゃないのか?」


「アレは、モンスター達の力の結晶だよ?流石に力の結晶だから、魚みたいに食べる事は出来ないよ?そして、何より触ると手に凄く嫌な臭いが残るから皆触るのすら嫌がるんだ。それにしてもやっぱり、クレアは食いしん坊のまんまなんだねぇ。うんうん、元気いっぱいたくさん食べて、立派なレディになってくれされすれば、パパは何も言わないよ」


 俺はおっさんが言った事が信じられなかった。確かにアレは魚の切り身に間違いねぇ。ダンジョンに入る前に触った時のあの感触、あれは確かに魚の筋肉の弾力だった。そして、触った後に手に残るあの生臭さ……。

 あの切り身を持ち帰って調べてみねぇと本物かどうかは分からねぇけど、もしあれが日本のスーパーで売られていた魚の切り身と同じ物なら……海魚から取ろうと考えていた究極のラーメンスープの出汁についてはクリア出来そうな予感がしていた。




 俺が無双して周辺のモンスターはいなくなったが、時間を追うごとに再び現れ、それから暫くの間、モンスター達との戦闘は続いた。

 だが俺は飾りの剣を没収され、数人の兵士を護衛に付けられ豚骨(トンコッツ)共々家に送還されちまったんだ。


 ちなみに、豚骨(トンコッツ)が背負ってた荷物の中にあった食料は全部、おっさんに差し入れしといた。だから、その代わりに今、豚骨(トンコッツ)が背負ってる荷物の中には大量の魚の切り身が入ってる。

 くっくっくっ、俺がしたい事が分かるだろ?




 家に送還された俺は家に着くなり、真っ先にキッチンに向かう事にした。そして先ず、魚の切り身を1つ1つ綺麗に洗っていく。

 地面に落ちてたのを拾った訳で、洗うのは当然だろ?


 そして、洗い終わった切り身を見て、俺は考え事をしてた。なんでかって?そりゃあ、包丁を握っても殺気がなけりゃ、自動戦闘(オートバトル)する事はないらしいけど……それが自分に向けられた殺気じゃなくても発動するって教わったからなんだ……。

 で、結局俺は、流石に尻込みしたんだよ。


 なんでかって?例えばだよ?家の中に“G”が湧いて使用人達がそれに殺気立ったら俺が使用人と闘う事になっちまうだろ?だからさ……。

 流石にこの数日で色々話しを聞かせて貰った使用人達を自分の手で殺したりしたら、寝覚めが悪過ぎるとは思わないか?俺は今まで自分の手を汚した事は無ぇし、仲良くなったヤツで自分の手を汚したくはねぇよ!

 ちなみに……誰かに汚させた事も無ぇから、補足しとくぜ。


 だから正直な気持ちで言えば危なっかしそうで嫌だったんだが、背に腹は替えられねぇって言うから、切り身を捌くのは豚骨(トンコッツ)に任せる事にした。

 でもま、所詮相手は切り身だ。丸の魚と違って、そこまで切る場所も無ぇから、教えるのは簡単だった。

 そして切った後は焼くだけだ。焼くだけなら俺にも出来る。



 焼くと身から出た脂が「じゅわッ」と音を立て、魚の焼ける香ばしい匂いがキッチンに充満していく。それはこのクレアの身体になってから初めて感じた日本食の匂いだった。

 正直、食欲を唆られたぜ。そして、食欲を唆られたのは、どうやら俺だけじゃなかった様子だ。



「まま、これ食べられる?うち、食べていい?」


「食べたいのか?」


「うん!うちお腹空いたからご飯欲しい。まま、うちのおっぱい吸わせてあげるから、ご飯ちょうだい?」


ぱさッ


 おいおい、豚骨(トンコッツ)よ……「お腹が空くと服を脱ぐのをやめなさい」って、俺は本気で言いたくなった。再三繰り返すが、俺に幼女趣味は無ぇ。

 だが、豚骨(トンコッツ)は服を脱いで全裸になり、自分の控えめな双丘を下から持ち上げるように掴んで俺に見せ付けると、俺に向かって「おいでおいで」していた。

 そういや、上にも下にも肌着や下着なんかを着せてなかった事を改めて気付かされた俺は、かなり後悔したよ……。

 全く、キッチンに全裸の幼女ってどんな絵面だよな?趣味を疑っちまうよ……。


 それに流石にだよ?こんな状況を使用人に見られでもしたら、変な噂が立っちまうのは間違い無ぇし、性犯罪者を見るような目でこれから一生見られる事も間違いが無ぇだろう。

 後ろ指を指されるかもしれねぇ。そしたら剣山に座らされてるようなモンだろ?ん?針のムシロだったか?

 そういやムシロって日本じゃあんまり見掛けねぇ気がするんだが……ってそんな事はどうでもいい。

 それに何より、それを人は黒歴史って言うんだっけか?そんなのを俺は作りたくもねぇ。今、俺が作りたいのは、究極のラーメンスープだけだッ!



豚骨(トンコッツ)、服は誰かが来るかもしれない場所で脱いだら駄目だぞ。だから、ちゃんと着ていなさい」


「でも、それだと、うち……ご飯貰えない。ままにおっぱいを吸わせてあげないとご飯貰えない……うえぇぇん」


 どんな会話だよ。どんなプレイだよ。そんなプレイをした事、日本で生きてた時に一回も無ぇよ。そもそも、妻ともしなかったわッ!

 って、そうじゃねぇ、そんな事が言いたいんじゃねぇ。俺の性癖晒してどうすんだよッ!まったく、調子が狂いっぱなしだぜ……。はぁ……。



豚骨(トンコッツ)は良い子だからちゃんと出来るよな?ちゃんと一人で服を着られるよな?だから、ちゃんと服を一人で着られたらご褒美でご飯あげるから、泣いてないでちゃんと服を着ような?」


ぱあぁぁぁぁ


 こうして豚骨(トンコッツ)の表情は明るくなっていった。俺は正直安心したよ。

 でもそしたら、豚骨(トンコッツ)は服を着る度にご飯を貰えると勘違いしていそうだが、それはそれ。これはこれだ。気にしない気にしない。気にしたら負けだ。




「まま、美味しいよ!焼いた魚、美味しい!」


「へぇ、どれどれ?」


ぱくッ


「あぁ、普通の焼き鮭だな。でも、何かが足りねぇ。なんだ?一体何が……そうか。塩加減が全く無ぇんだ」


 兎にも角にもダンジョンで拾った切り身は、食べられる事が分かった。そしてそれはこの世界じゃ認知されていない海魚に変わりはなかった。

 こうして俺は、出汁を取る為の海魚の入手方法が分かった訳だ。


 いや、待てよ?鰹出汁って、鰹の切り身から取るんだっけか?鯖出汁って、鯖の切り身から取るんだっけか?アゴ出汁……は、分からねぇ。

 でも切り身から取るモンじゃあねぇだろ?だって顎だもんな。切り身に顎は付いてねぇから、どうすればいいのかサッパリ分からねぇけど、まぁいいや。



「鰹出汁は鰹節……だよな?それって切り身からでも出来んのか?もっと調べる必要があるな……。今はまだたくさん切り身があるからいいけ……あれ?あんだけあった切り身がもう……こんだけ?」


 服を一人で着れたご褒美として、豚骨(トンコッツ)はモリモリ捌いて、モリモリ焼いて、モリモリ食べていた。俺が一人で考え事をしてる内に行われた豚骨(トンコッツ)の暴挙に拠って、切り身は残す所、(さけ)(たら)が1枚ずつまで減っていたんだよ……。




 要するにな、ここまでの話しが俺が今までに経験した、コイツ(クレア)の身体を使って成し遂げた事だ。

 んでもって、俺はこれから必死な思いをして、究極のラーメンスープを作る為の準備に取り掛かって行く訳さ。


 まだまだ先は長そうなんだけど、無事に俺の考える究極のラーメンスープが出来上がって、この世界のハーフオーク共の胃袋を掴むのが今から楽しみだぜ。




 ところで、俺が日本にいた頃、なんの仕事をしていたかって?そりゃ決まってるだろ?工事現場に資材を運ぶ、トラックの運転手さ。

 包丁なんて日本にいた頃は持った事も使った事もなかったが、俺はテレビっ子だったからな、そこら辺は出来る筈だ。

 よく調理番組とか嫌ってほど、チラ見してたしな。


 それに俺の直感がちゃんと告げてくれてる。

 考えるな、感じろってね。

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